境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)の原因、遺伝は?

それがれっきとした病気であることを知らず、境界性パーソナリティ障害の人と付き合ったことのある人は、ある日突然、豹変する言動に衝撃を受けて、この人は人づきあいのイロハも知らない、無礼で、横柄で、手におえない、困った人のように思われたのではないでしょうか。

あるいは、そうした後味の悪い衝撃を受けたからでしょうか、この人は性格の悪い人で、一生治らないだろうなと思い、ひょっとしたら遺伝かなと思ったかもしれません。

果たして、この思い込みは正当なものだろうか、というのが今回のテーマです。

「境界性」パーソナリティ障害とは

境界性パーソナリティは、パーソナリティ障害というカテゴリに含まれた精神疾患の一つです。では、パーソナリティ障害とはどんな障害でしょうか。

パーソナリティ障害の一種

パーソナリティ障害は、ものの捉え方や考え方が偏り、感情や衝動のコントロールがうまく出来なく、結果として人との付き合い方に支障がでる障害です。

世界保健機構の精神疾患の診断基準では、「その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った内的体験および行動の持続的パターンであり、ほかの精神障害に由来しないもの…」と定義しています。

要は会社や団体などの社会集団が持つマナー、常識、暗黙の規範に大きくはずれた言動が見られる障害で、統合失調症やうつ病などの精神疾患とは異なる疾患ということになります。

境界性パーソナリティ障害の特徴とは

パーソナリティ障害は、大きく3つのタイプに分けられています。

A群:奇妙で風変わりなタイプ
B群:感情的で移り気なタイプ
C群:不安で内向的なタイプ

境界性パーソナリティ障害は、上記のB群に含まれます。境界性パーソナリティの特徴としては、白か黒かを決めたがる極端な考え、情緒の不安定、抑えきれない怒りの衝動などがあげられますが、その底流には見捨てられることを極度の恐れる心理があると言われています。

境界性パーソナリティの症例

Aさん(25歳)は、一流大学を出たイケメンな男性です。仕事もできますから、普通なら女子社員からモテるはずですが、女子社員たちからは、敬遠されています。

というのも、ちょっと意見が違うと喧嘩腰でしつこく反論されるからです。Aさんに目をかけていた上司が、ある日、冗談交じりと注意すると、突然キレて、食って掛かり、あまりのことに上司は絶句したのでした。

それ以来、尊敬しているといっていた上司を口汚くののしり、それに同意しないと、口喧嘩になるので、周りの社員たちは腫れ物にさわるように避け、結局、Aさんは退社することになりました。

このAさんの言動は、境界性パーソナリティ障害の可能性があります。パーソナリティ障害では、Aさんのように周囲を巻き込んで困惑の輪を広げる人もいますが、これとは逆に人づきあいを避け、引きこもり、症状が進むと自傷・自殺に奔るケースもあります。

なぜ「境界性」という名称?

「境界性」というのは、神経症と精神病の境界にあるということを意味しています。神経症の患者さんの不安は、限局していますが、境界性パーソナリティ障害の場合、常時不安感に苛まれています。神経症の範疇に入りきらないわけです。

一方で、一過性の精神病症状もあらわれます。強いストレスのもとでは、解離(自分が自分であるという感覚が失われる)や妄想があらわれることもあります。このような精神症状があらわれても一過性ですから、こちらもほんものの精神疾患でくくれません。ゆえに、境界性というわけですが、現在では独立した病気として位置づけられています。

なお、病名の中にある「パーソナリティ」という言葉から、人格の障害と受け取る人がいそうですが、人格や性格の病ではありません。人格の病気だから治らないというのも誤解です。

他の精神疾患を併発することが多い

境界性パーソナリティ障害のリスキーなところは、境界を越えて他の精神疾患に移行することです。また、他の精神疾患を併発しているケースが多く見られます。

その代表的なものを列記します。

●うつ病
境界性パーソナリティ障害では抑うつ感(うつ状態)が現れることがあります。このうつ状態の中で、自己否定感に苛まれ、本物のうつ病に移行するケースがあるのですが、うつ病の中でも<ディスチミア親和型うつ病>が多いとされています。

これは、いわゆる新型うつ病の症状に似ていて、本業の仕事のときは気分が落ち込むものの趣味や遊びになると普通の人のように楽しめるというものです。このため、甘えている、わがままだ、と誤解されることが少なくありません。

●PTSD(心的外傷後ストレス障害)
幼いころに虐待を受けたトラウマを引きずっていて、フラッシュバックや回避行動があらわれたりします。境界性パーソナリティ障害を特徴づける見捨てられる不安は、PTSDに起因しているといってもいいでしょう。

●ADHD(注意欠如・多動性障害)
境界性パーソナリティ障害とADHDは、関連性があります。実際、小さい頃ADHDの傾向があったという人が少なくありません。ADHDの子どもは目が離せないために親の監視も厳しく、窮屈な生活を強いられていることがあります。

そのために、大人になって親元を離れると、安心感が失われ、見捨てられる不安が膨らみ精神的な不安定さが顕著になってきます、結果として境界性パーソナリティ障害を併発したというケースです。

●アルコール依存症
境界性パーソナリティ障害の大きな要因の一つが、幼いころの虐待、あるいは過保護、愛情の欠如です。ここから、境界性パーソナリティ特有の不安が生まれ、これをまぎらわすためにアルコール依存症になってしまうことがあります。

●過食症、拒食症、摂食障害
同じような要因で、過食にはしり、食べすぎる自分に対する自責の念から、拒食症になり、これが進むと、過食と拒食を繰り返す、本格的な摂食障害に進行してしまうこともあります。

●統合失調症
境界性パーソナリティ障害にあらわれる被害妄想は、統合失調症の症状とよく似ています。ただし、境界性パーソナリティ障害の妄想の多くは、一過性のものです。

境界性パーソナリティ障害の原因、遺伝するのか

正確な原因は不明

境界性パーソナリティ障害の原因は完全に解明されたわけではありませんが、最近の研究では、生物学的特性や発達期の苦難の体験が関連していることがわかっています。

たとえば、衝動的な行動パターンは、中枢神経系を制御する神経伝達物質・セロトニンが関係していて、神経系の機能低下によるものだと考えられています。

原因はわからないものの、養育環境、家庭環境、ストレスの多い社会環境、いじめや虐待によるトラウマなどの環境が、境界性パーソナリティ障害の発症に深くかかわっていることが明らかになってきています。

遺伝の影響

情緒が不安定で気分がコロコロ変わるような親の性質が、子どもに遺伝し、それが境界性パーソナリティの発症を促すという仮説がありますが、一般的には遺伝的要因は少ないとされています。

遺伝に関する研究では、一卵性双生児と二卵性双生児を使った研究がありますが、そこで明らかになったのは、遺伝の影響よりも環境要因が大きいということでした。

環境の影響

境界性パーソナリティ障害の患者の91%が小児期の外傷体験を持っていた、というアメリカの報告があります。日本の調査でも、小児期の虐待が多く見られ、ある調査では身体的虐待33%、性的虐待51%、情緒的虐待68%であったという報告もあります。

このように幼児期の家庭環境(養育環境や生育環境)の影響は無視できません。具体的には、幼児期にネグレクト(育児放棄)や虐待を受け、親から見捨てられたような環境で育つと、心の大きな傷となり、この傷が、大人になったときに自己否定感となり、発症につながるというのです。親に見捨てられた辛い体験が、見捨てられる不安を育むというわけです。

家庭環境の中で、「不認証環境」が境界性パーソナリティ障害の素地を作るとも言われています。不妊症環境とは、親から常に否定的な扱いを受けるという環境です。あるがままの自分が認められず、親のルールに従うことを強いられた環境で育つと、いつも親の目を気にし、基本的な安心感が育ちません。その結果、常に不安に付きまとわれた境界性パーソナリティ障害の素地を作ってしまいます。

このほか、心的外傷体験(トラウマ)も見過ごせない要因です。いじめや虐待、離婚、あるいは凄惨な自己の目撃、あるいは自己体験などのトラウマをひきずったままでいると、ふとしたはずみにフラッシュバックしてきます。そのたびに精神が不安定となり、怒りに駆られた衝動的行動にはしることになります。

若い女性に多く見られる

全体的にみれば、発症する年齢層は青年期または成人初期に多く、30代頃には軽減していく傾向があります。アメリカの研究では、人口の15%が何らかのパーソナリティ障害だといわれています。

このうち、境界性パーソナリティ障害がどのくらいかのデータはありませんが、パーソナリティ障害の中で一番多いのが境界性パーソナリティ障害であるというのは事実のようです。

日本では、境界性パーソナリティ障害は2%、そのうち女性は男性の3倍という報告があります。

境界性パーソナリティ障害の治療方法

精神療法

かつて、この病気はなかなか治りにくいとされていましたが、効果の高い治療法が開発され、年齢とともに徐々に軽快することが明らかになってきています。

患者と医師が協力し合って長期にわたって、支持的精神療法、認知行動療法、精神分析的精神療法などの治療が行われます。

薬物療法

薬物療法では、感情調整薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や少量の抗精神病薬が使用されます。

なお、境界性パーソナリティ障害に対して保険適応の薬剤はありません。薬物は主に付随する症状の緩和のために使われています。

遺伝を気にしすぎるのは良くない

境界性パーソナリティ障害は、遺伝よりも環境要因で発症するケースが多いということを述べてきました。そして、時間とともに徐々に軽快するケースもあり、治療に取り組めば回復が早まることも述べてきた通りです。

打つ手はある、ということです。であるならば、遺伝を気にする前に治療に取り組むのが賢い対応策ということになります。

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