精神疾患における不安とは?不安障害の特徴・症状・治療法


受験生は試験の前の晩、落ちたらどうしよう、という不安に襲われます。新入社員は、初めての会議で重要なプレゼンするとき、失敗したらどうしようと不安にかられます。

このような誰でも経験する不安は、障害でもなんでもありません。不安のタネがなくなれば、不安は消えてしまうのですから。ところが、長期にわたり、必要以上の不釣り合いな不安に襲われ、日常生活に支障をきたすようになると、これは不安障害の可能性が高くなります。

目次

「不安」は対象がはっきりしていない

不安とは何でしょうか。誰でも経験する不安と不安障害の不安は、本質的に違っているのでしょうか。

「漠然とした恐れ」が「不安」

不安とは、漠然とした恐れの感情です。「あの子の将来が不安です」と心配する母親がいたとします。彼女が抱く不安は、人間関係でうまくいかないのではないかとか、身体的に耐えられるだろうかなどいくつかの漠然とした恐れがごちゃまぜになった不安です。

この不安が強くなって、様々な身体症状が伴うようになると、それは不安障害ということになります。でも、この母親は、「あの子の将来が恐怖です」とは、多分、言いません。では、恐怖とは何でしょうか。一般的には、不安の感情がより先鋭化したものが恐怖というように考えがちですが、精神医学では、不安と恐怖は明確に区別されています。

不安:漠然とした特定の対象がない恐れの感情
恐怖:はっきりとした外的対象のある恐れの感情

身体的な症状もあらわれる

はっきりした理由がないのに不安が起こり慢性化する。あるいは、理由があっても、それと不釣り合いなほどに強い不安にとりつかれ、長期化する。

加えて、首や肩がこって、頭痛、震え、動悸、息苦しさ、めまいなどなどの身体症状がでてくると、これは病的な不安で、不安障害の可能性が高くなります。

不安障害とは、不安を主症状とする多種多様な精神疾患群をまとめた名称です。PTSD、パニック障害、強迫性障害などは、不安障害に含まれる精神疾患です。

【不安障害と下位分類】

不安障害:
外傷後ストレス障害(PTSD)
パニック障害
恐怖症
強迫性障害
急性ストレス障害
全般性不安障害
一般身体疾患に不安障害
物質誘発性不安障害
特定不能の不安障害

要因はストレスや性格など

不安障害の発症の要因は、いくつかの要因が重なった結果として発症します。要因の一つがストレスです。長期にわたりストレスにさらされていると、気持ちの余裕がなくなり、些細なことで感情的になったり、不安になったりします。

性格的に心配性で、完璧主義で、こだわりの強い人も不安障害になりやすいと言われています。過去に極度の不安・恐怖体験は、不安障害の中のPTSDの発症の要因です。

このほか幼少期に親から暴力・虐待を受けていたような成育歴を持つ人も、発症しやすくなるとされています。

アルコール、薬物などによって不安が生じることもある

薬物やアルコール依存症で離脱症状(禁断症状)が現れることは、よく知られているところです。たとえば、アルコール依存症では、重症になると、禁酒1日以内にけいれん発作が起こり、2、3日以内に意識障害として一過性の幻聴がみられます。

そこまでいかない中程度のケースでは、睡眠障害や不安感に襲われます。重複削除「様々な精神疾患であらわれる」

不安障害であらわれる症状は?

不安障害というのは、固有の症状をもつ精神疾患ではありません。不安を主な症状とする様々なタイプの精神疾患をひとまとめにした総称です。

いくつもの特徴的な疾患、不安がある

不安障害というカテゴリーには、PTSD、パニック障害、特定の恐怖症、強迫性障害、全般性不安障害、社交不安障害などの精神疾患が含まれます。

いずれも主な症状は不安ですが、そのあらわれ方はさまざまです。以下、それぞれの症状の不安の特徴をまとめてみました。

PTSDの不安

生死にかかわるような危険な体験や残酷な体験すると、それが心の傷(トラウマ)となり、繰り返し思い出されてきます。普通は、時間が経つと、恐怖が薄れ、過去の出来事として記憶も整理されていきますが、PTSDでは、トラウマの記憶が1カ月以上にわたって想起され続け、生活面でも重大な支障をきたすようになります。

といって、PTSDの人が暗い表情をしているというわけではないのです。本人は、意識的に明るく振る舞おうとしていますが、ふとしたはずみに、過去の辛い体験が思い出され、その時の情景が再現され、不安に駆られます。

PTSDでは、このような再体験症状の中に不安があらわれます。注意すべきは、PTSDを発症した人の半分は、うつ病や不安障害を併発するといわれていることです。

パニック障害の不安

体の調子が悪いわけでもないのに、突然、理由もなく、激しい不安に襲われ、動悸やめまいがしてきて、脂汗がたらたらと流れる。息がつまるようで、吐き気もする。気が付くと手足が震えている。ひょっとしたらこのまま死ぬのではないか・・・。

これがパニック障害の典型的な発作です。パニック発作は、予兆もなく唐突に起きます。いったん発作を経験すると、また起きるかもしれないという「予期不安」にとらわれます。

予期不安とは、また発作を起こしたら逃げ出せないのではないか?助けを求められないのではないか?という不安です。

このような不安があるために公共交通機関や広い場所や人ごみ、あるいは閉ざされた場所を避けるようになります。こうした状態が6か月以上持続しているのが広場恐怖症です。

広場恐怖症は、パニック発作から派生した二次的な不安障害の合併症です。なお、広場とはパニック発作が予期される特定の場所や状況の比喩的表現です。具体的には、乗り物、人混み、行列に並ぶこと、橋の上、高速道路、美容院、歯医者、劇場、会議などがここでは広場に該当します。

特定の恐怖症の不安

特定の対象や状況に対して著しい恐怖反応を示す不安障害です。単一恐怖症と呼ばれることもありますが、文字通り、ある特定の一種類の対象に対する恐怖症です。

たとえば、犬、猫、昆虫、蛇といった生き物から、植物、食べ物、あるいは高所、閉所などの特定の状況を対象にした恐怖です。恐怖の対象である虫に刺されたり、蛇を見たり、あるいは狭い空間に閉じ込められると、血の気が引いて、冷や汗が出てくるような極度の恐怖に駆られ、場合によっては、パニック発作を起こすこともあります。

強迫性障害の不安

外出の途中、「ドアに鍵をかけわすれたのではないか」と不安になって家に戻るという経験は多くの人に見られます。この不安が度を越して何度も何度も確認せずにはいられなくなるのが、強迫性障害です。

専門的に不安に駆られることは「強迫観念」と呼ばれ、自分で制御できないくらいに強迫観念を打ち消そうとする行為は「強迫行為」と呼ばれます。

手にバイ菌がついているという強迫観念にとりつかれて、手を洗い続けるのが強迫行為です。強迫性障害の患者さんの多くは、そうした観念や行為が不合理であるということを自覚し、恥じているのですが、どうにもとまりません。

全般性不安障害の不安

学校のことや職場のこと、あるいは日常生活や家族や友人たちとの人間関係などなど、様々な事柄が気になり、極度の不安に襲われます。それが心配性のせいではなく障害と診断されるのは、こうした全般的な不安が最低6カ月以上継続し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになっていることです。

また、不安だけでなく、落ち着きがなくなり、疲れやすい、集中できない、イライラする、筋肉が緊張している、眠れないといった症状も判断基準となります。全般性不安障害の不安は、理由なき不安とも呼ばれますが、男性よりも女性に2倍近く多い障害です。

社交不安障害の不安

人に辱められることに強い不安を感じる障害です。もっとも、人前で恥ずかしい思いをするのではないか、場違いな人間と思われるのではないかという不安は、社交を苦手とする内気な人にも見られる不安です。

この不安があるために、社交の場に出なければならなくなると、ほぼ毎回、動悸、下痢、発汗という身体症状があらわれ、時にはパニック発作が起きるようになれば、これはれっきとした不安障害です。

社交不安障害では、社交の場を敬遠し、回避するようになりますから、社会生活に支障をきたすようになります。

不安の解消方法

不安というのは誰でも持っている感情ですが、ここでみてきた不安障害の多くは、不安の元に対して過度の不安を抱くようになった結果、日常生活に支障をきたすようになっている障害です。

有難いことに、不安障害の不安は、専門の医療機関で適切な治療をうければ、治る可能性の高いものです。

考え方を変える

精神疾患的な意味での不安は、自らの心が生み出し、基本的にプラスに働くことがありません。であれば、考え方を直すことによって不安が軽減されることが期待できます。

実際、心療内科や精神科における治療では、考え方を修正する認知行動療法が取り入れられています。

ストレスを減らす

不安障害に限らず精神疾患の多くは、その要因の一つにストレス環境があります。まず、日常生活におけるストレスをチェックし、自分なりのストレス発散やストレス環境の改善に取り組んでください。

医療機関にかかることも考える

欧米では、不安障害の一つである強迫性障害で精神科の外来に通う人が9%にのぼりますが、日本では4%前後という報告があります。

これは、日本に強迫性障害の人が少ないというより、障害を性格のせいだと思っている人が多いからだと思われます。

また、日本では精神科の敷居が高いということも考えられます。不安障害の多くは、専門の医療機関で適切な治療を受ければ治ります。ほおっておくとうつ病などに移行するリスクがあることなどを考えると、早期に専門の医療機関で診断を受けることが重要になってきます。

不安障害の治療方法は主に薬物療法と精神療法

医療機関での治療は、薬物療法と精神療法です。薬物療法では、主として抗うつ剤、抗不安薬、漢方薬などが用いられます。精神療法は二つあって、一つは認知行動療法、一つは暴露療法と呼ばれるものです。

認知行動療法は、歪んでいる物事の捉え方や考え方(認知)を修正していく療法です。暴露療法とは、たとえば恐怖症の人に対して、不安を感じるような状況にあえて挑戦し、少しずつ慣れさせていく治療法です。ショック療法といってもいいでしょう。

具体的には、高所恐怖症では、ビルの窓から外をのぞいてみたり、ガラス張りのエレベーターに乗ってみたりして、徐々に恐怖の対象を段階的に克服していきます。対人恐怖の場合は、敢えて人前でスピーチを繰り返し、その状況に心身とも慣れることを目指します。

薬物療法は、即効性がある一方で、薬をやめると再発しやすいという欠点もあります。これに対して、精神療法は早くても数か月と時間がかかりますが、しっかりと認知の修正ができれば、再発予防効果があるというメリットがあります。医療機関の多くは、薬物療法と精神療法を並行しておこなっています。

強すぎる不安は様々な精神疾患を誘発する

不安障害は統合失調症やうつ病などの他の精神疾患と比べると、どことなく深刻度が低い病気です。しかし、うつ病などへの移行の可能性を秘めています。

そうなると厄介です。軽く見ることなく、早めに治療を受け、過剰で不釣り合いな不安を克服するのが、賢明な対策です。


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