多量のアルコール飲酒による死亡原因とは?突然死の可能性は?


酒浸りの日々が続くと、稀な例外を除いて、遅かれ早かれ依存症になります。アルコール依存症は、うつ病を併発するばかりでなく、肝臓、糖尿病などの内臓疾患を併発します。それは死にいたる病です。

目次

多量飲酒による死亡リスク

多量飲酒の怖いところは、突然死のリスクが高いということです。アルコール関連死の1割は突然死というデータもあるくらいです。

多量のアルコール飲酒による死亡リスク

様々なデータが、多量のアルコール飲酒が死に至る病であること立証しています。たとえば、厚生労働省の研究班が2008年に調査したものによると、疾病単位ごとにアルコール寄与率を用いたアルコールによる年間死亡数は、ざっと3万5000人です。これは総死亡数の3.1%にあたります。

また、WHOの報告によると、飲酒が原因の死者は2012年に約330万人に上り、これは世界全体の死者の5.9%に相当するということです。ちなみにエイズによる死者は2.8%、結核は1.7%、暴力は0.9%となっています。多量のアルコール飲酒のリスキーな側面がお分かりでしょう。

アルコール依存症とうつ病

アルコール依存症が精神疾患の一つであるうつ病を併発することは広く知られているところです(後述)。

アメリカの調査によると、現在または過去にアルコール依存症と診断された人のうち、調査前の1年間に限っても、27.9%の人がうつ病を併発していました。

依存症ではない人と比べると、うつ病になる危険性はざっと4倍です。

様々な心・身体疾患のリスクに

アルコール依存症(多量飲酒)は、さまざまな身体疾患も併発します。その代表的なものが肝硬変、糖尿病、心疾患、ガンなどです。

先に述べたWHOの報告によると、アルコールに起因する死者の直接的な死因で最も多かったのは、心疾患と糖尿病で、全体の約3分の1を占めています。

2番目には、車の衝突をはじめとするアルコール関連の事故が17.1%を占めています。また、世界の死者の5%は、直接的、間接的にアルコールが原因であるとされています。

多量のアルコール飲酒は、病死ばかりではなく、事故死のリスクも高いわけです。

うつ病と併発して自殺することも

気持ちが落ち込んで暗くなるばかりではなく、考え方も暗くなるのがうつ病です。うつ病患者さんは、「生きていても意味がない。いっそ死んでしまいたい」、と思い詰めるようになっていきます。

これが、うつ病の症状の一つである「希死念慮」という症状です。アルコール依存症からうつ病を併発した人の自殺願望は、うつ病だけの人に比べると高いとされています。

飲酒と自殺の関係

アルコール依存症とまではいかなくても、習慣的な大量飲酒も自殺と深い関係にあります。日本の調査では、自殺例全体の中で32.8%からアルコールが検出されています。海外の調査では平均で自殺者の37%からアルコールが検出されています。

このほか、非飲酒者と週に18合(414g)を飲酒している人では、後者の大量飲酒者の自殺する危険率は2.3倍というデータもあるくらいです。

その理由として、飲酒は絶望感、孤独感を増強し、自分に対する攻撃性を強め、衝動的な行為に走りやすくなるからだとされています。

死亡事故につながりかねない飲酒運転

アルコールの危険な側面の代表例が飲酒運転です。警察庁の統計によると、平成5年の飲酒運転による事故件数は1480件、死者1626人でした。その後、罰則の強化で飲酒運転事故は大幅に減ってきましたが、それでも平成28年では、213件で221人の尊い人命が失われています。

ちなみに、全事故に件数のうち死亡事故が占める割合は、0.68%ですが、飲酒事故に限ってみれば5.67%で、8.3倍となっています。

大量飲酒による突然死

突然死の1割はアルコールが原因

健康そうに見えた人が突然死亡するのを「急死」といいます。これに対して「突然死」は、症状が出てから24時間以内に死亡することをいいます。

直接的あるいは間接的に飲酒が関与して亡くなる死をアルコール関連死と呼びますが、すべての突然死の約1割がアルコール関連の突然死だとされています。

このうち内因性急死(病気が原因で起きる突然死)としては、過度の飲酒による肝硬変への進展による肝不全,門脈圧亢進症による食道静脈瘤破裂などがあります。このほか、急性・慢性膵炎、アルコール性心筋症,感染症の併発などが考えられます。

急性アルコール中毒

新入生歓迎のコンパなどで、イッキ飲みをさせられた新入生が急性アルコール中毒で亡くなったというニュースが時々報じられます。

急性アルコール中毒というのは、大量のアルコールを短時間で摂取することによって、血中アルコールが急上昇し、アルコールの毒性による中毒症状で、死にいたることも珍しくありません。

但し、中毒というのは毒性を持ったものが体内に許容量を超えて入ったことで体に異変が生じる症状で、アルコール依存症とは別のカテゴリーの症状ですが、アルコールが持つコワイ側面の一つです。

アルコール性肝障害

アルコールによる臓器障害の代表格は肝臓疾患です。アルコール依存症で精神科へ入院する患者さんの9割にアルコール性肝障害が見られます。

一日平均日本酒換算で約6合、10年以上飲み続けると、80%の人に肝障害が見られるようになります。まず、肝臓に脂肪がつく脂肪肝を起こし、肝臓は機能が低下します。

自覚症状がないまま、さらに飲酒が続くとアルコール性肝炎やアルコール性肝線維症となり、腹痛、発熱などの症状がでてきます。そのまま飲酒を続けると肝障害の末期、肝硬変になります。

肝硬変になると、肝臓へ流れるはずだった血液が食道静脈のほうへ流れ、血管が膨張して食道静脈瘤ができます。この食道静脈瘤が破裂すると、突然死が訪れることになります。

循環器障害

肝臓疾患についで多いのが循環器の疾患です。飲酒と関連する主な循環器の疾患には、心筋梗塞、心不全、高血圧、脳梗塞・脳出血、不整脈、末梢血管障害があります。

なかでも要注意は、脳卒中や心臓病のリスクを高めるといわれている高血圧です。日本人の死因の第3位を占める脳卒中は、脳の動脈硬化によって脳の血管が詰まったり、破れたりする病気です。

心臓病に含まれる心筋梗塞は、冠動脈の動脈硬化やけいれんによって心筋への血流が不十分となり、心筋が壊死に陥った状態のことです。

このように長期にわたるアルコールの多量飲酒は、肝臓や循環器のほかに、食堂、胃、歯、口腔、神経などで障害を起こします。

アルコールの大量飲酒が及ぼす健康被害は200種類以上にも関係しているといわれています。また、一般病院への入院患者の2割以上は、飲酒が原因で発病し、病状を悪化させているという調査報告があるくらいです。

このほか、結核や、エイズを引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肺炎といった感染症にもかかりやすくなるといわれています。

事故死

将棋に「頓死」という言葉があります。詰まないはずの王が逃げ方を誤ったりして詰まされてしまったり、単純に自玉に詰めろ(王手の一歩手前の状態)がかかっているのをうっかりして違う手を指し、呆気なく詰まされてしまった場合に使われます。

いってみれば、うっかり運転の事故死のようなものです。飲酒酩酊は、さまざまな事故のもとです。酔っぱらって入浴した結果溺死したとか、高いところから落っこちて、打ち所が悪くて死亡したとか、冬、屋外で眠り込んでしまったために凍死したなどなどの頓死例に事欠きません。

また、飲酒による交通事故は、自分は死なないまでも、相手を死なせてしまえば、人生を棒にふることになります。「乗るなら飲むな、飲むなら乗るな」の警告は、車の運転だけに限るものではないことを肝に銘じておきましょう。

アルコールによる死を避けるためには

アルコール依存症や依存症とまではいかなくてもアルコールの大量飲酒の陰には、死に至る病が待ち受けています。これを克服するためには、どうすればいいのでしょうか。

アルコール依存症の治療法

アルコール依存症の人は、ちょっとしたきっかけから酒の味を覚え、酒なしには暮らせなくなった人です。酒さえ断てれば問題は解決するのに、これができないのがアルコールに限らず依存症の難しいところです。

わが国では、アルコール依存症の治療は、もっぱら入院治療ですが、治療は以下のような3段階に分けて行われます。

1) 体とこころに起きている合併症の治療と離脱症状などを対象とした解毒治療
2) 精神療法によるリハビリ治療
3) 抗酒薬の服用や自助グループへの参加など退院後のアフターケア

メインは精神療法

入院治療のメインとなるのは、精神療法です。これは、個人精神療法と集団精神療法がありますが、本人に飲酒問題の現実を認識させ、断酒の決断へと導く療法です。

また、退院後のリハビリ治療を視野にいれて自助グループへの参加なども始め、本人や家族に十分な説明をしたうえで抗酒薬の投与が行われます。

治療するのに今より早い時はない

自覚症状のないまま深みにはまり、気が付いた時には死に至る病にとりつかれている、というのがアルコール依存症の怖いところで、「サイレント・キラー」とよばれる所以です。

できることなら、アルコール依存症の一歩手前で、心身に異常が見られた段階で治療に取り組む決断をくだすことが重要です。

さらにその前に、酒頼りの暮らし方を改めることが出来れば、言うことなしです。そのためには、酒以外に自分なりのストレス発散の手段を身に付けるように心がけるようにしましょう。


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