子供の”かんしゃく”にどう対処するべきか「応用行動分析(ABA)とは」 ~発達障害にも対応する心理学に基づく行動療法

子供の”かんしゃく”にどう対処するべきか「応用行動分析(ABA)とは」 ~発達障害にも対応する心理学に基づく行動療法

今回は、応用行動分析(ABA)と呼ばれる行動療法についてご紹介したいと思います。普通の教科書に書いてあることではなく、考え方を中心に書かせていただきます。

なお、読者としては、お子様向けの行動療法に関心をお持ちの方を想定しています。また、これをお読みになった後、市販のテキストを読むと、よりスムーズに理解できることを狙っています。

ABAの基本的な考え方

応用行動分析学、通称「ABA」(Applied Behavior Analysis)は、人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、実社会の問題の解決に応用していく手法のことで、心理学者のスキナー(1904年~1990年)の「行動主義」と呼ばれる思想がベースになっています。

「実社会の問題の解決に・・・」とあるように、実践的であることを重視しており効果の期待できる方法です。発達障害に対するセラピーとしての活用が良く知られていますが、他の分野、例えば子育て、健康管理、エイズ予防等、幅広く使われて実際に成果を上げています。

「人間の行動を個人と環境の総合作用の枠組みの中で・・・」、という先の説明だけでは何のことか分かりませんが、「人間の行動」を環境との相互作用で説明する背景には、「心」や「精神」、「個人の意志」といったものを説明要因としてはあえて切り捨てているという事情が隠れています。

ただし、「心」や「精神」、「個人の意志」の存在を否定しているわけではありません。「心」や「精神」、「個人の意志」を行動の原因、つまり行動を「説明するもの」ではなく、それらも環境要因によって「説明される」行動の一つとして捉えているのです。

人間の行動を環境だけで一元的に説明しようとすると、「創造性」や「複雑な学習過程」等、当然ながら説明しきれないことも多くあり批判もされています。しかし、環境要因で説明できることがかなりあることも事実であり、そこに注目することで見えてくるものもあります。

食べ過ぎや、悪い癖がやめられない時に、「意志の弱さ」を改善しようとするよりも、食べ物を買い置きしない等、「環境」を改める方が理にかなっている、と言われると、何となく納得できるのではないでしょうか。

パブロフのイヌとスキナーのネズミ

スキナーの考え方を理解するために、もう少し踏み込んでみてみましょう。

パブロフが発見した「条件反射」は、実験室のイヌが、メトロノームやベルの音を聞いただけで唾液が出るというものでした。本来、食べ物が口に入った時に唾液出るというのは、生まれながらの生理現象ですが、食べ物が口に入ってなくても、訓練や経験によっても唾液が出るようになるという現象です。

パブロフは、イヌの口の中がからっぽなのに唾液が出る理由を、イヌが食べ物のことを思い出すからだろうと考えて、この唾液の反応を当初「精神分泌」と呼んでいました。しかし、実験を繰り返すうちに、「音」を聞くだけで唾液が出ることを突き止めて「条件反射」と呼ぶようになりました。唾液が出るのは、精神現象ではなく、エサが出る前に音が鳴るという環境の変化によるものでした。

つまり、パブロフが「精神」的な説明に逃げずに、イヌの唾液分泌の原因を具体的な実験環境に求め続けたために「条件反射」現象は発見されたというわけですね。

パブロフが発見したのは、生まれながらの生理的な反応(唾液分泌)が対象ですが、スキナーはさらに、レバーを押すというような自発的行動も、訓練や経験によって学習されることを動物実験によって明らかにしました。

スキナーボックスという有名なネズミの実験装置があるのですが、ブザーが鳴った時に限り、ネズミがレバーを押すと直ぐにエサが出てくる仕組みです。この中に入れられた腹を空かせたネズミは、ブザーが鳴ると自発的にレバーを押すようになります。

この行動を「オペラント行動」、この行動が継続して現れるようになることを「オペラント条件付け」と呼びます。

人の行動を理解するにあたり、心や精神による説明は役に立たないと考えたスキナーは、環境要因に関心を集中し、オペラント条件付け理論を人にも当てはめて考えます。応用行動分析(ABA)の根底には、このオペラント条件付け理論が存在するのです。

ABAの基礎~人間行動4つの原理

先にみたように、ABAの根底には、「オペラント条件付け」の考え方が存在しています。具体的に見てゆきましょう。

①「弁別刺激」~ブザー音

例えば、お母さんが「ごはんよ」と呼びかけて、子供が2Fから降りてくる行動をした場合、行動の引き金になったこの呼びかけを「弁別刺激」と呼びます。これはスキナーボックスのブザーにあたります。

②「強化」~エサ

お母さんの「ごはんよ」の呼びかけに対して、子供が自室から出てくる行動を導いて、ご飯を食べて空腹が満たされたとします。子供は、この経験から、呼びかけに対して応じることになりますが、空腹を満たされる経験が多くなるほどに、呼びかけに応じるという行動発生の可能性は高くなります。この経験を「強化」、ご飯を「強化子」と呼びます。これはスキナーボックスのエサにあたります。

おやつを減らしてお腹が空いていればより行動は強化されやすいでしょう。このおやつを減らすことを「動機付け操作」と呼びます。スキナーボックスでネズミを空腹状態にしておくことが該当します。

③「消去」~エサが出ない→行動が消去される

もし、お母さんが、どうせ子供はすぐには出てこないからと、ご飯ができ上がる前に「ご飯よ」と呼びかけてしまい、都合が悪いことに呼びかけた後直ぐに子供が自室から出てきてしまった場合、子供はこの経験から、今後呼びかけには応じなくなる可能性が高くなります。こうした行動の可能性を減らすことを「消去」と呼びます。「ご飯」という強化子が撤去されることで発生じたわけですが、スキナーボックスで、レバーを押してもエサが出ないことが続けば、いずれネズミはレバーを押さなくなってしまうことが該当します。

(消去バースト)~一エサをもらおうと行動が一時的に激しくなる

「かんしゃく」を起こす子供への対応について考えます。かんしゃくを起こすと、親にかまってもらえることから、子供のかんしゃく行動が強化されている場合を例にとります。対応として、強化子の撤去、つまり親はその子供をかまわずに無視し続けて、かんしゃく行動が収まったとします。先にみた通りこれは消去に該当しますが、消去に対応して親の関心を引こうとして、子供のかんしゃくが一時的にひどくなることがあります。これが消去バーストと呼ばれるものですが、ここでかまってしまうと元に戻ってしまうので注意が必要です。

④「罰」

子供を褒めることが「強化子」であるとすると、叱ることは「罰」になります。不快を与えて行動を減らす場合の、この不快のことを「罰」と呼びます。廊下に立たせるという積極的な罰や、ゲームを取り上げるという消極的罰等があります。

スキナーは「罰」よりも「強化子」による行動改善が望ましいと考えていましたし、ABAでも罰を積極的に使うことは無いようですが、必要があれば最後の手段として使います。

問題行動を理解する

これまで、ABAの基本的な考え方について見てきましたが、具体的なアプローチ方法について少し見ておきたいと思います。

かんしゃくを起こす子供に対して「消去」で対応した例で考えます。

課題となっている、止めさせたい「行動」は「かんしゃくを起こすこと」です。この行動をオペラント条件付けの考え方をもとに、しっかりと分析することが重要です。そのためには、その行動そのものだけではなく、直前の出来事(弁別刺激)、直後に起きた結果(強化子)を観察し、何が、かんしゃく行動のきっかけとなり、何が強化」しているのかを探って行きます。これをABC分析と呼びます。

(かんしゃくの例)
A (Antecedent)弁別刺激   親がかまってくれない おやつを買ってくれない
B (Behaviort)行動  かんしゃくを起こす
C (consequence)結果/強化子 親がかまってくれた おやつを買ってもらえた

分析した結果、親がかまうこと、おやつを買い与えること、が強化子であることが分かれば、これを撤去して、かんしゃく行動を消去してゆきます。

強化とプロンプト

望ましい行動を身につけさせたいときには、強化子を使います。言われた通りに手を洗えればしっかりと褒めてあげる、といった具合です。しかし、手を洗う行動そのものが、うまくできなければ強化子も使えません。

そんな時には、親が手を添えて一緒に洗ってあげます。こうした補助のことをプロンプトと呼びます。子供が一人でできるようになるに従って、徐々にプロンプトは減らしてゆきます。

プロンプトだけでなく、子供にとってその作業が難し過ぎるのであれば、簡単にしてみるという方法もあります。

バックワード・チェイニング

少し複雑な作業を身に付けさせたい時に、単純なプロンプトだけでは難しい場合、作業全体を細かいステップに分けて考える方法があります。まず、作業の全行程をプロンプトしながら子供にやらせます。次に、最後のステップだけプロンプトを外し、子供一人でできるようにし、できるようになったら、その一つ前のステップもプロンプトを外します。そんな風に、同様の対応を続けて、最後には子供一人でできるように訓練してゆくのです。

例えばパズルであれば、最後のピースを子供にはめさせることから、ズボンを履くのであればズボンに両足を通すところまで手を添えて補助し、最後に立ち上がってズボンを腰まで引き上げるところは子供にやらせます。できるようになったら、作業ステップの後ろの方からプロンプトを外してゆくのです。

まとめ

以上、ABAの考え方と、代表的な手法のいくつかを簡単に見てきました。普段行っている「しつけ」と似てはいますが、効果が認められた明確な手順が用意されているというのは大きなメリットなのではないでしょうか。

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