親の精神疾患(うつ病、統合失調症など)が子供に与える影響は?

厚生労働省の調査(2014年)によると、認知症を含む精神疾患を抱える患者数は全国で392万人と推計されています。このうち子育て世代ともいえる25歳~54歳が約4割を占めています。

多くの子どもたちが、精神疾患を抱える親の元で生活していることになります。子どもたちはどんな影響を受けるのでしょうか。

親の精神疾患は子供に大きな影響を与える

子供にとって親はとても重要な存在

子どもは親の姿を見て育ちます。成人したころに親が精神疾患を患った場合、ある程度距離をとって、親を眺めることができますが、子どもはそういうわけにはいきません。

小学校1年生のときに母親が統合失調症を発症したある男性は、こんな風に振り返っています。

「長男でしたから、自分がなんとかしないと家族が終わるという気持ちが強く、あまり協力的でない父をなんとかしてほしいと、父方の祖父母にお願いをしたりしていました」。
参考:精神障がいを抱える親の子どもたちの座談会

6歳の少年が感じたのは、家庭崩壊の危機でした。

自責の念にかられる子どもたち

うつ病を患った親は、家事にも手がつかなくなり、ふさぎ込んで子どもとの会話も途絶えていきます。親のそんな姿をみた子どもは、「自分のせい」だと思いがちになります。親のことが心配で遊びにでることもできず、勉強する気にもなれません。

統合失調所の場合、陰性症状のときは、うつ同様にふさぎ込んでしまい、家事もできませんから、子どもが負担し、見守るケースが多くなります。

妄想や幻覚が出る陽性症状のときは、「隣の人が悪口を言っている」という妄想に支配され、親が子どもの外出を禁じることもあります。この結果、子どもの精神に暗い影が差しこみ、その後の生き方に大きな影響を及ぼします。

遺伝の影響は限られている

統合失調症などの精神疾患の親を持つ子どもは、遺伝的に発症の可能性が高いとされています。遺伝に関しては、一卵性双生児に関する調査がありますが、2人とも発症するのは50%だとされています。

このことは、遺伝の可能性があるものの、遺伝だけで決まるものでもない、ということを物語ってもいます。統合失調症の原因には、素因(遺伝)と環境が関係していますが、それでも統合失調症の母親から生まれた子どものうち同じ病気を発症するのは約10%にすぎません。

ただし、これらはあくまで可能性が高まるというだけであって、親や親族が精神疾患であるからといって必ずその子も精神疾患になるというわけではないということにも注目しておくべきです。

虐待、無理心中に至ることもある

精神疾患の中のアルコール依存症では、家庭内暴力が発生することがあります。また、うつ病などでは、死にたいという希死念慮があらわれてきます。こうした症状のときには、小さなこどもと無理心中を図る可能性も否定できません。子どもにとって、家庭は危険な場所になるわけです。

経済的な困窮があることも

精神疾患を患った親の中には、仕事に就けず、経済的に困窮しているケースが少なくありません。経済的貧困だけでも子どもにとって辛いことなのに、その親が家庭を営む当事者能力を失っているのですから、それは希望のない辛さです。

こうした暗い、絶望的な環境要因が、子どもの精神の負荷となって、精神疾患に陥る危険性を孕んでいます。

「ふつう」でなかった子供時代は、その後の人生にも尾を引く

精神疾患の種類や程度によりますが、重篤な精神疾患を患った親を持つ子どもたちは、普通の子供時代を過ごすことができません。自分を責め、社会的な差別視線に晒され、遺伝の影響に怯えた生活が続けば、子どもにも精神疾患があらわれる可能性が高くなります。素因のほかにこうした環境要因で発症するケースも少なくありません。

周りのサポートが必要

親の精神疾患で、家庭がひどい状態になっていることを子どもは隠しがちです。統合失調症を発症した母親を持つある女性は、「人に知られると差別されるから絶対に言っちゃダメ」とくぎを刺されていたといいます。

隠しようもなく周りに知られ、そのためにいじめにあっている子どもは、自分のせいだと思いこんで、悩みを抱え込んでしまいます。このような家庭に対しては、周りの人たちのサポートが求められます。

「心配なことはない?」「いつでも話してくれていいよ」とメッセージを伝え続けるようにしましょう。「がんばってるね」と声をかけ、妹や弟の世話さえしている子どもには、「いいお兄さん(お姉さん)だね」とその健気な努力を誉めてあげるようにしたいものです。

逆に「可哀想だね」と同情すると、かえって子どもの哀しみが増幅され逆効果になりがちです。学校や地域には、相談窓口もあります。そうした支援機関への橋渡しに一役買うのも隣人の務めと考えたいものです。

親と子を苦しめる精神疾患

人それぞれ症状は異なり、重い人もいれば軽い人もいます。多くある精神疾患の中で、最悪の場合どういったケースが考えられるか紹介します。

うつ病

常に憂うつな気分に支配され、食欲、睡眠、性欲などの意力と思考能力が低下し、何も楽しめないというのがうつ病です。心身のエネルギーが失われた状態ですから、親の義務である育児、家事といったものにも手がつきませんし、親子の会話と言うのも失われていきます。

重くなると、自分に生きる価値がないと思い込み、自殺を考えたりするようになります。暴力的ではありませんが、家庭内が暗くなり、子どもも引きこもりになりがちです。

統合失調症

統合失調症の急性期の代表的な症状が妄想と幻覚(主として幻聴)ですが、これが引き金になって暴力や暴言があらわれてきます。幻覚や妄想が出てくると、他者には理解できない行動をとるようになり、家族でも敵視して攻撃的になったりします。

妄想には、被害妄想、誇大妄想、微小妄想などのタイプがありますが、暴力を誘発するのは被害妄想です。幻覚では、主として幻聴、特に幻声があらわれるのが特徴です。

この幻声に唆されて暴力にいたることがありますが、その多くは恐怖心からパニックに襲われ末の暴力です。落ち着きがなくなり動揺・混乱している時、喜怒哀楽の感情が表に出ている時、拳をギュッと握りしめて何かを我慢している時、歩き回っている時などは、攻撃性が高まっていると考えられますから注要注意です。

アルコール依存症

子供に悪影響を与える精神疾患の代表的なものは、アルコール依存症でしょう。自分の意志をコントロールできず、依存対象に執着し、依存するものを手に入れられない時には、手段を択ばずに手に入れようとします。

家族が自分の飲酒行動に対して意見することを許すことができず、家族を暴力で押さえつけようとして、暴力をふるうことになるのです。

パーソナリティ障害

パーソナリティ障害とは、共同体(社会)に広く通用している常識的な思考と行動と著しく異なる内的な体験や行動を行うことを指しています。パーソナリティ障害にはさまざまなタイプがありますが、暴力と関係するのは、境界性パーソナリティ障害です。

ささいな出来事にも敏感に反応し、激しい怒りにとらわれてしまいます。親子や配偶者といった自分と不可分な存在の人にも、怒りにまかせて暴力をふるってしまいます。

ちなみに、「境界性」という言葉は、「神経症」と「統合失調症」という2つの心の病気の境界にある症状を示すことに由来します。パーソナリティ症状特有の強いイライラ感は、神経症的症状で、「現実を冷静に認識できない」という症状は統合失調症的ものです。

躁鬱病

躁鬱病は、一般的なうつ病の症状と、それと正反対の躁の症状が繰り返される疾患です。暴力があらわれるのは躁状態の時です。

躁状態では気分が高揚し、じっとしていられなくて、とても行動的になります。また、軽躁状態のときは、異常に陽気という感じですが、症状が進むと興奮状態が続き、怒りっぽくなり、暴れまわって暴力にいたることがあります。

認知症

認知症が進行してくると、周辺症状としての問題行動がでてきます。不穏、妄想、失禁、徘徊などが代表的な周辺症状ですが、不穏というのは、ふだんの落ち着きを失くし、他人へ攻撃的な雰囲気で接してくる症状です。そのうちに、介護者に暴力を振るってくることもあります。

認知機能に障害があることによる不安が高じて、周囲に対する警戒心が強まり、ちょっとしたことで怒り出したり、興奮して大声を出したり、暴れたりするようになるのです。

子供への悪影響を防ぐためにはどうすればよいのか

周囲が気付いてあげることが大事

両親のどちらかが統合失調症や重度のうつ病にかかっているような家庭では、病人の世話が手一杯で、子どものことまで手が回らないということが少なくありません。そのため、親子の親密な関係もなかなか築けません。

加えて、子どもは、親が精神疾患であることを隠そうとしますから、周りの人からみると、謎めいた近寄りがたい家庭のように見られがちです。

ある意味で、当事者能力が失われている家庭ですから、周囲が気づいて、状況を見ながらサポートしてあげることが求められます。

精神疾患を治療する

最も優先させなければならない解決方法は、当の精神疾患の治療に取り組むことです。もっとも、統合失調症の場合、当人に病識がないため、精神科での治療に取り組むまでが、一苦労ですが、親が治療に取り組むようになると、家族が何をしなければならないかも明確になり、家庭生活の立て直しにもめどがついてきます。症状がひどい場合は、精神科への入院も考えるべきでしょう。

児童相談所などに相談する

精神疾患を持つ親が暴力をふるって子どもを虐待したり、または精神科の病院に入院したりするようなケースでは、児童相談所が一時保護をしてくれます。

児童相談所と保護者は、時には敵対的になることがありますが、親が精神疾患で養育もままならないという場合は、子どもにとって児童相談所は救いの場所になるはずです。

見逃せない周りのサポート

精神疾患をもつ親は、おおかれ少なかれ子どもの生き方に大きな影響を与えます。子どもが置かれた暗い環境は、将来の子どもの精神生活に陰りを予感させます。

そうした悪影響を避けるためには、公共のサポート体制ばかりではなく、周りの人たちの励ましや適切なフォローが求められます。隣人として、辛い立場で生きることを強いられている子どもたちへの愛の手を差し伸べてあげたいものです。

参考:「統合失調症|疾患の詳細|専門的な情報|メンタルヘルス|厚生労働省」

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