暴力を起こす精神疾患とは?対応や治療法は?


統合失調症、躁鬱病、認知症、依存症などの精神疾患の中には、暴力が出現することがあります。それは、どのような時にあらわれ、どのような症状を呈するのでしょうか。

その時、周りの人たちはどのように対応したらいいのでしょうか。今回は、精神疾患と暴力がテーマです。

目次

何が人を暴力に走らせるのか

世界に蔓延している暴力の根源には、敵意、憎悪、嫉妬などの感情がうごめいています。しかし、精神疾患の患者さんたちの中に出現する暴力の多くは、妄想や幻覚にそそのかされ、あるいは自責の念にかられた末の暴力です。

そうして、すべてとは言えないまでも、精神疾患に出現する暴力は、治療を施すことによって消失可能な暴力です。

妄想が引き金に

統合失調症の代表的な症状に妄想と幻覚があります。精神疾患における「妄想」とは、非合理的で非現実的な思い込みを指します。

たとえば、家の前に止まっている車をみて、「秘密警察の車だ」と思い込みます。確かに家の前に車が止まっています。しかし、なぜその車が「秘密警察の車」だと思い込むのか、周りの人は理解できません。

つまり、妄想とは、その心理や思考過程が他者からみて、了承不能な思い込みです。この妄想が引き金になって、暴力にいたることがあります。

幻覚にそそのかされて

幻覚とは、「対象なき知覚」のことです。ここでいう知覚とは、聴覚、視覚、味覚、触覚、嗅覚などの五感を指します。この五感がそれぞれに対象なき知覚を現出させます。

すなわち、幻聴、幻視、幻味、幻蝕、幻嗅です。統合失調症では、幻聴がしばしば現れますが、この声にそそのかされて暴力にいたることがあります。

躁状態

躁鬱病というのは、気分が高揚した躁状態と気分が落ち込んだうつ状態が繰り返し現れる精神疾患ですが、躁状態では、強い興奮状態や衝動性が出るようになり、怒って暴れまわる症状があらわれます。

また、怒りやすくなり、日常の些細な出来事で激怒するなどして、周囲の人間に暴力をふるうことがあります。

記憶、認識の混乱

認知症とは、脳の細胞が壊れていく病気です。その結果あらわれる記憶の喪失や思考の混乱などの症状は「中核症状」と呼ばれます。

一方で、徘徊行動などもあらわれてきます。これは「周辺症状」と呼ばれますが、この症状の中に暴力や暴言などの問題行動があらわれてきます。

その他の原因

精神疾患に含まれるアルコール依存症や薬物依存症の暴力沙汰は、良く知られているところです。このほか、パーソナリティ障害の中の境界性パーソナリティ障害や反社会性パーソナリティ障害でも、衝動的な暴力が見られます。

暴力に至る精神疾患とその症状

暴力が出現する精神疾患の症状と暴力出現の背景を見て行きます。背景が分かれば、対応の仕方もわかってくるはずです。

統合失調症

統合失調症の急性期の代表的な症状が妄想と幻覚(主として幻聴)ですが、これが引き金になって暴力や暴言があらわれてきます。

妄想には、被害妄想、誇大妄想、微小妄想などのタイプがありますが、暴力を誘発するのは被害妄想です。幻覚では、主として幻聴、特に幻声があらわれるのが特徴です。幻声は、耳に聞こえてきたり、頭の中に直接響いてくることもあれば、腹部から聞こえてくる場合もあります。

それは、悪口や命令を伝える声であったり、会話の中の声であったりしますが、このほかに自分の考えたことが声として耳に入ってくることもあります。

この幻声にそそのかされて暴力にいたることがありますが、その多くは恐怖心からパニックに襲われ末の暴力です。落ち着きがなくなり動揺・混乱している時、喜怒哀楽の感情が表に出ている時、拳をギュッと握りしめて何かを我慢している時、歩き回っている時などは、攻撃性が高まっていると考えられますから注要注意です。

躁うつ病

正式には双極性障害と呼ばれ、一般的なうつ病の症状と、それと正反対の躁の症状が繰り返される疾患です。暴力があらわれるのは躁状態の時です。

躁状態では気分が高揚し、じっとしていられなくて、とても行動的になります。また、その行動は、散財、性的逸脱、バカげた投資などの逸脱行為が顕著です。

軽躁状態のときは、異常に陽気という感じですが、症状が進むと興奮状態が続き、怒りっぽくなり、暴れまわって暴力にいたることがあります。

認知症

認知症が進行してくると、周辺症状としての問題行動がでてきます。不穏、妄想、失禁、徘徊などが代表的な周辺症状ですが、不穏というのは、ふだんの落ち着きを失くし、他人へ攻撃的な雰囲気で接してくる症状です。そのうちに、介護者に暴力を振るってくることもあります。

認知機能に障害があることによる不安が高じて、周囲に対する警戒心が強まり、ちょっとしたことで怒り出したり、興奮して大声を出したり、暴れたりするようになるのです。

パーソナリティ障害

パーソナリティ障害とは、共同体(社会)に広く通用している常識的な思考と行動と著しく異なる内的な体験や行動を行うことを指しています。

パーソナル障害にはさまざまなタイプがありますが、暴力と関係するのは、境界性パーソナリティ障害です。ささいな出来事にも敏感に反応し、激しい怒りにとらわれてしまいます。

親子や配偶者といった自分と不可分な存在の人にも、違う考えや感じ方があるという認識が薄いため、怒りにまかせて暴力をふるってしまうのです。

ちなみに、「境界性」という言葉は、「神経症」と「統合失調症」という2つの心の病気の境界にある症状を示すことに由来します。パーソナリティ症状特有の強いイライラ感は、神経症的症状で、「現実を冷静に認識できない」という症状は統合失調症的ものです。

依存症

依存症の代表的なものがアルコール依存症です。自分の意志をコントロールできず、依存対象に執着し、依存するものを手に入れられない時には、手段を選ばずに手に入れようとします。

当然、ここには暴力的行為もでてきます。ただし、酔った勢いでの暴力とは少しニュアンスが違います。アルコール依存症における暴力は、「酒をやめられない自分」を正当化するために家族に暴力をふるうといった側面が強いのです。

家族が自分の飲酒行動に対して意見することを許すことができず、家族を暴力で押さえつけようとして、暴力をふるうことになるわけです。

アルコール依存症では「嫉妬妄想」という症状もあらわれます。酒におぼれる自分に対する絶望感が、「妻は自分に愛想を尽かして浮気しているのではないか」という妄想を育み、やがて尾行や暴力に発展するケースが見られます。

暴力をやめさせるためには

これまでに述べてきた精神疾患では、攻撃的な振る舞いがあらわれてきます。言葉の暴力であれば、ある程度我慢できますが、手におえないような暴力となったら、専門の医療機関にかかるしかありません。

第一に医療機関にかかるべき

暴力が出現するというのは、精神疾患のかなりの進行とみるべきです。そのために、本格的な治療に取り組む必要があります。

また、暴力を受ける家族を守ると同時に、本人の病状を改善し、自傷のリスクを避けるという意味からも、医療機関での治療が望まれます。

医療機関における治療方法

統合失調症の場合、精神療法と薬物療法で治療は行われますが、医療技術の進歩で、医師の指導に従ってじっくりと治療に取り組めば、社会復帰も可能になってきました。

パーソナリティ障害などは、一時的なもので終わる可能性もあります。治療が進めば、当然、暴力も消えて行きます。日本ではまだ精神科の敷居が高いようですが、しっかりした診断なしでは、治る病気も治りません。

加えて、心の病は思わぬところに予想外の疾患が潜んでいるケースが少なくないことを考えると、早期に専門の医療機関にかかることが重要です。

認知症にはしっかりとしたケアをする

認知症の中核症状は、現在の医療では完治は望めませんが、暴力、徘徊、失禁などの周辺症状は、ケア次第で改善することができます。「認知症の人を叱ってはいけない」というのが基本セオリーです。

というのも、中核症状が原因で起った失敗や的外れな言動に対し、強い口調で否定したり、叱責したりすると、周辺症状が悪化します。

温厚だった父親が、人が変わったように乱暴な口を聞くようになり、暴力をふるうようなると、自分を困らせようとしてわざとやっているのではないかと介護する側も感情的になりがちです。

しかし、周辺症状で現れる暴言や暴力は、病気のせいです。冷静に、忍耐強く接することが認知症介護の基本です。

入院治療も考えるべき

精神疾患の中には、自傷・他傷の恐れがあるものがあります。暴力はまさしく他傷行為です。日常生活の中でこれらの問題行動をつきっきりで見守るというのは、なかなか難しいものです。それに、素人では手におえない暴力行為も出てきます。

かなり危険な状態だと判断したら、精神科の病院に入院して、治療に取り組むことを考えるべきでしょう。入院すると、専門のスタッフに見守られることになりますから、家族はもとより、本人の自傷行為も防ぐことができます。

病気であると周囲が認識することも重要

精神疾患による暴力のほとんどは、敵意、憎悪、嫉妬といった感情にもとづくものではなく、病気のなせる業です。アルコール依存症の嫉妬妄想にしても、それは妄想という心の病に唆された暴力です。

このことを肝に銘じて、冷静に対応し、とにかく暴力の元となっている病気の治療に専念するようにしてください。


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