適応障害とうつ病の違いは?移行や併発はよくある?


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一見、似ているけれど、本質は異なるもののことを「似て非なる者」といいます。適応障害とうつ病の関係がこれにあたります。

適応障害は、うつ病に似ているけれど、明確に異なる障害です。しかし、放置していると、うつ病になりかねない危険な障害でもあります。

目次

適応障害はつらい環境で症状があらわれる

本人にとって、とても辛くて、耐え難い状況をストレス環境と定義してみましょう。適応障害は、このストレス環境の中で発生する障害です。

つらく耐え難い状況のストレスが原因

人によって価値観やものの感じ方は異なりますから、適応障害の原因となるストレス環境も人によって異なります。職場を支配する価値観がある人にとっては耐え難いことであっても、ある人にとっては別にストレスにならないということは十分にありうることです。

このように、ストレス環境には個人差がありますが、自分が置かれている環境が、耐えがたいストレス環境であると感じられると、それが要因となって適応障害の症状があらわれてきます。具体的には、憂うつな気分に包まれ、不安感が強くなり、焦り、緊張なども高まり、神経が過敏になってきます。

成人の場合、無断欠席や無謀な運転、喧嘩、物を壊すなどの行動面の症状があらわれてくることがあります。また、不安が強く緊張が高まると、どきどきしたり、汗をかいたり、めまいなどの身体症状がみられることもあります。

要は、自分が生活している職場や家庭環境がストレス環境となったとき、適応不全となり、さまざまな心身の症状があらわれ、社会生活に支障をきたすのが適応障害です。

うつ病にも似た症状

適応障害によってあらわれる症状は、うつ病のそれとよく似ています。憂うつな抑うつ気分や不安感、焦燥感などの情緒面の症状に限らず、不眠、食欲不振、全身倦怠感、疲労感、頭痛、肩こり、腹痛などの身体症状もうつ病に似ています。

しかし、すでに述べた通り、適応障害は、うつ病に似ていても、それとはまったく異なる障害です。

ストレスとなるものから離れると弱まる

では、どこが違うのでしょうか。詳細はあとでふれるとして、結論から先にいうと、ストレス環境から離れると適応障害は弱まります。ストレス環境と直接的な相関関係があるわけです。

うつ病は常に症状があらわれる

うつ病の発症の要因の一つは、ストレス環境です。しかし、うつ病の場合、ストレス環境が改善されても症状が弱まるということはありません。

ここが適応障害との<似て非なる>ところです。

原因は主にストレス

うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなどを含む様々な要因によっておこる脳の機能障害です。ストレスの中でも、過労や人間関係のトラブルが大きく影響するとされています。

脳がうまく働いてくれないので、抑うつ気分の中で、ものの見方が否定的になり、自分がダメな人間だと感じてしまうようになります。

常に憂うつな気分になる

常に憂うつな気分に支配され、食欲、睡眠、性欲などの意力が低下した状態を抑うつ状態といいます。憂うつな気分と言うのは、誰でもあることですが、これが常態化して、身体的な自覚症状を伴うようになるとうつ病と診断されます。

一般的なうつ病の診断基準となる主な症状を列記すると以下のようになります。

・気分の落ち込み(抑うつ気分)
・何も楽しめない、興味を持てない
・食欲増加もしくは低下/不眠あるいは過眠
・疲れやすい
・身体活動と思考能力の低下
・自分に価値がないと考える(無価値感)
・死についての思考

うつ病の治療

うつ病の治療は、抗うつ薬などを投薬する薬物療法とカウンセリングなどによる精神療法を併用して行われます。うつ病は、脳の機能障害ですから、ストレス環境を離れたからといって、症状が改善するわけではありません。

とはいえ、ストレス環境から離れることが無意味ということではありません。むしろ、効果的な治療のためには、ストレス環境から離れての休息が必要になります。ストレス環境からの離脱は、主たる治療を効果的に行うための手段という位置づけです。

適応障害が悪化するとうつ病に

その症状が、うつ病の診断基準を満たさないという理由で、適応障害とされるケースが少なくありません。しかし、5年後には40%の人がうつ病などの精神疾患に診断名を変更されたという統計もあります。

適応障害は、うつ病の予備軍であるともいえるのです。

適応障害は他の精神疾患の途中段階かもしれない

適応障害は、ストレス環境に耐えきれずおこるものですが、実は、他の精神疾患には当てはまりきれない症状の時につけられる病名という側面があります。ですから、他の精神疾患であると診断されるとつけられない病名です。

つまり、何らかの症状が出ているが、その他の疾患と診断できるほどではない時に適応障害と診断されます。では、適応障害の診断基準はどんなものでしょうか。

早稲田大学人間科学部の野村忍教授は、以下のようなポイントを挙げられています。

1) はっきりとした心理社会的ストレスに対する反応で、3ヶ月以内に発症する。
2) ストレスに対する正常で予測されるものよりも過剰な症状。
3) 社会的または職業(学業)上の機能の障害。
4) 不適応反応はストレスが解消されれば6ヶ月以上は持続しない。
5) 他の原因となる精神障害がないことが前提条件です。

また、適応障害のタイプとして、症状別に以下のように分類されています。

1) 不安気分を伴う適応障害(不安、神経過敏、心配、いらいらなどの症状が優勢)
2) 抑うつ気分を伴う適応障害(抑うつ気分、涙もろさ、希望のなさなどの症状が優勢)
3) 行為の障害を伴う適応障害
4) 情動と行潟の混合した障害を伴う適応障害(情動面の症状(不安、抑うつ)と行為の障害の両方がみられるもの)
5) 身体的愁訴を伴う適応障害(疲労感、頭痛、腰痛、不眠などの身体症状が優勢)
6) 引きこもりを伴う適応障害(社会的ひきこもりが優勢)

適応障害とうつ病、症状は間違えかねないほど似ている

すでに見てきた通り、適応障害とうつ病は、その症状が瓜二つのようによく似ています。実際、うつ病のようだけど、一つ二つ、うつ病の診断基準を満たさないために適応障害とされるケースが少なくありません。

ところが、先の適応障害診断基準の(4)と(5)にあるように、うつ病とは明確に異なるポイントがあります。

うつ病との違いはストレス環境から離れて弱まるかどうか

適応障害診断金順の(4)をもう一度掲げます。
<不適応反応はストレスが解消されれば6ヶ月以上は持続しない>

適応障害は、ストレス環境から離れると、症状が改善するのです。実際、仕事上の問題がストレス環境となっている場合、勤務する日は憂うつで不安も強く、キーボードを叩く手が震え、めまいさえするのに、休みの日には、気分が晴れて趣味を楽しむこともできます。

うつ病だと、こういきません。環境が変わっても、憂うつな気分は晴れず、何事にも楽しみが感じられなくなります。このような持続的な憂うつ気分に支配され、意欲が低下し、感情の喜怒哀楽が失われ、食欲も低下し、不眠が2週間以上続けば、それは適応障害ではなく、うつ病と診断されるはずです。

適応障害からうつ病に移行する

適応障害とうつ病は、明らかに異なる障害です。しかし、適応障害の人の40%が5年後にうつ病に移行するという統計もあります。適応障害は、うつ病の予備軍、あるいはうつ病の前兆と捉えて、早期に対策に取り組むことが重要です。

適応障害から悪化する前に治療を

適応障害は、うつ病の前兆であるからこそ、早期に対策に取り組むことが重要です。逆にいえば、この段階で適切な治療を行えばうつ病への移行を防止できるということです。

そのためには、まず、ストレス環境から離れることです。しかし、現実問題として、離れることが難しい場合もあります。そこで、本人の適応力を高めることが重要になってきます。

ストレスに対して本人はどのように受け止めているかを観察していくと、受け止め方にあるパターンがあることが多く見られます。このパターンに対してアプローチしていくのが認知行動療法と呼ばれるカウンセリングです。また、現在抱えている問題と症状に焦点を当てて、治療者と被治療者が協同して解決方法を見出していく問題解決療法もあります。

このほか、情緒面や行動面に対しては、薬物療法も採用されています。いずれにしろ、思い当たる症状があったら、早期に専門の医療機関に相談して、うつ病に移行する前に治療に取り組むことが重要です。


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