アルコール依存症とうつ病の関連性とは?治療方法はある?


アルコール依存症が、しばしばうつ病を併発することは広く知られているところです。アルコール依存症でない人と比べると、うつ病になるリスクはざっと4倍というデータもあるくらいです。

目次

アルコール依存症とは

アルコールなしでは暮らしていけなくなった人たち、逆にいえばアルコールに支配され、それを手に入れるためには何でもやりかねない症状、これがアルコール依存症です。

数多くある依存症の一種

依存症とは、「特定の物質や行為・過程に対して、やめたくてもやめられない、ほどほどにできない状態」を指します。依存症は大きく二つの種類があります。

一つは、「物質依存」、一つは「プロセスへの依存」です。アルコール依存症は、薬物依存とならぶ物質依存の代表的症状です。

物質依存では、摂取を繰り返すことによって、以前と同じ量や回数では満足できなくなり、満足するまで量や回数を増やします。量を増やさないと気が済まなくなってしまい、コントロールもできなくなります。

プロセス依存とは、特定の行為や過程に必要以上に熱中し、のめりこんでしまう症状で、ギャンブル依存症が代表的な症例です。インターネットゲーム依存症などもプロセス依存症に含まれますが、精神医学における診断基準(DSM-5)に含まれているのは、ギャンブル依存症のみです。

このほかに、特定の人との人間関係に依存する関係依存と呼ばれるものがあります。ストーカー、DVはこのカテゴリーに含まれますが、精神医学では、依存症のひとつとはみなされていません。関係依存という現象はあり、治療の対象となることはあるのですが、「関係依存症」という特別な病名は存在していません。

アルコール依存症の症状

時と場所をわきまえず、「酒を飲みたい」というのを飲酒渇望といいます。アルコール依存症の人たちは、この飲酒渇望にさいなまれています。

そして、飲み始めると、1杯だけのつもりが2杯になり、3倍になり、結局、あるだけ飲んでしまいます。飲む量と時間をコントロールできないのです。

その結果、身体的、精神的に様々な症状がでてきます。よく知られているのが離脱症状(禁断症状)です。

症状の程度にもよりますが、軽・中度の場合、身体的には、手のふるえ、発汗、心悸亢進、高血圧、嘔気、嘔吐、下痢、体温上昇、さむけなどがあらわれてきます。

精神的には、睡眠障害(入眠障害、中途覚醒、悪夢)、不安感、うつ状態、イライラ感、落ち着かないなどの症状があらわれ、重度になると、けいれん発作、一過性の幻聴、せん妄などの意識障害があらわれてきます。

患者は80万人、予備軍は440万人

お酒の適量は20mgと言われています。これは、ビールの中びん1本に相当します。

2003年に実施された全国成人に対する実態調査によると、酒を飲む日に60g(中びん3本)以上飲酒している多量飲酒の人は860万人、アルコール依存症の疑いのある人は440万、治療の必要なアルコール依存症の患者さんは80万人いると推計されています。

また、「アルコール白書」によれば、国民一人当たりの消費量は、6.5リットルでアメリカ、カナダ並の水準です。飲酒すると顔面が紅潮する酒に弱い人が約半分存在するわが国では、この飲酒量は要注意です。

もともと、我が国はお酒に寛容な国柄ですが、最近では飲酒による交通事故やうつ病・自殺の問題が 注目されるようになってきました。

このほか、多量の飲酒による身体疾患はもとより、家庭内暴力や児童虐待、借金などの経済的困窮、職場での欠勤・休職などの問題を引き起こしています。アルコール依存症は、家庭ばかりでは社会的にも大きな損失をもたらす病気です。

様々な疾患を誘発しかねない

アルコールの多量飲酒は、さまざまな身体疾患も併発します。その代表的なものが肝硬変、糖尿病、心疾患、ガンなどです。

WHOの調べによると、アルコールに起因する病気や外傷は60にものぼり、アルコールに起因する死者の直接的な死因で最も多かったのは、心疾患と糖尿病で、全体の約3分の1を占めています。

2番目には、車の衝突をはじめとするアルコール関連の事故が17.1%を占めています。また、世界の死者の5%は、直接的、間接的にアルコールが原因であるとされています。

多量のアルコール飲酒は、病死ばかりではなく、事故死のリスクも高いわけです。

うつ病の概要

常に憂うつな気分などが続く精神疾患

うつ病の中核症状である抑うつ状態では、イライラして、気分が落ち込み、不安感におびえ、物事を悪いほうに考えがちになり、希死念慮と呼ばれる自殺願望が芽生えてきます。

表情は暗く、反応が遅く、落ち着きがなくなり、飲酒量も増えてきます。身体的には、食欲と性欲が減退し、疲れやすく、頭痛、肩こり、胃の不快感、めまい、便秘などに悩まされます。

要するに、常に憂うつな気分に支配され、心身が衰弱し、生きる意欲が失われたような状態になるのがうつ病です。

うつ病の診断基準

参考までに、アメリカの精神医学会が作成した『DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引』では、以下に示す様な9項目症状のなかで5項目以上あてはまり、その状態が2週間以上続いていて、苦痛を感じていたり、生活に支障をきたしている場合、うつ病と診断されます。

1)ほとんど毎日、1日中ひどく憂うつを感じる。
2)ほとんど毎日、1日中何をやってもつまらないし、喜びというものを感じない。
3)ひどく食欲がないか、逆にひどく食欲があり過ぎる。
4) ひどく眠れないか、逆にひどく眠り過ぎる。
5)イライラして仕方ないか、動きがひどく低下している。
6) ひどく疲れやすく、気力が減退している。
7) 自分はダメな人間だ、悪い人間だと自分を責める。
8) 思考力が低下し、集中力が減退し、決断力が落ちた状態である。
9) 死について繰り返し考え、自殺を口にする。

原因は主にストレスといわれている

うつ病は、症状の原因別に心因性うつ病、内因性うつ病、身体因性うつ病に分けることができます。

心因性うつ病は、精神的な葛藤や心理的なストレスによって引き起こされるうつ病です。内因性うつ病は、体質や遺伝的な原因によって引き起こされるうつ病ですが、多くは心理的ストレスや喪失体験を契機に発症します。

内因性うつ病では、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンなどの働きが悪くなっていると考えられていますが、原因はまだはっきりと解明されているわけではありません。

身体因性うつ病は、脳や身体の病気が原因で引き起こされるうつ病です。

脳血管障害や脳腫瘍など脳の病気が原因のものは器質性うつ病と呼ばれ、糖尿病や消化性潰瘍などの身体の病気が原因のものを症状性うつ病と呼ばれています。

アルコール依存症とうつ病の関連性

お互いに誘発しあう関係にある

アルコール依存症とうつ病は、誘発し合う関係にあります。この場合、以下にあげるような4つの要因が考えられます。

1) ストレス、性格、遺伝因子など共通の原因によるもの。
2) 長期の大量飲酒によってうつ病が引き起こされるケース。
3) うつ病のうつ状態や不眠を緩和しようとして飲酒した結果、アルコール依存症になるケース。
4) アルコールを依存の人が断酒したときの離脱症状の一つとしてうつ状態があらわれるケース。

ちなみにアメリカの調査では、アルコール依存症の人は、依存症でない人に比べるとうつ病になる危険性は3.9倍という結果がでています。

アルコール依存症によるうつ病の誘発

これは、多少ともお酒をたしなむ人なら想像がつくことです。お酒は気分を高揚させる作用がある一方で、一人で飲む「悲しい酒」では、孤独感がつのり、気分が落ち込んでいくことがあります。多量に飲酒し、酒量をコントロールできなくなった人は、自分を責めながら飲み、気持ちが暗くなり、うつ状態に落ち込んでいくのです。

うつ病によるアルコール依存症の誘発

うつ病の人は、うつ状態をまぎらわすために酒を飲み始め、段々と深みにはまって依存症になるケースが見られます。ちなみに、うつ病が先行してアルコール依存症が合併する場合は一次性うつ病、アルコール依存症が先行してうつ病を合併する場合は二次性うつ病と呼ぶこともあります。

いずれにしろ、二つの病気は、相互に傷をなめ合うような関係にあるわけです。従って、アルコール依存症にしろ、うつ病にしろ、早期治療に取り組むことが非常に重要になってきます。

併発でより症状が悪化していく

一次性うつ病にしろ2次性うつ病にしろ、二つの病気が合併すると悪循環のスパイラルで症状は急速に悪化していきます。注意しなければならないのは、うつ病の希死念慮が、アルコールの衝動性とあいまって自殺に至るケースです。

治療方法

アルコール依存症の治療方法は

アルコール依存症の治療は、もっぱら入院治療ですが、治療は以下のような3段階に分けて行われます。

1) 体とこころに起きている合併症の治療と離脱症状などを対象とした解毒治療。
2) 精神療法によるリハビリ治療
3) 抗酒薬の服用や自助グループへの参加など退院後のアフターケア。

この中で、治療の中心となるのは、(2)の精神療法です。これは、個人精神療法と集団精神療法がありますが、本人に飲酒問題の現実を認識させ、断酒の決断へと導く療法です。また、退院後のリハビリ治療を視野にいれて自助グループへの参加なども始め、本人や家族に十分な説明をしたうえで抗酒薬の投与が行われます。

うつ病の治療は「休息」「薬物療法」「精神療法」

休養、薬物療法、精神療法が、現在のうつ病治療の3本柱です。薬物療法では、抗うつ薬による治療が行われます。

セロトニンとノルアドレナリンに働きかけるSSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)が代表的な治療薬です。

うつ病治療のためにもアルコールを断つ

アルコールは、うつ病の治療に使われる薬の効果に支障を及ぼすことがあります。また、アルコールは睡眠の質を下げるマイナスの作用がありますから、うつ病が先行してアルコール依存症の併発が予期される一次性うつ病では、飲酒は禁じ手です。

併発する前の治療が重要

アルコール依存症とうつ病は、どちらかに病の火の手があがると他方も発火しやすい関係にあります。ですから、家族の精神的負担、経済的負担を軽減するためにも、今燃えている病の鎮火に努め、類焼を防ぐことが重要です。


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