精神疾患が要因の自殺、直前のサインや予防する方法とは


精神疾患でもっとも怖いのは自殺です。中でも、うつ病や統合失調症などの精神疾患は、患者さんたちの心の中で自殺願望を膨らませます。とはいえ、自殺する前には、ある種のサインが見られますから、そのサインを見逃さずに対応すれば、自殺を防ぐことができます。

目次

自殺に至る精神疾患とは

一口に精神疾患といっても様々な疾患がありますが、自殺の恐れが高いのはうつ病です。平成27年の警察庁の「自殺統計」によると、自殺の動機の50%を占めるのが病気を苦にした自殺です。その病気の中で、うつ病は41%を占めています。

うつ病患者を抱えた家族にとって、うつ病は目の離せない病気です。ちなみに、「自殺統計」では、統合失調症を動機とする自殺は9.2%、アルコール依存症は1.6%となっています。

うつ病

うつ病は、暗い病気です。気持ちが落ち込んで暗くなるばかりではなく、考え方も暗くなります。

うつ病患者さんは、「生きていても意味がない。いっそ死んでしまいたい」と思い詰めるようになっていきます。これが、うつ病の診断基準の一つである「希死念慮」という症状です。

これは、患者さんからの最初のサインです。このサインを見逃すと、自殺という不幸な結果を招く危険性があります。

統合失調症

うつ病ほどではありませんが、統合失調症も自殺のリスクを抱えた精神疾患です。統合失調症の症状は、急性期の陽性症状と慢性期の陰性症状の二つに分けられます。

陽性症状というのは、あるはずのないものがあらわれる症状で、幻覚や妄想が代表的な陽性症状です。中でも自殺に関係が深いのは、幻覚の中の幻聴です。

「お前はバカだ」と自分を非難する声や「出て行け」と命令する声が聞こえてくるのですが、その中には死を命じる声も交じっています。急性期の症状が収まり慢性期にはいると、陰性症状があらわれてきます。陰性症状とは、本来あるべき意欲や感情が失われる症状です。この時期も要注意です。

依存症

アルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル依存症など様々な依存症があります。依存症とは、特定のモノやコトがないと正気を保てないような病気。あるいは、やめようという意志はあってもやめられない病気です。

アルコール依存症では、アルコールの量をコントロールすることが出来なくなり、酒浸りの生活になります。幻覚(幻視)は、アルコール依存症の禁断症状のときにあらわれますが、「自分を呼ぶ声」や「自分について批評する人々の声」などの幻聴を聞くこともあります。

その声に煽られて、「自分が殺される」とか「自分は狙われている」などの妄想をいだき、激しい自傷行為や他害行為に走るケースがみられます。ただし、アルコール依存の場合は、こうした精神症状で自殺に至るケースのほかに、経済的に困窮したあげく死を選ぶというケースも少なくありません。

パーソナリティ障害

パーソナリティ障害は、多くの人と異なる反応、行動をしてしまう病気です。また、衝動のコントロールができず、対人関係もうまく築けません。

パーソナリティ障害は、アメリカ精神医学会の診断基準で10種類も列記さていますが、自殺のリスクをかかえているのは、感情的で移り気なタイプの「境界性パーソナリティ障害」です。

このタイプは、感情や対人関係が不安定で、衝動行為が特徴です。加えて、パーソナリティ障害には、他の精神疾患を引き起こす性質があります。パーソナリティ障害と合併したほかの精神疾患が前面に出ることが多く、精神疾患の黒幕のような病気だということができます。これも自殺に関わる危険な病気です。

その他の精神疾患

そのほか、不安障害、適応障害なども要注意です。不安障害とは、不安を主症状とする多種多様な精神疾患群をまとめた名称です。

PTSD、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害などが不安障害に含まれる精神疾患ですが、このうち要注意の疾患は社会不安障害だと言われています。社会不安障害は、人に注目されることや人前で恥ずかしい思いをすることが怖くなって、人と話すことを避けるようになる病気です。

電車やバス、繁華街など人が多くいる場所に強い苦痛を感じます。そのうちに、引きこもりになり、自殺を考えるようになります。

自殺の前にみられるサインとは

自殺の前には、様々なサインが見られます。後になって、あれがサインだったのかと悔やまないためには、自殺の予兆を示すサインに気づくことが重要です。

自殺予防10箇条

厚生労働省では、下記に掲げる自殺予防10箇条を掲げて、自殺の予防に取り組んでいます。10箇条のトップに記されているのは、うつ病です。

うつ病の症状は、気をつけて見守っていなければなりません。そのほかの9箇条も、サインと見るべきでしょう。

① うつ病の症状に気をつける
② 原因不明の身体の不調が長引く
③ 飲酒量が増す
④ 自己の安全や健康が保てない
⑤ 仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う
⑥ 職場や家庭からサポートが得られない
⑦ 本人にとって価値あるものを失う
⑧ 重症の身体疾患にかかる
⑨ 自殺を口にする
⑩ 自殺未遂に及ぶ

うつの状態が強くあらわれている

気分が落ち込み、喜怒哀楽が失われ、意欲と思考力も減退し、自分を責めるといった典型的な抑うつ状態の人は、かなり危ない状態です。周りから見て、表情が暗くなり、涙もろくなり、受け答えの反応が遅くなり、落ち着きがなくなり、飲酒量が増えるようになったら、専門の医療機関で受診させるようにしましょう。

というのも、最期の行動に及ぶ前に精神科に受診していた人はごくわずかだからです。そのため、救える命がみすみす失われているのが現実です。

行動、性格に異常が見られる

自殺する予兆の一つとして、行動や性格の異常が挙げられます。突然涙ぐみ、落ち着かなくなり、不機嫌で、怒りやイライラを爆発させるようになって、人が変わったようになったら、注意しましょう。

また、これまでのふさぎ込んでいた抑うつ的な態度とは打って変わって、不自然なほど明るく振る舞うのも不吉な予兆です。

その他の危険なサイン

周囲から差しのべられた救いの手を振り払って、自暴自棄になる傾向があります。以下のような振る舞いがあらわれたら、赤信号が点滅していると考えてください。

●身なりに構わなくなる。
●これまでに関心のあったことに対して興味を失う。
●仕事の業績が急に落ちる。
●職場を休みがちになる。
●注意が集中できなくなる。
●人との付き合いを避けて、引きこもりがちになる。
●ギャンブルにはまって経済的に危機に陥る。
●社会的な立場を放棄してどこかに失踪したり、無謀運転をしたりする。

死の直前の兆候

死の直前になると、荷物の整理をしたり、場所や手段について準備をはじめます。こっそりと遺書を用意することもあれば、大量の薬を買い込んできたりします。

発見したら、精神科の病院への入院を考えるべきでしょう。また、はっきりと「死にたい」と言わなくても、「消えていなくなりたい」、「自分はいない方がいい」などと口にするようになったら、かなり危険な状態です。

精神疾患の症状が強く出ている

ある研究報告によると、自殺企図者の75%が、狭義の精神疾患だったということです。これは、精神症状が強く出るようになると、何かのはずみで自殺に直行するということを物語るように思われます。あとで触れますが、自殺の予防には、精神科の病院に入院することを考えるべきでしょう。

どうすれば自殺を予防できるのか

精神疾患による自殺を100%阻止するのは、難しい。できることは、細やかに見守ることのほか専門の医療機関で精神症状を抑えることぐらいです。一人一人がゲートキーパー(命の門番)になったつもりで、見守っていくしかありません。

まず異常に気づくことが必要

自殺する人たちは、先に述べたように、自殺の前には、それぞれの段階に応じてサインを出しています。そのサインを見逃さないことが重要です。

あとになって、あれがサインだったのか、と悔やんでも、命は復活しません。とくに自殺未遂者の人を抱えている家族の人たちは、自殺予防10箇条を肝に銘じ、日々、注意深く見守ってください。

また、ストレスの多い環境にいると、ストレスが引き金になることもあります。ストレス環境の改善も自殺予防につながります。

相手を尊重し、寄り添う

サインに気が付いて、本人と話し合う時に注意しなければならないのは、相手の言葉を軽んじたり、責めたりせずに、真摯に受け止めて対応することです。

相手の感情を否定するのは避けてください。といって、軽々しく同調することもお勧めできません。相手に寄り添って、話しを聞いてあげるようにしてください。

だれでも「ゲートキーパー」になったつもりで

政府は「自殺総合対策大綱」を策定して、自殺の予防に取り組んでいます。その中の9つの重点施策の一つとして、ゲートキーパーの養成を掲げています。

これは、かかりつけの医師、看護師、保健師、ケアマネージャー、教職員、民生委員、児童委員、各種相談窓口担当者など、関連するあらゆる分野の人材にゲートキーパーとなるための研修を行うというものです。

また、自殺予防のための資料配布や情報提供を行っています。ゲートキーパーは、「命の門番」のスペシャリストのようなものです。自殺の恐れのある人を抱えている家族は、ゲートキーパーになったつもりで、予防のための知識を身に付けるように心がけるようにしましょう。

自殺を防ぐためには入院治療も考える

日常生活の中で自殺の恐れのある人をつきっきりで見守るというのは、なかなか難しいものです。それに、素人では手におえない症状というものもあらわれます。

かなり危険な状態だと判断したら、精神科の病院に入院して、治療に取り組むことを考えるべきでしょう。日常生活の中では、自殺に使えるものや状況が多く潜んでいます。入院すれば、専門のスタッフに見守られることになりますから、格段に安心です。対応が限界にきたら、入院も自殺予防の第11箇条に加えるべきでしょう。

周囲の人の対応は治療を左右する

自殺予防10箇条を頭の中に叩き込んで、辛抱強く見守っていくこと、これが自殺予防の基本です。と同時に、自殺を誘発する心の病の治療に取り組むことです。

うつ病患者は急増していますが、その4分の3は医療機関で治療をうけていない、というデータもあります。医療の発達で精神疾患の多くが治る病気になっていることを考えると、専門の医療機関に頼るというのは、最後の切札、といっても過言ではありません。


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