子への悪口や嫌がらせに対する心構えはどうしたらいい?~親編~


子どもが悪口や嫌がらせを受けたらどうする?

 文部科学省の調査によると、2017年度に全国の小・中・高校等で認知されたいじめの件数が前年比28%増の41万4378件となり、過去最多となりました。学校別にみると、小学校が31万7121件で断然多く、中学校8万424件、高校1万4789件、特別支援学校2044件となっています。

 学童期の子どもを持つ親にとっては、気が気ではないデータです。
ただし、<悪口・嫌がらせ=いじめ>ではありません。それは、いじめへの予兆、あるいは入口と捉えるべきものです。
では、どうやっていじめになる前に子どもを守ってやったらいいのか・・・。これが今回のテーマです。

目次

基本は子どもの気持ち

悪口や嫌がらせはいじめなのか

 まず、調査の対象となった「いじめ」について、文部科学省の定義をみてみましょう。文部科学省は、いじめを以下のように定義しています。

1)個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。
2)当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているものとする。
3)当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等、当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものである。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302904.htm

「何があったの?」と聞きたがる親

 ある日、いつもは「ただいまー」と元気に声を出して家に帰ってきた子が、しょんぼりして、黙って帰ってくると、「何かあったの?」と聞きたくなるのが親というものです。

 しかし、子どもはなかなか素直に答えません。すると、親はますます心配になって、何があったのかを聞きだそうと躍起になり、ひょっとしたら「いじめ」にあっているのかも、と思い、心配がつのります。

 悪口を言われたり、嫌がらせをされたりすると誰だって気分が落ち込みます。でも、ここで注意しなければならないことは、「何があったのか」ということよりも、「そのことで、子どもがどのくらい傷ついているか」、あるいは、不愉快な出来事を「子どもがどうとらえているか」、ということです。

子どもの気持ちと向き合う

 しょんぼりと落ち込んでいる子どもを見て、「それくらいでくじけちゃだめよ」、「ママだって、子どものころそんなことがあったけど、口惜しいから言い返しちゃった」など元気づけたい親心で子どもを励ますママもいますが、これはあまり感心できません。自分の個人的な経験の強要にもつながるのですから。それよりも、辛い出来事を子どもがどう感じているのか、子どもの気持ちを忖度し、子どもの気持ちと向き合うことが大切です。

どうやって話を聞きだすか

子どもは話したがらない

 会社で不愉快なことがあって、ムスッとした顔で家に帰ってくると、奥さんが、「どうしたの?会社で何があったの?」と聞いてきます。それに応えて、「うん、今日、かくかくしかじかのことがあった」と不愉快な出来事を素直に話す人は、まずいません。不愉快なことは、話したくないものです。子どもだって同じです。そして、それがタチのわるいいじめだとすれば、子どもの口はますます堅くなります。いじめを発見するのは、なかなか難しいことなのです。

いじめを発見するための会話

学校で何かあったに違いない。でも、何があったのかを聞きだしたい気持ちを押さえて、子どもの主観に訴えるような会話がいじめ発見のポイントです。

「あれっ、学校で何かいいことあった?嬉しそうな顔色だよ」
「まあね・・・」
「ママにも教えて。一緒に嬉しがりたいから」
すると、子どもは今日あったいいことを語り始めるでしょう。

「あれっ、元気がないね。辛いことでもあったのかな」
「・・・・」
「辛いことって話たくないものだよね。でも、キミの辛い気持ちの色が知りたいな。グレー、それともブラック?」
「・・・ブラック・・・」
「ブラックか。それは辛いよね。話したくない理由、よくわかるよ」

 これで子どもが話し始めるとは限りません。でも、何かあったの?と出来事を問いただすよりも、子どもの主観にアクセスして、気持ちをほぐす会話の方が、有効であることは間違いないところです。 そうして、肝心なことは、普段からこうした会話を基本に子どもと心の通ったコミュニケーションを積み重ねているということです。

子どもはなぜ話したがらないのか

 大人でも不愉快なことや自分が受けた辛い仕打ちを話したがらないことは、既に述べた通りですが、子どもの場合、このほかに、話すことのリスクを抱えているということを押さえておきましょう。

 「いじめ」を受けている子が一番願うことは、「これ以上悪化しないこと」です。勿論、いじめを解決してほしい、助けて欲しいという気持ちは必ずあります。しかし、そこで親が介入したことが知れ渡ると、「チクったな」ということになり、いじめがますます陰湿になることを子どもは恐れています。では、「いじめ」のおそれありと判断した場合、親としてはどう対処すべきでしょうか。

親がやるべきことは何か

親の介入はトップシークレットで

 このままだと子どもが「いじめ」に晒されるようになると思うと、いてもたっていられなくなります。なんとか解決したいという思いで、校門で待ったり、子どもの友だちを通じていろいろと実情を訊ねてみたくなります。

 このように、子どもを守りたい一心で、親が介入するケースも少なくありませんが、そのことが知れ渡るといじめがエスカレートすることは既に述べたとおりです。子どもはこのことを恐れているのです。

 実際、いじめっ子が見ているところで、「どうしたの?」と声をかけることさえ、子にしては恐怖なのです。なぜなら、あとで、「何助けてほしそうにしてるんだよ」とつつかれ、子どもはますます窮地に追い込まれるからです。ですから、親が介入し、学校に相談するときなどは、その行動は、トップシークレットで、慎重に行う必要があります。

こどものジレンマに配慮する

 子どもは早くこの状態から抜け出したい、救ってほしいと思う一方で、親の介入が知れ渡ることの板挟みにあって、なかなか話したがらないのです。親の行動は、子どものこのジレンマに配慮して行わなければなりません。こういうことがわかると、いじめている子どもに直接会って「いじめをやめなさい」と突進するのは、逆効果だということが分かるはずです。

 親がいじめっ子の親に突撃するのも解決にはつながりません。そうしたことにならないように配慮することを事前にはっきりと子どもに伝えたうえで、子どもから詳しい事情を聞きだすことが大切です。

いじめを発見した後の対応は

絶対的な味方になること

 子どもの重い口が開き、明らかにいじめにあっているとわかったとき、親はどう対応すべきでしょうか。子どもにとっては、学校やクラスという小さな社会が全てです。その学校で最悪の状態にいる子どもにとって、将来に希望をもつことはできません。加えて、親が自分の話にくい状態を理解してくれないとなると、家庭にも居場所がなくなり、苦しみが増してきます。

 いじめは一朝一夕に解決できるような問題ではありません。親にとっても、どうしたらいいのか、という試行錯誤の時期を過ごさなければなりません。いじめを解決するには、一定の時間と学校などの協力が不可欠でが、ただ一つ、子どもの絶対的な味方になることは簡単にできます。
「どんなことがあっても、ママはキミの絶対的な味方になるからね。忘れないでよ」
 子どもに、絶対的味方宣言をしましょう。この強い気持ちは、必ず子どもに伝わり、子どもの心に働きかけ、解決に向けた第1歩が始まります。

事実に基づく情報収集

 自分のそばには絶対的な味方がいる、何とかしてあげたいと願うサポーターがいることを感じ取った子どもは、自分が置かれている苦境を話始めるようになります。そこで、「いつ、どこで、どんなことをされて困っているのか」を事実に基づいて整理していきましょう。学校に相談するのは、その後です。

学校に相談する

 子どもがいじめにあっていると知った親の中には、すぐに学校に乗り込み、大きな声で担任の教師を詰問する人もいます。教師や学校に対して、自分の子どもの立場だけをよりどころにした自己中心的で、時には理不尽な要求をする親を「モンスターペアレント」といいます。モンスターペアレントにならないことです。愛するわが子が苦痛を受けていることは大変辛いことですが、矛先を学校に向けるのは問題の解決が遅れるだけです。結局自分の子の首を絞めているだけであることに気づきましょう。

先生との信頼関係

 担任の先生に相談するときに重要なことは、自宅で聞きとった事実をありのままに伝えることです。いきなり「なぜ、学校でいじめに気付かなかったのですか?」などと糾弾するのは考え物です。
感情をあらわに糾弾し、抗議すると先生たちは、激高している親への対応に手を取られ、いじめ対策は後回しになります。

 いじめの解決には、親のサポートと学校の協力体制が不可欠です。そのためには、親が知った事実と学校側が把握した事実を突き合わせ、問題の核心をあぶりだして対応しなければなりません。親と学校側の信頼関係が構築されたうえで、有効な対策を講じることができるのです。

いじめは突発的な事故ではない

 いじめは、子どもが通学の途中で遭遇する突発的な交通事故とは異なる「事件」です。始まりがあり、今まで違った状況があらわれ、その渦中にまきこまれた子どもが心身の苦痛を被る苦難の物語です。
 ところが、子どもの苦難が察知しにくいというのが、いじめの特徴です。既に述べたように、子どもは、自分の苦難を察して欲しいと願う一方で、みじめな自分を隠したいというジレンマにたたされています。
 ですから、いじめの有効な予防策は、いかにして早く子どもが巻き込まれている状況を察知するかにかかっています。そのためには、日ごろの観察となんでも話せるような会話の環境を築くことが、とても重要になってきます。