障害者の雇用を促進するためのさまざまな助成金


障害者雇用促進法という法律によって、事業主(企業)は、規模に応じて一定数の障害者を雇用する義務があります。とはいえ、企業にとっては、障害者を雇用することで負担が生じるのも事実です。

そこで法律では、義務を履行した企業には、一定額の調整金・報奨金を支払い、義務を達成できなかった企業からは、納付金を徴収することになっています。今回は障害者の雇用を促進するために国が行っている「アメとムチ」の制度について紹介します。

目次

企業が障害者を雇うメリットとは

障害者雇用促進法では、障害のある人でも健常者とともに個々の能力や適性に応じた職に就いて、地域社会の中で自立した生活を送ることを目指し、そのために雇用側に一定の障害者の雇用を義務づけています。

これを実効性のあるものにするために設けられている仕組みが「障害者雇用納付金制度」です。

企業は、障害者を一定数、雇う義務がある

義務として雇用しなければならない障害者と常用労働者の割合を示したものを「法定雇用率」といいます。平成30年の改正で、民間企業の法定効用率は、平成30年4月1日から2.0%から2.2%に引き上げられることになりました。

なお、 平成30年4月から3年後には、民間企業の法定雇用率は2.3%に引き上げられることになっています。

納付金制度とは?

ところで、障害者を雇用するためには、施設、設備の改善が必要になる場合があります。また、「障害者雇用推進者」と呼ばれる特別の雇用管理者が義務付けられることになりました。

このように障害者を雇用するにあたっては、健常者の雇用に比べて一定の経済的負担を伴うことになります。そこで、障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図るために設けられたのが 「障害者雇用納付金制度」です。

この制度のポイントは、以下の3点に要約できます。

●法定雇用率を未達成の企業のうち、常用労働者100人超の企業から、障害者雇用納付金が徴収される。
●この納付金を元に、法定雇用率を達成している企業に対して、調整金、報奨金を支給する。
●障害者を雇い入れる企業が、作業施設・設備の設置等について一時に多額の費用の負担を余儀なくされる場合に、その費用に対し助成金を支給する。

納付金と調整金

冒頭に述べたアメとムチのたとえでいえは、納付金がムチにあたります。そして、この納付金を元に、法定雇用率を達成している企業に対して、調整金、報奨金が支払われます。調整金と報奨金がアメというわけです。

その金額をまとめたのが下記の1です。

表1 納付金と助成金(調整金・報奨金)

納付金調整金・報奨金
不足一人に付き、納付月額5万円
※常用労働者100人超の企業から徴収し、100人以下の中小企業からは徴収しない。
※常用労働者100人超(常用労働者200人超300人以下の事業主は平成27年6月まで、常用労働者100人超200人以下の事業主は平成27年4月から平成32年3月まで納付金が4万円に減額される)
超過雇用者一人当たり月額2万7千円
※雇用率達成の事業者
超過雇用者一人当たり月額2万1千円
※障害者多数雇用の中小企業事業主

合理的配慮のための助成金

障害者雇用促進法では、障害者に対する差別の禁止や障害者が職場で働くに当たって直面するさまざまな支障を改善するための措置を設け、支障を改善するための措置を講ずることも義務付けられています。これは「合理的配慮」と呼ばれるものです。

障害者相談窓口担当者の配置助成金

平成30年の改正で、合理的配慮の取組みを推進するため、従前からある相談体制に加えて、新たに障害者の雇用管理の経験を有する担当者を配置することが新設され、そのための助成金が設けられることになりました。

また、外部の障害者雇用専門機関に相談業務を委託することなどにより、その機能を拡充する場合にも、助成金が支払われることになりました。

これをまとめたのが表2です。

表2 相談窓口業務に対する措置と支給額

対象となる障害者対象となる措置支給額
知的障害者


身体障害者


精神障害者
新たに障害者相談窓口担当者を「増配置」①専従の場合2名まで。1名につき月額8万円 (最大6か月)
②兼任の場合 5名まで。 1名につき月額1万円 (中小企業:最大12か月、その他:最大6か月)
障害者相談窓口担当者が 研修を受講研修等の受講費の3分の2(最大20)
1名につき時間額700円 (上限月10時間かつ10名まで)
相談業務等を専門機関に委託委嘱経費として支払った額の3分の2(上限月額10万円かつ最大6か月)

※支給は1回限り

特例報奨金

このほか、在宅就業障害者や在宅就業支援団体に年間35万円以上の仕事を発注した事業主に対して、特例調整金又は特例報奨金が支給されます。

さまざまな助成金

ざっと障害者雇用促進法による納付金と助成金の中身を述べてきましたが、このほかにもさまざまな仕組みで障害者の雇用を確保する制度が用意されています。

助成金と補助金

障害者雇用のさまざまな仕組みを紹介する前に助成金と補助金について簡単にまとめておきます。助成金と補助金は、申請をすることで国から受け取れる資金ですが、助成金は、要件を満たしたものであれば、原則だれでも受け取れます。

一方補助金は、申請をして審査に合格しないと受け取れません。ちなみに、障害者雇用促進法の調整金と報奨金は助成金にあたります。

表3 障害者の雇用を促進するための助成金

特定求職者雇用開発助成金
(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
発達障害者や難治性疾患患者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。
特定求職者雇用開発助成金
(障害者初回雇用コース)
障害者雇用の経験のない中小企業(障害者の雇用義務制度の対象となる労働者数45.5~300人の中小企業)が障害者を初めて雇用し、当該雇入れによって法定雇用率を達成する場合に助成されます。
障害者トライアルコース
障害者短時間トライアルコース
ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により、就職が困難な障害者を一定期間雇用することにより、その適正や業務遂行可能性を見極め、求職者及び求人者の相互理解を促進し、早期就職の実現を目指す。
障害者雇用安定助成金
(障害者職場適応援助コース)
職場適応・定着に特に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を実施する事業主に対して助成されます。
障害者雇用安定助成金
(中小企業障害者多数雇用施設設置等コース)
障害者の雇入れ等にかかわる計画を作成し、当該計画に基づき障害者を5人以上雇用するとともに、障害者の雇入れに必要な事業所の施設・設備等の設置・整備をする中小企業である事業主に対して助成されます。
人材開発支援助成金
(障害者職業能力開発コース)
象障害者の障害者職業能力開発訓練事業を行うための施設または設備の設置・整備または更新を行う事業主および対象障害者に対して障害者職業能力開発訓練事業を行う事業主に対して助成されます。
障害者雇用安定助成金
(障害者職場定着支援コース)
職場定着支援計画を作成し、「柔軟な時間管理・休暇付与」「短時間労働者の勤務時間延長」「正規・無期転換」「職場支援員の配置」「職場復帰支援」「中高年障害者の雇用継続支援」「社内理解の促進」のいずれかの措置を講じた事業主に助成されます。

障害者の雇用が着実に増えている

障害者雇用促進法をはじめとして、国は障害者のための雇用環境の整備に取り組んでいます。平成29年の厚労省の調査によると、雇用障害者数は49万5795人で、対前年4.5%増となりました。雇用率も平成29年時点での法定雇用率2.0%に近づいています。

これは企業の障害に対する受け入れ態勢が整備されてきていることを物語るものです。参考までに、法定雇用率(29年時点で2.0%)を上回っている企業を産業別にみると以下のようになっています。