精神疾患における離人とは?症状・治療法


徹夜明けの疲れ切った朝、部屋の中の光景が、まるでテレビ越しにモノを見るように感じられたことはありませんか。旅先で、初めて歩く場所なのに、どこかで見たような懐かしい感覚(デジャブ/既視感)にとらわれたことはありませんか。

このような感覚が離人感です。この離人感は一過性のものですが、頻繁に現れ、慢性化して日常生活に支障をきたすようになると、離人症(離人性障害)と診断されます。

目次

離人感とは

離人感とは、自分が自分の体から離れて自分を見ているような感覚です。WHO(世界保健機関)の診断名は、離人・現実感喪失症侯群となっています。なんとなく周りの光景が、夢の中の光景のように現実感が失われて見える、というのも離人感に含まれる感覚です。

自分がそこにいない、現実感がない感覚

離人感は、なかなか定義しにくく、個人差のある感覚ですが、患者さんたちへの臨床メモでは、こんなことが記されています。

・自分の意志と体が分離されて、自動的に動かされているような感じ。
・自分が幽霊になったような感じ。
・周囲の物事が奇妙な人工物であるような感じ(現実喪失感)。
・みんなが不自然な演技をしているような感じ(現実喪失感)。
・室内に人が大勢いるのに、まるでマネキンが林立している無機質な建物の中にいるかのような感じ(現実喪失感)。

要するに、周りの光景や周囲の人たちの動向が、どこかよそよそしく感じられる感覚です。注目すべきは、現実をチェックする判断力は失われず、外部からの力で引き起こされるといった被害的な認識は持っていないということです。

10代と女性に現れやすい

離人症は、その多くが10代後半から20代に突然発症します。日本では、女性がやや多く、40歳以上であらわれてくることはまれです。発症の原因は、人が生まれながらにして持っている素因とストレスなどの環境要因による認知機能の障害だと考えられていますが、現在のところ明確な発症メカニズムは解明されていません。

ちなみに、離人感は、脳神経外科手術で側頭葉皮質に電気刺激を与えることによって引き起こされる場合があります。また、アルコール、医薬品、マリフアナなど一連の物質によっても生じます。

日常的に支障がないケースも

青少年期の正常な発達の過程として出ることも多いのですが、精神科疾患である解離性障害(後述)とは異なり、必ずしも日常生活に深刻な影響を及ぼすものとは限りません。

症状は、長期にわたって一定して継続し、人によっては症状がでない休止期というのがあります。ただし、ストレスなどで精神的な疲労感が鬱積すると再び症状があらわれることがあります。

症状が強すぎると問題が生じる

離人症の症状は、健康な人でも経験することです。しかし、症状による苦痛が強く、日常生活に支障を来す場合には治療が必要です。たとえば、ある離人症の患者さんは、辛い症状をこん風に漏らしています。

「感覚の中の聴覚や視覚が弱まり、頭が重くて、くらくらする感じ。現実と夢の境界が分からないような感じ・・・」。

注意しなければならないのは、離人症には様々な精神障害が関連しているということです。先に述べたように、症状は疲労やストレスのほかにてんかん、脳神経疾患、薬物乱用によって生じることがある一方で、うつ病、不安障害、統合失調症などの精神障害と併存して出現することがあります。

症状の裏に潜む精神疾患を発見し、治療に取り組むためにも、早期に専門の医療機関での診断を仰ぐことが重要です。

精神疾患の離人

精神疾患としての離人症(離人性障害)は、解離性障害の中に含まれます。解離性障害は、自分が自分であるという感覚が失われている状態です。

解離性障害としての離人症

私たちの記憶や意識、知覚やアイデンティティ(自我同一性)は、統合的に1つにまとまっています。解離とは、この統合能力が一時的に失われた状態です。

その結果、一部記憶がなくなったり、知覚が一部感じられなくなったり、感情が麻痺したりといったことがおこります。また、解離状態になると普段とは違う知覚、行動があらわれることもあります。

これらの解離現象は、健康な人にも現れ、多くは、軽くて一時的なものです。しかし、中には日常生活支障をきたすような状態になることがあり、この状態が解離性障害です。

自分が自分であるという感覚がなくなり、あたかも自分を外から眺めているように感じられる離人症は、解離性障害に含まれます。

様々な解離性障害

隔離性障害のカテゴリーには次のような症状がリストアップされています。

●解離性健忘:ストレスをきっかけに出来事の記憶が失われる。多くは数日のうちに蘇るもの、長期に及ぶ場合もある。
●解離性とん走:自分が誰かというアイデンティティが失われ、失踪して新たな生活を始めるなどの症状を示す。学校や職場において誰にもうちあけることができない極度のストレスにさらされた時に、突然始まり、それまでの自分についての記憶を失うことが多くみられる。
●カタレプシー:体が硬く動かなくなる。
●解離性昏迷:体を動かしたり言葉を交わしたりできなくなる。
●解離性てんかん:心理的な要因で、昏睡状態になり、体が思うように動かせなくなる、感覚が失われるなどの症状もあらわれる。

多重人格

解離性障害の中できわめて特徴的な症状をしめすものに多重人格障害があります。多重人格障害は、「解離性同一性障害」と名づけられていますが、複数の人格を持ち、それらの人格が交代で現れる症状です。

AとBの人格があり、Aの人格が出現している間は、Bの人格の記憶が失われていることが多いとされています。

解離性障害の原因

ストレスやトラウマ(心的外傷)が関係しているといわれています。トラウマとしては、大災害や事故、性的暴行、性的虐待、長期にわたる監禁状態などがあげられます。

こうした心理的に辛い体験によるダメージを避けるために、精神が緊急避難的に統合機能の一部を停止させることが解離性障害につながると考えられています。

離人症とその他の精神疾患

離人症の症状は、抑うつ状態のうつ病でしばしばみられます。また、幻覚や妄想を伴う統合失調症でも離人症の症状があらわれます。

このほか、気分障害、適応障害、不安障害でも同じような離人症の症状がみられます。離人症の診断はなかなか難しいとされるゆえんです。

さらに、本人の症状の苦しみがなかなか他人に分かりにくいために、詐病と疑われることもあります。特に疾病利得が絡む場合、医師は診断に頭を悩ませることになるわけです。

離人に対する治療方法

離人症そのものに対する治療と症状の基礎疾患となっている精神疾患に対する治療があります。

ストレスを減らす

離人症そのものを対象とした特異的な治療法はありません。ストレスが原因となっているケースでは、カウンセリングなどにより、ストレスの要因を明らかにして、それを減らしたり、ストレス対処や回避の方法を工夫するなどの精神的治療が行われます。

原因となる精神疾患を治療する

精神疾患が原因で離人症の症状があらわれている場合は、当然、基礎疾患の方を治療することになります。うつ病や統合失調症の場合、抗うつ薬などによる薬物療法と認知行動療法などの精神療法、社会復帰に向けたリハビリなどを中心に治療が行われます。

長期的な治療になることも

離人症の症状は、慢性化するとなかなか治りにくい病気です。気長に治療にとりくむ根気が求められます。離人症は、診断してみたら実はうつ病のあらわれとしての離人症であった、というケースが少なくありません。

ですから、症状がみられたらなるべく早く精神科などを受診し、基礎疾患としての精神疾患を見逃さないようにすることが重要です。


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