解離性障害を持つ人との接し方で注意する点は?


解離性障害は、周りの人にそれが病気であることを理解してもらえない難しい病気です。詐病ではないかと疑われることも珍しくありません。

そこで、この病気の特徴と周りの人たちの接し方についてまとめてみました。

目次

解離障害はどんな病気

健全な解離と病気の解離障害、どこが違う?

昔のヨーロッパの映画などでは、不幸なシーンに出会った貴婦人がめまいを起こして倒れ込むシーンなどありました。これは健全な解離症状です。

発達途上の子どもは、ときどき想像上の友だち(イマジナリーコンパニオン)と会話したりします。これも解離症状です。ゲームに夢中になって、人から呼ばれても返事しないというのも健全な解離です。

このように、解離は多くの人が経験する症状ですが、それが慢性化し、恒常化したものが解離性障害です。子どものころ、思春期、あるいは成人したあとも慢性化して解離状態になり、自己統制が出来なくなって、社会生活にまで支障をきたすようになると、これはれっきとした解離性障害です。

いくつかのタイプがある

私たちは、自分の思考や記憶や感覚が自分のものであるという確信を抱いて暮らしています。解離性障害の「解離」というのは、この感覚が崩れた状態です。

たとえば、過去の記憶や自分自身の考え、あるいは感情、行動の一部が、自分の意識から勝手に切り離された状態です。その結果、日常生活に支障がでてくるようになると、解離性障害ということになります。

解離障害には、解離性健忘、解離性とん走、離人症といったいくつかのタイプがあります。今回は、この3つのタイプを中心にまとめました。

解離性健忘

ある心的ストレスをきっかけに、単なる物忘れでは説明できないほど、過去の一時期の記憶、あるいは全ての生活史の記憶を失っている状態です。

ある男性の症例を紹介します。家族とドライブにでかけ、交通事故にあって、家族(妻と子ども二人)は即死、男性だけが助かりました。ところが、彼は事故が発生する数時間前から、事故後1週間の記憶がまったく失われてしまいました。

この男性は、ドライブ以前の家族の記憶は鮮明に覚えています。また事故後2週間目以降は、新しく獲得した情報を記憶として保持されています。つまり、記憶を司る脳の一部が損傷しているのではなく、辛い記憶が生活史の中から「解離」しているわけです。

解離性とん走

何の前触れもなく突発的に、家庭や職場、日常生活の全ての場から離れて(遁走)、放浪して、過去の一部、あるいは全部を思い出せなくなる障害です。

家庭崩壊や経済的破綻など辛い状況下で起こるケースが多く、このままでは自殺してしまいかねないという危険から本能的に自分を守るための行為だといわれています。

とん走の期間は、数時間から数年と、長短まちまちです。数時間の場合は、会社に遅刻してあらわれることになり、詐病と疑われることがありますが、無意識に発生する行動で、詐病の演技とは異なります。

数年のとん走の場合は、本人は別人として普通に生活しているので、周囲の人は、そのような事態に中々気づくことがありません。ただし、何かかのきっかけで自己を取り戻すと、抑うつ状態になり自殺願望などが生じ、ときには攻撃的になることもあります。

離人症

自分の意識が自分自身から離れ、遠ざかっていると感じる状態が「離人」です。たとえば、一心不乱に小説を読んでいるときなど、人から呼びかけられても聞こえないことがあります。

このような状態のレベルが深く、かつ慢性的で、日常生活に支障をきたすようになると、離人症と呼ばれる障害になります。離人症では、自分がまるで夢のなかにいるような感じです。

現実の出来事に現実感がなく、映画の画面を見ているように感じられます。離人感は、非常に疲れた場合に健常者にもみられますし、うつ病や統合失調症などの精神疾患でも部分症状としてあらわれます。

そこで離人症は、こうした精神疾患を起因としない以下のような症状(状態)を診断の基準としています。

●自分の精神過程または身体から遊離して、あたかも自分が外部の傍観者であるかのように感じることが持続的または反復的である。
●離人体験の間も、現実検討能力は正常に保たれている。
●それにより本人が著しい苦痛を感じ、または社会的・職業的な領域で支障をきたしている。
●薬物や前述の精神疾患その他の生理学的作用によるものではない。

解離性同一障害

解離障害の中でもっとも重い症状とされるのが解離性同一障害です。解離性同一障害では、複数の人格があらわれます。

典型的なものとしては、通常その人が本来の受身的で情緒的にも控えめな人格状態と、これと対照的なより支配的、自己主張的、敵対的、性的にもより開放的な人格です。

このほかに、小児期や子ども時代、思春期の人格が併存しています。複数の人格は、基本的人格と主人格に分類することができます。基本的人格というのは、生まれつきもっているオリジナル人格です。これに対して、主人格はある時期において身体を支配している人格です。

人格交代のスイッチがはいると、一瞬、うつろな状態になり、一種のトランス状態になり、時には演技かと思えるように意識消失発作があらわれます。意識消失と言うのは、首の後屈や失立(立つことができない状態)、強直けいれん発作、叫びなどの症状です。

中には、数分間に10人近くの人格交代がおこることもあります。これは、人格間のバランスが崩れて、それぞれの人格が我先に支配権を握ろうとする状態で、「ポップアップ」と呼ばれる状態です。

解離性症状の特徴

誤解されやすい病気

軽度の解離性とん走では、数時間のとん走のあと、我に返って会社に出かけますが、当然、遅刻です。しかし、遅刻の理由を訊ねられてもうまく説明することができません。

解離性健忘では、一般的な出来事や社会常識などの記憶は保たれているにもかかわらず、自伝的な(個人的な)記憶だけが抜け落ちて思い出せません。他のことは覚えているのに、都合の悪い部分だけ忘れたふりをすると思われがちです。

このように、解離性障害ということが広く知られていないこともあって、周囲に信じてもらえず、詐病と疑われることが珍しくありません。

本人に自覚がないことも

そもそも、解離性とん走や解離性健忘では、無意識的なとん走であり、記憶の剥落ですから、本人に病気だという自覚がありません。解離性健忘の場合、忘失している期間は、数時間のこともあれば、1年間という長期の場合もあれば、中にはこれまでの全人生に起きたことすべてを思い出せないこともあります。

ただし、「記憶のない期間」は明確に区切られていて、「最後の記憶」は覚えていて、「記憶が回復した」ときのことも覚えています。数時間の健忘の場合、記憶を失ったことに無頓着な人もいます。そのような人はそもそも医者にかからないので、解離性健忘の診断を受けないまま、日常生活を送っているのです。

診断が難しいこともある

解離性障害の症状は、疾病利得が絡んでいる場合には、詐病ではないかと疑われることもあります。疾病利得というのは、 例えば病気でいればみんなに優しくしてもらえるとか勉強や仕事などやらなければいけないことをやらなくて済むといった利益のことです。

また、解離性障害の症状は、精神疾患の症状に似ているところもあるところから、専門医でも診断に迷うということもあります。

そこで、たとえば解離性とん走の診断は、解離性同一性障害や特定不能の解離性障害の可能性やその他の精神疾患や身体疾患、詐病を考慮しながら行われています。

さらに、精神疾患と身体疾患の両面の鑑別が必要なため、「内科病歴、精神医学的病歴、身体診察、臨床検査、精神機能検査」の診察が行われ、アルコールなどの物質や薬物による生理的作用の影響も考慮されます。

解離性障害の治し方と接し方

責めない、威圧しない、感情的にならない

多くの場合、心的ストレスが引き金となって発症します。発症の経緯は、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と似ています。

従って、PTSDへの対応は、解離性障害の人への対応に応用できるでしょう。接し方の基本は、責めたり、威圧したりしない、感情的にならずに冷静に対応するということです。

理解してあげる

解離性障害は、常識では理解できないような症状です。詐病と誤解されがちなことは、解離性障害という病気に関する知識が乏しいことに原因があります。

ですから、家族や周囲の方は、まず解離性障害について学び、症状や特徴を理解する事が何よりも求められます。

安心できる治療環境をサポートする

解離性障害の治療の基本は、安心できる治療環境を整えることです。ここでいう治療環境というのは、家族など周囲の人の理解と主治医との信頼関係を意味しています。

解離性障害の主な原因は、心的ストレスによって他人に対して自己表現ができないためだとされています。つまり、解離されている心の部分は、安心できる関係性でしか表現できないということです。信頼できる治療環境を整え、患者に自己表現の機会を与えることが求めらます。

グランディング

患者さんが解離症状からなかなか醒めない時に用いられる手法の一つに「グラウディング(grounding)」というのがあります。

グラウディングとは、地に足をつけて、五感を使い、現実を感じさせる方法です。方法も難しくなくありません。例えば、イスに座る時は両足をしっかりと床につける、裸足になって地面を歩いてみる、日光を浴びることを意識するなどです。そうすることで現実感を取り戻すことができます。

解離性障害の治療

解離性同一性障害の治療で用いられているのが、ワークスルーと呼ばれる精神分析的心理療法です。

この療法では、抑圧された葛藤に対する解釈を行い、洞察を求めます。しかし、そのあともなお解釈に対する抵抗が反復して現れます。その抵抗を排除するために解釈と洞察を繰り返していきます。

この繰り返し行う過程が、「ワークスルー」と呼ばれるものです。ワークスルーでもっとも大切なことは、分析過程において患者自身が主体となって自己分析を行うことです。

正しい診断を

解離性障害は、診断の難しい精神疾患です。そして、正しい診断に至るためには、患者と主治医の信頼関係が不可欠です。もちろん、家族の適切なサポートも欠かせません。

また、解離性健忘、解離性とん走から回復したあと抑うつ状態になりうつ病に移行するケースも見られます。こうした予後も想定した上で信頼できる主治医をみつけ、忍耐強くサポートしていくことが重要です。

解離性障害の診察承ります

解離性障害の専門医が在籍している下記医療機関で診察を承ります。

鈴泉クリニック

溜池山王駅・国会議事堂前駅を出てすぐ近くの精神疾患診療を行うクリニック。うつ病、統合失調症、適応障害などの精神疾患診療、不登校、不適応、ひきこもりなど幅広く対応しています。

解離性障害の専門医「岡野憲一郎」が在籍。初診予約は大変混み合いますのでまずはお問い合わせください。

診療時間

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