うつ病に筋トレは有効なの?有効な理由とやり方


うつ病の治療は、薬物療法と精神療法を併用して行われますが、筋トレもまたうつ病に有効であるという情報をよく耳にします。

実際、筋トレはうつ病に良い効果があるかどうか、紹介していきます。

目次

筋トレがうつ病になぜ有効?うつ病とセロトニンの関係

そもそもうつ病とは?

憂うつで気分が落ち込む、すべてがむなしく思えてきて何となく悲しくなるという気分が長期間持続し、思考や意欲といった精神機能までが低下した状態を抑うつ状態といいます。

こうした抑うつ状態が長く持続するとうつ病と診断されます。うつ病は、その原因を基準として、いくつかのタイプに分類されます。

アルツハイマー型認知症などのように脳の障害や身体の病気を起因する外因性/身体因性のうつ病、抑うつ神経症などの心因性/性格環境因性のうつ病、そして大うつ病とも呼ばれる内因性のうつ病です。

今回は、この内因性のうつ病に焦点をあてて、筋トレとの関係をまとめてみました。

うつ病の原因は?

最近の研究では、うつ病の原因として脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという説が有力になってきています。

中でも、重要な役割を果たすのが人間の感情に関わる神経伝達物質セロトニンやノルアドレナリンなどです。

ところが、何らかの要因でこれら神経伝達物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなることによって、うつ病の状態が起きていると考えられています。

セロトニンという神経伝達物質

セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンは、脳内や中枢神系で働く三大神経伝達物質です。

快楽や喜びの感情を司るのがドーパミン、怒りや不安の感情を司るのがノルアドレナリン、そしてこの二つの神経伝達物質を制御し、精神を安定させるのがセロトニンです。

つまり、なんらかの要因で、セロトニンが低下すると、これら二つのコントロールが不安定になり、バランスが崩れ、攻撃性が高まり、また、不安やうつといった精神症状を引き起こすとされています。

筋トレはセロトニンを増加させる

ストレスに晒されると脳の前頭前野・海馬などが萎縮し、BDNF(脳由来神経栄養因子)が低下してきます。BDNFは、神経の栄養のようなものですから、BDNFが低下すると、セロトニンやノルアドレナリンなどの分泌も不活発になり、うつ病を誘発するというのが最近の説です。

この説によれば、運動をすると、前頭前野や海馬の体積が増え、血流が増加し、BDNFが増加します。その結果、脳の神経が活性化され、心を安定化させる働きをもつセロトニンやノルアドレナリンなどの分泌が増加し、うつ病の改善効果があるということになります。

適度の疲労が熟睡をもたらす

うつ病患者の多くは、不眠に悩んでいます。適度な運動は、体に疲労感をもたらし、これが不眠の解消につながります。

毎日、心地よい汗をかいて適度な疲労の中でベッドにはいると、熟睡できる夜が期待できるようになるはずです。

ただし、運動のしすぎは禁物

いくら運動が効果的だからと言っても、無理に運動するのは禁物です。

運動をすると、BDNFが増加し、セロトニンの分泌が促進されますが、一方で強度が高い運動を行うとBDNFが増加する一方で、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌も促進されてしまう事が分かっています。

症状や体調に合わせたほどほどの運動が、運動療法の基本です。

有酸素運動、無酸素運動、どちらがうつ病に有効?

運動には、有酸素運動、無酸素運動の二種類あります。有酸素運動は、長距離走やウォーキング(散歩)、水泳など、時間をかけて行う運動です。無酸素運動は、筋トレ、短距離走など、短時間で行う運動です。

有酸素運動がうつ病に有効であるということは有名な話ですが海外での研究で無酸素運動も抗うつ効果があることが報告されています。

海外で実証された無酸素運動の効果

東海大学の保坂隆先生は、「不安とうつに対する運動療法の有効性」という論文で海外における最近の研究事例を紹介されています。

●事例1
25人の大うつ病患者を<ランニング群(有酸素)>と<ウォーキング群(有酸素)>に分けて運動させたところ、両群とも抗うつ効果が認められた。

●事例2
40人のうつ病患者を<ランニング群(有酸素 )> と<筋トレ群(無酸素>に分けて運動させたところ両群とも抗うつ効果が認められたため、有酸素、無酸素運動はともに抗うつ効果があることが明らかになった、

●事例3
99人の大うつ病(その他のうつ病も含む)・気分変調症患者に<有酸素運動(速足・ジョギング)>と<非有酸素運動(筋トレ、リラクセーション、ストレッチ)>を無作為に割り付け、週3回、1回1時間、8週間の運動させたところ、両群とも抗うつ効果が認められた。

不安とうつに対する運動療法の有効性 一スポーツ精神医学の応用一

筋トレをする際のポイント、注意点

筋トレ前は体温を上げて、けが予防

まずトレーニングをする前に動的ストレッチや身体を動かし、体を温めましょう。動的ストレッチとは身体を動かしながらするストレッチです。代表的なのは、ラジオ体操です。

身体が温まると血流が増え、けがをしにくくなります。いきなり筋トレをしてしまうと筋肉を痛めたり、筋肉痛の治りが遅くなったりしてしまいます。

自分が継続できる範囲で行う

自分の体力、体調を考え、自分のできる範囲で行うようにしましょう。例えば、腕立て伏せを行う場合、筋力が足りていないと中々思うようにできません。そういったときは、ひざをつけて負荷を少なくしたり、肘を曲げる角度を小さくするなど自分にあった負荷で行いましょう。

継続していくと筋力も付いていくので、徐々に負荷を増やしていきましょう。同じ部分の筋トレは2~3日に1回を定期的に行う

同じ部分の筋トレは2~3日おきに行うことが有効とされています。特に筋肉痛時は筋肉が修復されている時期(超回復)なので、2~3日たっても筋肉痛が治らない場合は治るまで筋トレしないほうがいいと言われています。

たんぱく質を意識してとろう

筋肉を修復するのに必要なものがたんぱく質となっています。筋トレをやった後などは意識してとりましょう。肉類・魚・大豆類などを積極的にとりましょう。年齢にもよりますが1日の摂取量として、男性なら60g、女性なら50gを目指してとっていきましょう。

体調が悪い時は休む

調子があまりよくない、風邪をひいたときは無理して行うのはやめましょう。いくら筋トレがうつ病に有効といっても、あくまで補助的療法になります。

調子が悪いから治療目的で筋トレを行うというのは間違っているので、そこだけは気をつけましょう。

筋トレの方法、やり方

基本的な筋トレの考え方

筋トレは10回~15回が限界の負荷(もうこれ以上できない)を1セットとし、それを3セット繰り返すことが一番効果的であるといわれています。

自重トレーニング

自重トレーニングとは器具を使わず、自分の体重で鍛える筋トレです。10回3セットを目安にやっていきましょう。

スクワット
太もも・おしりなど主に下半身を鍛えるのに使います。

1.だいたい肩幅くらいに足を広げて立ちます。
2.ひざを曲げながら、お尻をおろしていきます。(ポイント ひざがつま先より前に行かないようにします。前に出てしまうとひざを悪くしやすくなります)
3.ひざが90度くらいまで曲がったら、今度はお尻を上げていきます。(ひざを曲げる角度、又はお尻を上げ下げするスピードで負荷を調整してください)
4. 2~3を10回繰り返します。

腕立て伏せ
主に胸・腕を鍛えるのに使います

1.腕をだいたい肩幅と同じくらいほど開いて、床につきます
2.足を伸ばして、つま先を床につけて腕とつま先で身体を支えます。(ポイント つま先だと難しい場合はひざをついて行いましょう)
3.肘を曲げて体を床に近付けていきます
4.おろせるところまでおろせたら上げていきます。(ポイント 下にどれだけおろしていくまたは上げ下げするスピードで負荷を調整しましょう)
5. 3~4を10回繰り返します。

上体起こし
主に腹筋を鍛えます

1.仰向けに寝転がった状態からひざをだいたい90度まげます
2.手のひらを胸につけます(ポイント 上半身が持ち上がらない場合は最初のうちは手で反動をつけて行いましょう)
3.上半身を持ち上げていきます(ポイント 頭から動くのではなく、おへそが太ももに近づいていくイメージです)
4.持ち上がるところまで持ちあがったら、おろして行きます。(ポイント 上げ下げのスピードで負荷を調整してください)
5. 3~4を10回繰り返します。

上体そらし
主に背筋を鍛えます

1.うつ伏せになって寝転がります
2.腕は頭の後ろにするか前へ伸ばします
3.上半身を上に持ち上げていきます
4.あがるところまであがったらおろしていきます(ポイント 上げ下げのスピードで負荷を調整してください)
5.3~4を10回繰り返します。

自宅でダンベルを使ったトレーニング

筋トレは徐々に負荷を上げていかないと効果がなくなってしまいます。負荷をあげるためには、自重トレーニングでは限界がきてしまいます。そういった方はジムに通ったり、ダンベルを使って自宅でトレーニングしましょう。

ダンベルを買う場合は軽くても最高の重さが片手20kgで、重さの調節ができるダンベルを買いましょう。自分に合った重さに調節できるのでよりハードなトレーニングをしたい時に買わなくてすむようになります。

ダンベルカール
主に二の腕を鍛えます。

1.両手にダンベルを持ち、両脇に持って立ちます
2.肘をなるべく固定し体の反動を使わず、ゆっくり肘をまげながら上にあげていきます。
3.ゆっくりおろしていきます。
4.2~3を10回繰り返します。

ダンベルショルダープレス
主に肩を鍛えます

1.椅子に座り、ダンベルを持ちます。
2.背筋を伸ばし、ダンベルを肩付近までもち上げましょう。(スタートポジション)
3.ひじをのばしながらダンベルを上に持ち上げていきます。
4.持ち上がるところまで持ちあがったら、ゆっくりダンベルを下げていきます。
5.3~4を10回繰り返します。

ダンベルベントオーバーローイング
主に背中を鍛えます。

1.両手にダンベルを持って立ちます
2.両膝を軽く曲げて、上半身を45度くらい曲げます。腕を下に伸ばした状態でだいたいダンベルがひざ下あたりに来るイメージです。
3.肩甲骨を寄せながら両肘を曲げながらダンベルを上にもちあげていきます
4.ゆっくりおろしていきます
5.3~4を10回繰り返します

ダンベルベンチプレス
主に胸を鍛えます

1.両手にダンベルを持ってベンチ(床)に仰向けに寝ます
2.胸を張り、両ひじが伸びるまで両手を胸の上に持ち上げます
3.肘を曲げながらゆっくりとダンベルを下していきます
4.2~3を10回繰り返します

筋トレは万能ではない

ざっと運動療法としての筋トレのメリットを述べてきましたが、筋トレはうつ病治療の補助的療法であることも忘れないでください。治療のメインは、休養、薬物療法、精神療法です。この必須3本柱による治療をないがしろにしては、運動療法も効果がありません。

ちなみに、薬物療法では、セロトニンとノルアドレナリンに働きかけるSSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)が用いられています。


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