精神科の閉鎖病棟とはどんなところ?どんな治療をしている?


精神科の病院には、任意入院の病棟とは構造が異なる閉鎖病棟というのがあります。閉鎖病棟とは、文字通り、出入り口が施錠され、自由に出入りできない病棟です。

目次

閉鎖病棟とは

閉鎖病棟に入院するのは、たとえば、急性期の精神疾患で、興奮のために不穏、多動、暴力といった行為が認められる患者さんです。

自由に出入りができない病棟

閉鎖病棟では、患者さんの行動が制限されています。出入り口が施錠されていますから、病棟から外に自由に出ることはできません。

私物の持ち込みも制限され、自傷・他害のおそれのある紐や刃物なども持ち込めません。このように、閉鎖病棟への入院は、あくまで周りの人や患者さんの保護を目的とし、適切な医療を保証するために行う、やむを得ない措置です。

ちなみに、閉鎖病棟に入っている患者さんは、以下に示すような行動が見られる患者さんたちですが、制裁や懲罰的に行われることは認められていません。

●他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがあり、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合。
●自殺企図や自傷行為が切迫している場合。
●他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合。
●急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、開放病棟では治療や保護が著しく困難な場合。
●身体的合併症を有する患者の検査及び処置等のため、隔離が必要な場合。
●「措置入院」や「医療保護入院」などで強制的に入院させられる場合。

必ずしも拘束されるわけではない

閉鎖病棟という言葉を聞くと、刑務所の独居房や雑居房のイメージを思い浮かべがちでが、病室にずっと閉じ込められていたり、常に拘束されて身動きができないというわけではありません。

閉鎖病棟の基本的な構造は数人単位の病室があり、それにトイレ、洗面所、食堂、ティールームなどの設備を備えています。職員がカギを管理し、患者さんの出入りを制限していますが、病棟内の移動は自由です。

ただし、自殺する恐れのある人や錯乱、器物破損など自分の行動がコントロールできない患者さんの場合、閉鎖病棟にある隔離室(保護室)を使用することがあります。

隔離室では、心身ともに休みをとるために外部からの接触を遮断し、治療に集中します。最近はPICUという急性期、重症の患者さんを治療することを目的とした精神科集中治療室を設けている病院も増えています。

本人、あるいは周囲を守るための閉鎖病棟

閉鎖し、隔離し、時には拘束するというのは、周囲の人に害を与えるのを防ぐのみならず、精神疾患にかかった患者さん自身を守るための措置です。

統合失調症やうつ病などは、眼を離すと自傷・自殺を誘引する場合があります。通院や自宅での療養では、こうしたリスクを完全にカバーすることはできません。

そこで、他傷のみならず、自傷、自殺の危険性がある人を、家族の同意を得て閉鎖病棟に入院してもらうというケースは少なくありません。

閉鎖病棟での行動の制限

開放病棟への任意入院の場合は、原則として行動の制限はありません。閉鎖病棟に入院した場合、病棟からの出入りが制限されるほか、病状によっては、身体の自由を拘束されます。

身体拘束とは、布などでできた器具で胴や手足などをベッドに固定する措置です。拘束後は、毎日、精神保健指定医が診察し、病状をカルテに記載することが義務づけられています。改善が認められれば、ただちに解除の指示を出します。

身体拘束は患者さんの人権擁護のため、手続きは厳格に規定されています。過剰な行動制限にならないように院内に行動制限最小化委員会が設けられています。

なお、通信や面会の自由については、病状に深刻な影響をあたえるおそれがなければ、制限してはならないことになっています。

入院の仕方は複数ある

精神科の病院の入院の特色は、法律に基づく強制的な入院形態があることです。また、退院に関してもいくつかの制限が設けられています。

精神科病院の入院形態

任意入院
・医師が必要と診断した場合に、ご本人の同意のもとに行われる入院。
・精神保健指定医の判断により72時間に限り、退院が制限されることがある。

医療保護入院
・患者の同意がなくても、精神保健指定医が入院の必要性を認め、家族等のうちいずれかの方が入院に同意したときの入院。
・患者家族等がいない場合、または家族等の全員が意思を表示することができない場合でも、精神保健指定医が入院の必要性を認めたときは、患者の居住地の市区町村長の同意により医療保護入院となることがある。

応急入院
・患者または保護者・扶養義務者の同意がなくても、精神保健指定医が緊急の入院が必要と認めたとき72時間を限度として行われる入院。
措置入院
・自傷他害のおそれがある場合、知事の診察命令による2人以上の精神保健指定医の診察の結果が一致して入院が必要と認められた場合、知事の決定によって行われる入院。

緊急措置入院
・自傷他害のおそれがあるが正規の措置入院の手続きがとれず、しかも急速を要する場合、精神保健指定医1人の診察の結果に基づき知事の決定によって72時間を限度として行われる入院。

閉鎖病棟に入る状況の例

自傷、自殺の恐れがある

閉鎖病棟に入院するのは、自傷・他害のおそれのある患者さんです。また、他の患者さんへの暴力行為や迷惑行為を行うといった手におえない言動が認められた場合も、閉鎖病棟に移されます。

本人が意識しない自傷的な行為もある

統合失調症やうつ病などでは、自傷行為や自殺念慮といった症状がでてきます。また、無意識のうちに自傷行為を行うケースも少なくありません。

こうした行為を防ぐために、閉鎖病棟に入院するというケースもあります。

他傷の恐れがある

統合失調症の急性期の代表的な症状が妄想と幻覚(主として幻聴)ですが、これが引き金になって暴力や暴言があらわれてきます。妄想や幻聴に唆され、攻撃的になり、他傷の恐れがある、と医師が判断した時には、閉鎖病棟に移されることがあります。

重度のアルコール依存症

アルコール依存症では、自分の意志をコントロールできず、依存対象に執着し、依存するものを手に入れられない時には、手段を択ばずに手に入れようとします。

当然、ここには暴力的行為もでてきます。そのリスクを回避させるために閉鎖病棟に入院するケースも少なくありません。

精神保健指定医の判断

精神科の病院では、常勤の精神保健指定医を必ず置くことが定められています。というのも、これまで述べてきたように、精神科医療では、患者さんに入院を強制したり、身体的拘束を含む行動制限を行わざるをえない場面が存在します。

とはいえ、それは人の自由を直接制約するものですから、人権問題ともなりえます。そこで、閉鎖病棟に入院させたり、拘束・隔離するにあたっては、法制度に通暁した専門の指定医の判断を仰ぐことになっています。

閉鎖病棟で行われる治療とは

適切な医療を保障するための隔離、拘束

閉鎖病棟には、保護室または隔離室と呼ばれる個室があります。

保護室は内側にドアノブのない出入口、ベッド、便器といった簡単な構造です。トイレの水を流すレバーやボタンは、保護室外側の前室、あるいは外側からのスイッチ操作で行う設定になっているところもあります。患者さんがトイレを詰まらせたりできないような仕様になっているわけです。

また、複数の保護室を外側からガラスや鉄格子越しに観察できるようになっています。さらに、症状によっては、拘束という身体的な自由も制限されます。

ある意味で、保護室の構造は、刑務所の独居房に似ていますが、保護室は独居房よりも自由度が低いといえるでしょう。それは、患者さん自身を保護するためであると同時に、適切な治療を行うためのやむを得ない措置なのです。

薬物療法

それぞれの症状に応じた治療は、一般の開放病棟で行われる治療と同じように、まず、薬物療法による治療が行われます。統合失調症に用いられる薬は、「抗精神病薬」です。これは、幻覚・妄想といった統合失調症の陽性症状を改善させる薬です。

最近では、新しい第2世代抗精神病薬が開発され、無気力で感情や意欲を失った陰性症状にもある程度の効果が得られることがわかってきています。

精神療法

症状に応じて精神療法も行われます。代表的な精神療法としては、認知行動療法というのがあります。これは、歪んでいる物事の捉え方や考え方(認知)を修正していく療法です。

薬物療法は、即効性がある一方で、薬をやめると再発しやすいという欠点もあります。これに対して、精神療法は早くても数か月と時間がかかりますが、しっかりと認知の修正ができれば、永続的な症状の改善が期待できます。

電気けいれん療法(ECT)

電気けいれん療法は、統合失調症の治療法として行われていましたが、その後、うつ病や双極性障害などにも効果があることがわかってきています。

電気けいれん療法では、頭の左右のコメカミに電極を当て、電気を流します。「頭に電気を流す」、と聞けば多くの人がしり込みしがちですが、現在の電気けいれん療法では、事前に十分な麻酔を使って痛みや苦しみを感じないようになっています。また、万が一にも危険な状態にならないように呼吸や循環をしっかりと管理しながら行っていますから、安全性の高い療法です。

電気けいれん療法のメリットは、即効性があり、治療効果が高いということですが、その効果が短期しか続かないというデメリットもあります。電気けいれん療法は、1回限りではなく、何回か受け続けるのが一般的で、通常、週2~3回、合計で6~15回ほど行われます。

閉鎖病棟は患者を守るためにあることを理解しておく

担当の医師から、閉鎖病棟への入院を勧められると、患者さん本人はもとより、家族の方もしり込みしがちです。しかし、閉鎖病棟は、暴力的なリスクから患者さんと家族を守ると同時に、症状の改善を目指して最適の医療を保障するためのやむを得ない措置です。

そのことによって、患者さんと家族に降りかかっている困難な状況が改善されるのですから、冷静に受け止めて対応することが重要です。


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