認知行動療法とは?自動思考、スキーマ、認知の歪みって?


認知行動療法は、精神的に辛いと感じた時に、自らのものの捉え方、考え方を客観的に見つめ直し、よりで現実的で柔軟なものに変えることによって、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。

目次

認知行動療法の認知とは

まずあなたが下記のような状況に出会ったとします。

会社の上司に挨拶をしたとき、返事が得られなかったり、そっけない対応をされた。

その時、あなたはその状況をどのように捉えるでしょうか。ある人は「相手にもされない自分は無能な人間だ」感じるかもしれません。ある人は「部下に挨拶もできないなんて傲慢な上司だ」と怒りに似た感情をもつかもしれません。一方で「忙しそうだったらからしかたないな」と軽く受け流すと考える人もいるかもしれません。

このように人それぞれ違ったもの捉え方のことを「認知」といいます。人間は「認知」というフィルターを通して、物事を思考したり、行動にうつしたりします。認知によって思考がプラスに働けば問題はありませんが、物事の捉え方によってはマイナスの感情が生まれてしまうことがあります。

認知には自動思考とスキーマがある

最初に書いたような上司から望ましい反応を得られなかった時、「自分は無能だ」「そんな上司とは付き合えない」など、とっさに思い浮かぶ思考のことを「自動思考」といいます。生み出される自動思考はひとそれぞれにクセがあり、このクセは考え方の心の奥底ある設計図よって決められるのです。

この心の奥底にある設計図のことをスキーマーと呼びます。スキーマとはいわば個人個人のもつ信念や世界観などに相当するものです。難しい言葉にすると「中核的信念」といいます。スキーマはそれぞれの育った環境や体験によって形作られています。自分のもつ世界観や生まれ育った環境等を振り返ると、自分のスキーマが浮かび上がってきます。

あいさつをされなかった自分は無能だという自動思考に陥りがちな人には「部下は常に有能でなければならない」といったスキーマがあるかもしれません。
    

認知のゆがみ

一番の問題は自動思考やスキーマによって現実には非合理的な「感情」を持ったり「行動」を起こしてしまうことです。上記の例ですと、上司から思ったような挨拶をもらえなかったことで「自分は無能である」と思考すれば悲しみの感情が強く現れ、上司と顔を合わせることを避けてしまうかもしれません。

「傲慢な上司だ」と決めつければ、怒りの感情が現れ、やはり上司との良好なコミュニケーションを継続することは難しくなるでしょう。このような非合理な思考パターンを「認知の歪み」といいます。歪んだ思考パターンを持ち続ければ、あらゆる出来事に対しネガティブな感情が芽生えてしまい、物事の捉え方はますます認知の歪みは極端なっていきます。

うつ傾向の人は認知の歪みによって強い不安感を感じ、それによってさらに現実的ではないもののとらえかたをしてしまいさらに不安を高めるといった悪循環に陥る傾向があるといわれています。

認知のゆがみを客観的にとらえ、別の認知に切り替え行動を変える

認知は、その人自身の物事の捉え方であって、客観的な根拠の裏付けがあるとは限りません。偏った認知にとらわれると物事のある一面しかみることができません。

自分がどのようなスキーマを持っていて、どのような自動思考をしてしまうのかを客観的に知ることができれば物事には自分が行えなかった別の捉え方があることを知ることができ、それまでとは違った行動をとることができます。

例えば上司から挨拶の返答がない時「自分は無能」だという絶望的なとらえかたをしてしまう時、はたして「上司からあいさつの返答がない」こととが「自分が無能」であるという飛躍した結論に結びつく客観的な根拠はどこにあるのか冷静に洗い出してみます。

文字に書き出すことによってその認知が客観的な根拠に乏しいことが理解できるはずです。それとは異なった適応的な思考は他にないだろうかかと考えてみましょう。認知行動療法はいわば思考のストレッチです。

自身の心の奥にあるスキーマにまで踏み込んで部下は上司の前で常に有能である必要が本当にあるのかという根拠を洗い出し見るのもおもしろいかもしれません。洗い出しを続けてゆく中で「部下は常に優秀でなければならない」というスキーマがあるがため「無能」であるというレッテルを貼られること恐れ、日常のあいさつといった上司の些細な反応にまで一喜一憂していた自分の姿を客観的にみることができるかもしれません。

それに対し「部下は世話を焼かれるぐらいがちょうどいいじゃないか」という普段の自分と違う認知があることに気がつけば「優秀な部下」でありつづけることとどちらが現実的で生きやすいかを考え選択することができます。(注:これは筆者の考えたものの捉え方の一例であって、必ずしも現実社会に適応する考えであるとは限りません)

スキーマは長い人生経験のよって時間をかけて形成されるので、すぐに変えることは難しいかもしれません。まずは自分の思考パターンを洗い出し、反応的ではなく冷静に客観的にものごとを捉える訓練が認知行動療法の第一歩です。

認知行動療法のメリット

①治療に薬を必要としない

従来のうつ病等の治療は薬物を使用したものが中心でした。認知行動療法は一切薬を使用しないため副作用がありません。さらに薬を使用した場合と同等の効果がある報告が豊富にあります。

ただしそれまで薬をよる治療を行っていた場合は引き続き服薬と並行して行われる可能性が高いです。

②適応症が数多くある

うつ病のみならずパニック障害、強迫性障害、不眠症やアルコール依存症等様々な病気に対して効果があるとされています。

③自身で困難を乗り越える力が身につく

認知行動療法は、誰かにこう考えるべきと強制されるわけでなく、従来の自分の考え方を客観的に見つめ直し、新たな視点をみつけだすというトレーニング的な側面があります。その力を身につけることによって、病気の治療をすることのみならずそれから先の人生で遭遇する様々な困難を乗り越える力を身につけることができます。  

まとめ

人は認知というフィルターを通じて、感情を生み出し、行動を決めます。認知はその人の主観に基づくものであり現実的なものでないことがあります。認知行動療法は自身の考え方の癖をしることによって別の物事の捉え方ができることを知り、より現実的なものの考え方や行動を行うための治療です。

現実的なものの捉え方ができれば、より楽で生きやすい日常を送ることができるのです。次回は自分の認知の歪みと客観的に捉え、適応的な思考を行うための具体的な方法を紹介します。