過敏性腸症候群の下痢型の特徴、原因、治療法は?


過敏性腸症候群(IBS)は、主として大腸の運動および分泌機能の異常で起こる病気の総称です。IBSは、症状によって便秘型、慢性下痢型、混合型、分離不能型(ガス型)の4つのタイプがあります。今回のテーマは下痢型の特徴と対応策です。

目次

下痢型の特徴

IBSの症状の特色

腹痛、腹部不快感、そして便通異常がIBSの主たる特徴です。腹痛は、左下腹部に多く見られ、発作的にさし込むような腹痛か持続的な鈍痛のいずれかです。そして、腹痛は便意を伴って現れますが、排便後には一時的に軽快します。

参考までにIBSの診断基準は掲げておきます。
●腹痛あるいは腹部不快感が、最近3ヶ月の中の1ヶ月につき、3日以上を占め、下記の2項目以上の特徴を示す。

1)排便によって改善する
2)排便頻度の変化で始まる
3)便形状(外観)の変化で始まる

下痢症状が多く出る

IBSは便通の状態により下痢型、便秘型、混合型、分離不能型(ガス型)に分類されていますが、下痢型は、突如として起こる下痢が特徴です。便意が強いにも関わらず、1回の排便量が少なく、十分に排便できないため残便感があります。

この症状を何回か経験すると、突然おそってくる便意が心配で、通勤や通学や外出に支障をきたすようになります。また、そうした不安が、さらに病状を悪化させます。

水分不足に陥る危険性も

腸の活動異常で、水分の吸収があまりなされないまま便となったものが下痢です。ということは、下痢のときは、吸収されるべき水分がそのまま排出されているということでもあります。つまり、必要な水分が失われているということです。

水を飲むとまた下痢になりそう、と思い込みがちですが、下痢だからこそ水分の補給が必要なのです。水分の補給を怠ると脱水症になることもあります。

電車などで悪化しやすい

下痢型IBSはしばしば、通勤や通学の電車の中、つまり、トイレに行きたくても行けないような不安な場所で起こります。

そのことを意識すると、その緊張から余計にお腹が痛くなってきて、便意を催してきます。そして、漏れてしまったような辛い体験をすると、それがトラウマになり、症状が悪化します。

これらのプロセスは、IBSが、ストレスと不安という精神的なものと深くかかわっていることを示すものです。

下痢型は男性に多い

駅のホームで左の下腹部を抱え込んで、何かを我慢しているサラリーマンを写したCMの映像をご覧になった方が少なくないはずです。IBSの下痢型症状を示した映像ですが、登場するのは男性です。IBS下痢型は、男性に多くあらわれ、便秘型は女性に多いとされています。

IBSは、先進国に多い病気ですが、日本人では10〜15%に認められ、消化器科を受診する人の3分の1を占めるといわれています。

発症年齢は20〜40代に多く、男女比は1対1・6で、女性の発症率が高くなっています。また、厚労省の「国民生活基礎調査(平成22年)」によれば、便秘の人は約479万人、下痢の人は約217万人となっています。

下痢型の原因

腸の動きが活発すぎる

IBSの原因は、まだはっきりとはわかっていませんが、ストレスが絡んでいることは間違いのないところです。

脳にストレスがかかると自律神経を通してストレスが胃、腸に伝達されます。その結果、胃腸に腹痛や便通異常等が発生します。逆に下痢や便秘などの腸の不調も、自律神経を介して脳にストレスを与えます。

下痢型IBSでは、自律神経の乱れによって腸の働きに異常(腸の働きが活発化しすぎる)が出てきて発症します。そもそも、食べ物は大腸についた時点ではドロドロの液状です。そこから大腸を通るときに水分等が吸収されて、便としての形になっていいきます。

しかし、腸の動きが活発化しすぎると、便の水分が大腸で吸収されずに下痢となって排便されます。便秘はこの逆で、腸の働きが鈍って、硬い便の便秘となります。

ストレスが腸の動きを狂わせている

検査をしても、身体的な異常は認められないのに症状が治まらない・・・。そうなると、ストレスを疑うのが現代の常識です。

では、ストレスはどんな風に関与しているのでしょうか。腸の内容物を運ぶ「蠕動(ぜんどう)運動」をコントロールしているのが自律神経ですが、ストレスにさらされると自律神経に乱れが生じ、蠕動運動に異常が発生します。

また、消化管知覚過敏となり、心理的にも一種の強迫観念にとらわれるようになります。IBSの下痢型では、通勤・通学の電車の中や会議が始まる直前にしばしば現れます。

この状況は、症状がでてもすぐにトイレに駆け込めないような不安な環境です。いったんIBSの症状を経験すると、大きな不安を抱えて電車に乗り込むことになり、知覚過敏になってきた腸が反応し、腹痛、下痢の症状があらわれてきます。

身体的な負担による悪影響も

ストレスのほかに、身体的な負担による要因もIBS発症の契機となります。例えば寝不足や、身体的な疲労、急な寒暖差などは自律神経を乱す要因として考えられます。

もっとも、身体的な不安が直接的な引き金になるというよりも、身体的負担がストレスを呼び込んで発症につながるというべきでしょう。肉体的な疲労を溜め込まないように心がけましょう。

食事の影響も受けている

IBSが腸の運動の異常であるからには、当然、食事の影響も無視できません。実際、IBSの治療の中には、食事療法も取り入れられています。

よく知られているのが「FODMAP(Fermentable、Oligo-、Di-、Mono-saccaharides and Polyols)」です。FODMAPは、「発酵性のオリゴ糖、2糖類、単糖類、ポリオール」という意味ですが、これらの摂取量が多いとIBSが悪化しやすいとされています。

下痢型の治療法

下痢型にしろ、便秘型にしろIBSにとって、大切なことは日ごろからのストレス・ケアです。そのためには、生活習慣と食生活について、見直してみることも欠かせません。

日頃のストレスを減らす

IBSの発症の契機となっているのはストレスです。ストレスを上手に処理することが、IBSの予防と治療にとって不可欠です。

とはいえ、仕事のストレスを自分の意志でコントロールするには限度があります。働いている以上ストレスは、織り込み済みです。

それよりも、たまったストレスを発散する手法を身に付けることが重要です。週末には、気心の通じる友だちとの飲み会(ストレス発散会)をするとか、泣けそうな映画を観て思い切り涙を流すとか、スポーツ観戦にでかけるとか、人それぞれのストレス発散の手法を身に付けることをお勧めします。

健康的な生活を心がける

健康な生活とは、どんな生活なのでしょうか。考えてみると、私たちは、知らず知らずに不健康な生活に慣れきっていることに気づかされるものです。

健康な生活とは、具体的には次のようなことです。早寝早起きは無理としても、今より1時間早く寝て、1時間早く起きる。

暴飲暴食を避ける。決まった時間に食事をする。休みの日には、なまった体に活を入れるための運動をする。

この中の一つを地道に実行するようになると、他のこともおのずから整ってくるものです。

食事に気をつかう

食事のポイントはいくつかあげておきます。アルコール、コーヒー、辛い物など刺激の強い食品や消化の悪い食品を避けることは言うまでもないことです。

腸内の老廃物を体外に排出してくれる食物繊維を含んだ食品を摂るようにしましょう。

ただし、食物繊維には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維がありますが、植物繊維なら何でも良いというわけではなく、偏らず、バランスを考えてとるようにしてください。

ちなみに、不溶性食物繊維は、ごぼう、ブロッコリー、さつまいも、いんげん豆、大豆などなど、水溶性食物繊維は、わかめ、昆布、しいたけ、りんご、バナナなどです。このほか、腸の粘膜を強くする乳酸菌、ビタミンA、ビタミンB2などを摂ることもポイントです。

下痢止めを飲む

水がなくても飲めるようなタイプの市販の下痢止めをいつも身に付けておくというのも対策の一つです。いつでも飲めるということで不安もいくらか薄らぎます。

しかし、すでに述べてきたようにIBSは、ストレスという精神的要因が絡んだ症状ですから、下痢止めで根治することは不可能です。できれば医師の診断を受けたうえで、適切な治療を受けられることをおすすめします。

過敏性腸症候群は治せる

検査しても異常が認められないIBSの下痢は、身体的要因と無縁の特殊な下痢です。であれば、その特殊性に対応できる専門の医療機関で医師の指導を受けて、適切な治療に取り組むことが重要です。

下痢を甘く見ないで、IBSではないかと疑われたら、専門の医療機関で、本格的な治療に取り組むことが病気克服の早道です。


診療のご案内

当サイトは、精神疾患や発達障害の悩みや疑問を解決することを目的に運営を行っております。

診療をご希望の場合は下記詳細ページをご覧ください。

詳細を見る