性同一性障害とは?何人に一人の割合?


性同一性障害は、英語でGID(gender identity disorder)と呼ばれます。直訳すると「ジェンダー・アイデンティティの障害」です。そして、この文脈で使われる場合のジェンダーという言葉の意味は、性別に対する自己意識(自己認知)です。

目次

性同一性障害とは何なのか

性同一性障害

人には身体とは別に性同一性(ジェンダー)がある

パスポートや運転免許書などの書類には性別の欄があります。そこで、私たちが記入する性別は、身体的な性別(sex)です。このとき、「男」と記入すれば、自分は男である、「女」と記入すれば、自分は女である、という自己意識を持っています。これが性同一性、すなわちジェンダー・アイデンティティです。

大多数の人々は、身体的性別と性同一性を一致して保持しています。ところが、まれに、自分の身体的な性は男であるにも関わらず、性同一性は男ではないと意識している人がいます。つまり、sexとgenderが一致しないわけです。これを医学的に性同一性障害と呼びます。

性別の二つの側面

私たちは、生物学的に男/女の性別を与えられていますが、同時に、自分は男/女であるという性同一性(自己意識)を持っています。性別には二つの側面があるわけです。ところがまれに性同一性が身体の性と一致しない人がいる。これが、性同一性障害です。

法律では、性同一性障害を次のように定義しています。「性同一性障害とは生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって・・・」

ここで重要なことは、「心理的にはそれと別の性別であるとの持続的核心を持ち、かつ・・・他の性別に適合させようとする意思を有する者」という点です。

分かりやすい比喩でいえば、身体は男だが、心は女であるという確信を持ち、心の性に適合させようという意志を持っている人ということになります。

異性の体をもって生まれた人

性同一性障害の人は、sex(身体の性別)とgender(心の性別)が分裂した人です。そして、genderの方に適合させようとします。したがって、性同一障害の人は、異性の身体を持って生まれてきたという意識をもっています。

ちなみに、身体の性別は女なのに心は男の人を「FtM(Female To Male)」と呼び、身体の性別が男で心は女の人を「MtF(Male To Female」と略称しています。

自らの「性同一性」にあった生き方をしようとする

性同一性障害の人は、自分のジェンダー(心の性)に同一化したいという欲求をもっています。MtFなら、女の服装をして、女の子らしい遊びをしたいと望んでいます。FtMなら、男の子の服装をして、男の子のように振る舞いたいと望んでいます。

身体の性と反対の服装を異性装といいますが、それはまわりの人から見た場合で、当人は自分のジェンダーに合った服装をしているわけです。むしろ、身体の性に合わせた服装こそ、異性装ということになります。

日常生活においても、ジェンダーとしての行動をし、義務を果たそうとします。

言葉遣いや身のこなしなどでも、ジェンダーとしての役割を希望し、実際そのように実行します。一方で、身体の性に対する嫌悪感をもっています。

その人がFtMなら、女らしい体つきになることに対する嫌悪感から、すね毛をそったり、乳房を晒しで巻き、ふくらみを隠そうとしたりします。このような行動は、自身のジェンダーとは異なる身体症状を嫌悪し、避けようとすることからくるものです。

「性別違和症候群」と「性同一性障害」

性別違和

性別違和というのは、決められた性(身体的性)に違和感を持っている人たちです。日本では、「性同一性障害の中核群もしくは周辺群にも該当せず、治療も望まないが、自身の性別に対して多少の違和感を覚えている患者が、医師に対して診断書を要求した場合、記される病名」とされています。

彼は戸籍上では、男性です。そのことに違和感を持っています。しかし、女性になりたいかと言えば、それも違う。これが、性別違和です。これに対して、性同一性障害の彼は、戸籍の上では男性となっているが、自分は女性だと確信し、かつ戸籍の上でも女性になりことを願っている人です。要するに、自分は生物学的な性と反対の性だと思っていて、反対の性になることを願っている人です。

同性愛者と同一ではない

男性Aさんが、男性Bさんを愛する。これが同性愛です。同性愛は、恋愛の対象の性別が同性であるということです。かつAさんは自分が男性であることを自覚しています。

性同一性障害のCさんは、身体の性は男性で、ジェンダー(心の性)は女性です。Cさんが男性Dさんを愛するようになれば、外見的には、同性愛者と同じ男同士のカップルになります。しかし、Cさんのジェンダーは女性ですから、Cさんにとっては、同性愛ではなく、異性愛ということになります。

性同一性障害かつ同性愛の人もいる

性同一性障害の人の中にも同性愛の人がいます。Eさんは、身体の性は女性、ジェンダー(心の性)は男性です。Eさんにとっての同性愛とは、男性ということになります。

で、Eさんが男性Fさんを愛するようになった。そうすると、外見的には女性が男性を愛する異性愛のようにみえます。しかし、ジェンダーが男性であるがEさんにとっては、同性愛なのです。

生まれつき脳と身体の性別が異なることが原因?

性同一性障害の原因は、よくわかっていませんが、有力な説として、脳の性分化ということがあげられています。胎児の段階で始まる体の性分化(男性化・女性化)の機序は極めて複雑ですが、胎児期の性分化では、性腺や内性器、外性器などの性別が決定された後、脳の中枢神経系にも同様に性分化を起こし、脳の構造的な性差が生じます。

ところが、この際、何らかに原因によって身体的性別とは一致しない脳を部分的に持つことにより、性同一性障害を発現するのではないかと考えられています。

全国の推計患者数4万6000人

厚生省労働省の調査(2011年)では、国内の患者数は約4000人と推計されていましたが、その後、北海道文教大が行った調査があります。それによれば、札幌市内では、約2800人に1人と推計され、地域や生年で発症率変わらないと考えられるので、これを国内の総人口あてはめた結果、約4万6000人の患者がいると推計されています。厚労省のデータと10倍近い差がありますが、医療関係者は、文教大の推計は、現場の実感に近いと指摘しています。

性同一性障害における辛さとは

「異性」のものである身体に苦痛を感じる

性同一性障害者にとって、身体の性は、異性にほかなりません。ですから、成長するにしたがってあらわになってくる性差は、嫌悪の対象です。

特に2次性徴期には、男性では声変わりがしたり、喉仏が目立ってきたり、肩幅が広くなり、筋肉が張ってきて男らしい体つきになってきます。女性は体つきが丸みを帯び、月経が始まり、乳房が膨らんできます。

このような男らしい身体、あるいは女らしい身体になることなることに対する嫌悪感や忌避の気持ちが強くなってきます。そのため、FtMの人は、乳房を晒しで巻き、ふくらみを隠そうとしたりします。自分にとっての異性が、異性らしくなっていくことに苦痛を感じるのです。

社会的に「異性」であることを強いられる

学校、職場などでは、身体の性別に合わせた生き方が要求されます。学校の制服は、ジェンダーからみると、異性の制服を強いられることに他なりません。職場では、身体の性別に合わせた服装と役割が求められます。トイレに入るのにも苦痛が伴います。

FtMのNさんは、髪はショートカット、胸などをかくすためにダブダブの服装をしているので、周りの人は一目で男女の区別がつきませんが、男子のトイレにはいると、「女子がいるのか?」といぶかしげな眼で見られ、女子トイレでは、「どっちなんだろう」と微妙な目でみられます。その時の辛さ、苦痛、ある種の屈辱は、普通の人には、なかなか理解できないものです。

精神病ではない

性同一性障害では、普通の人とは異なる苦痛とストレスにさらされ、うつ病などの精神疾患を発症する環境の中で生きて行くことになります。しかし、日本における性同一性障害の診断と治療の指針である日本精神神経学会の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン (第3版)」では、「性同一性障害は精神病者ではない」としています。

性同一性障害の人の生き方

性同一性を変える治療などはない

性同一性は、治療で治すことができるというものではありません。身体の性別をもとに動いている社会の規範に合わせて生きて行くことになります。

専門の医療機関で行われている療法は、生きて行くための適合の仕方をアドバイスし、ケアし、サポートするということに重点がおかれています。

身体を性同一性に合わせていく

性同一性障害の治療は、以下に見るように、精神療法、内分泌療法、外科的療法の3つにわけることができます。

●精神療法:性同一性障害のために受けてきた精神的、社会的、身体的苦痛について十分な時間をかけて聞き、いずれの性別で生活するのが本人にとってふさわしいかを選択し、選択した性別で生活することを支援します。

●内分泌療法:身体的特徴を少しでもジェンダーに合わせようと希望するとき、第2次性徴を抑えるホルモン療法がおこなわれます。

●外科的療法:外性器等に外科的に手を加え、主として反対の性別に近づける「性別適合手術」(SRS)が行われます。FtMが手術を求めるときは、第一段階として卵巣摘出術、子宮摘出術、尿道延長術、ならびに膣閉鎖術を行い、ついで、第二段階として、陰茎形成術が行われます。MtFが性別適合手術を求めるときには、精巣摘出術、陰茎切除術、造膣術ならびに外陰部形成術が行われます。

戸籍の性別を変更できる

2004年(平成16年)から施工された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」によって、下記に該当する者は、家庭裁判所の審判により戸籍上の性別の変項ができるようになりました。

・20歳以上であること
・現に婚姻をしていないこと
・現に子がいないこと
・生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
・その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

この法律は、2008年(平成20年)に、これらの条項のうち、「現に子がいないこと」を「現に未成年の子がいないこと」と変更され、平成20年12月18日に施行されました。

周囲の理解が極めて重要

性同一者障害者は、異性をもって生まれた人です。そのことによって、他者に害を及ぼすことはありませんが、世間には、ある種の差別感情を抱いている人が少なからずいます。

性同一障害の人は、罪なくして世間の偏見の中で、生きて行くことを強いられています。加えて、根本的な治療がありません。世間の基準に適合していくしかないこれらの人たちに対してできることは、その症状を理解し、偏見を捨てて、見守ってあげることです。