精神科入院形態の種類、任意入院、措置入院って?割合はどれくらい?


精神科病院を辞書で調べると、およそ次のようなことが記されています。

主に精神障害のある者を治療・保護する病院。精神保健福祉法に基づいた病院で、原則として都道府県に設置義務が課されている。一般には精神病院とよばれていたが、平成18年(2006)12月に精神科病院に改められた。

都道府県に設置義務が課せられた、という部分が目を引きます。精神科病院が他の一般病院と異なるのは、法律に基づいた強制的な入院を受け入れる病院でもあるということです。つまり、入院の形態が他の病院と違ったところがあります。

こう書くと、なんだか怖そう、というイメージですが、入院の大半は、他の病院と同じような、本人の意思(同意)に基づいた任意入院です。

入院の形態は5つありますが、わかりやすくするために、ここでは入院を誰が決定するかという視点からそれらを三つに分けて説明します。

目次

本人の同意による入院

骨折したので病院に入院した、病院に入院して赤ちゃんを出産した・・・。このような一般の病院と同じように本人の同意(意志)で入院するのが、精神科病院における「任意入院」です。精神科病院に入院した患者の6割が任意です。

保護者の同意による入院

自傷他害の恐れのない患者を対象とした入院です。

医療保護入院

精神疾患では、本人の同意がなかなか得られないことがよくあります。本人は、自分は病気ではない、と言い張り、任意を拒む人が少なくありません。そこで、精神保健指定医(又は特定医師)の診察及び家族等のうちいずれかの者の同意を得て、実行されるのが保護入院です。

医師の判断による入院

入院させなければ自傷他害のおそれのある精神障害者を対象とした強制的な入院措置です。

措置入院

自傷他害のおそれがある人を警察官が発見したときは、すみやかに保健所長を通じて都道府県知事に通報しなければならないとされています。

通報を受けた都道府県知事は、県の職員(多くの場合は保健所の職員)に調査を行わせた上で、診察の必要があると認めたときは、通常2名の精神保健指定医による診察を依頼しなければなりません。

2名以上の精神保健指定医が入院すべきであると決定したときに実行されるのが「措置入院」です。入院期間は、入院措置の解除があるまでです。

緊急措置入院

内容は措置入院と同じですが、緊急に入院させる必要があるケースでは、精神保健指定医が2人ではなく1人でも実行できるというのが「緊急措置入院」です。

ただし、入院期間は72時間(3日間)に制限されます。

応急入院

自傷他害の恐れがあるほどの症状ではないが、緊急を要するようなケースで実行されるのが「応急入院」で、上記の4つの入院形態のどれにもあてはまらないケースです。

応急入院では、知事の決定は不要です。実体としては医療保護入院に近いのですが、入院に同意しない身元不明の人とか保護者と連絡が取れない人などが対象です。

応急入院では、精神保健指定医か特定医師一人による診断が必要で、入院期間は、前者の場合72時間、後者の場合12時間に制限されます。なお、入院を受け入れることができるのは、施設基準を満たして応急入院指定を受けている病院に限られます。

精神保健指定医と特定医師

精神科病院の入院に際しては、精神保健指定医と特定医師が関与してきます。

精神保健指定医

精神科医療の現場では、患者に入院を強制したり、やむを得ず身体的拘束を行うなどの処置が必要になります。このようなときに、人権を配慮した上で実行の可否を診断するのが精神保健指定医です。

精神保健指定医は、国家資格を持つ精神科病院のエキスパートです。精神科3年以上を含む5年以上の臨床経験を持つ医師であること、特定の8症例のリポートの提出などが要件で、リポートの審査が行われた上で合格すれば資格が与えられます。

合格率は5~6割ぐらいと言われています。5年以上の精神科医であれば誰でも取得できるという資格ではありません。実際、ハードルが高いために、精神保健指定医の資格の不正取得まで起こっているくらいです。

特定医師

特定医師は、医療保護入院や応急入院の診断に関与しますが、その診断に基づく入院期間は12時間以内です。精神保健指定医は72時間ですから、精神保健指定医が来るまでの緊急リリーフ登板といった役柄です。措置入院や緊急措置入院など強制力の強いケースでの診断には関与しません。

精神科2年を含む医師を4年の臨床経験があり、精神保健指定医が複数常勤しているなどの条件を満たしている特定病院に勤めていたことが、特定医師の条件です。

両者の比較

以上述べてきた5つの入院形態のうち、任意入院では、精神保健指定医も特定医師も関与しません。残りの4つの入院のうち、精神保健指定医はすべての診断に関与しますが、特定医師は医療保護入院と応急措置入院だけの診断医に関与します。

入院期間に関しては、精神保健指定医は、緊急措置入院で72時間ですが、特定医師は、医療保護入院、応急入院で12時間となっています。

入院形態の比較

見てきた通り、精神科病院には、様々な入院の形態があります。それぞれの特徴を表にまとめましたので参考にしてください。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく入院形態

任意入院:
・本人自身で物事を正しく理解し、入院治療の必要性や的確な入院時期についての判断ができる状態での入院です。
・「任意」による入院ですから、医師の許可があれば、自由に退院することができます。
・精神保健指定医の診察は不要。

医療保護入院:
・本人が入院を拒み、入院の同意が得られないとき、家族などが入院に同意をすることで入院させる入院です。
・精神保健指定医の診察が必要。
・特定医師の診察の場合、入院期間は12時間。

措置入院:
・自傷他害のおそれがある人に対する強制的な入院措置。
・精神保健指定医2名による診察が必要。
・入院期間は自傷他害のおそれがないと判断されるまで。

緊急措置入院:
・措置入院に隼じますが、急速な入院が必要な場合の強制的な入院措置
・精神保健指定医1名の診察が必要。
・入院期間は72時間。

応急入院:
・緊急に入院治療を行う必要があるにもかかわらず、本人が入院を拒否している場合の措置。
・精神保健指定の診察、もしくは特定医師の診察が必要。
・入院期間は、精神保健指定医で72時間、特定医師で12時間。

割合は?

5つの入院形態のうち、実際にはどのような入院が多いのでしょうか。厚生労働省の資料をもとにまとめてみました。

割合はおおよそ6:4:0.1

任意入院と医療保護入院、措置入院の割合は、6:4:0.1の割合です。ほとんどが任意入院と保護入院で占められています。恐ろしい犯罪にかかわるような措置入院は、端数を四捨五入した0.1%に過ぎず、最近は減少傾向です。

疾患によって割合は異なる

入院のほとんどを占める任意入院と医療保護入院で精神疾患別にみるとどうなるでしょうか。気分障害は任意入院で7割、医療保護入院で3割です。

統合失調症では、任意入院で6割、医療保護入院で3割です。認知症となるとこれが逆転し、任意入院で4割、保護入院で6割です。本人の認知症の低下があらわれる認知症では、どうしても本人の同意によらない医療保護入院が多くなります。最近では、この認知症患者の医療保護入院が増えてきています。

「精神科病院への入院=怖い」のイメージは間違い

本人の同意がなくても、またや保護者の同意がない場合でさえも、入院させられるのが精神科病院の特徴です。ここから、精神科病院は怖い、というイメージが流布されているのですが、見てきた通り、その割合は1%以下です。

加えて、行政による強制措置が取られ、院内では拘束などの処置がとられこともありますが、そのような場合も、精神科のエキスパートである精神保健指定医の診断が必要とされ、人権の保護には十分すぎるほどの配慮が行われています。

それもこれも、患者と患者の家族の負担を減らすための措置であることを理解すれば、精神科病院は怖い、などとはもう言えなくなるはずです。

参考:
・厚生労働省 [入院制度について]
・富田三樹生 [東大病院精神科の30年]


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