子どもが「よく人や物にぶつかってしまう」「靴の左右を履き間違えてしまう」共通している大切な要素とは?


ボディイメージ

 よくぶつかって怪我をすることが多い、靴の左右がどちらかわかっていないのかスムーズに靴が履けず、出かけるのに時間がかかってしまう…これらが起こる理由は様々考えられるかもしれません。

今回は、タイトルに挙げた、子育てにおける2つの困りごとの要因で共通して含まれる、ある発達課題について取り上げます。それは、「ボディイメージがお子さん自身の中でつくられているか」という、日常生活において活動する上で重要となってくる課題です。

目次

ボディイメージ

ボディイメージってなに?

 みなさんは「ボディイメージ」という用語をご存知でしょうか?ボディイメージを一言でいえば「身体の自己像」です。わたしたちは自分の身体の大きさ、自分の身体の傾き具合、身体の力の入り具合、手足や指の関節の曲げ伸ばし具合などの自己像を無意識に認識しています。人と話しながら階段を降りる、人や物にぶつからず避けながら歩く、などといった行動は、ボディイメージの形成によってできるようになります。

何歳ごろまで身につくの?

 ボディイメージの形成は個人差ありますが、3~4歳半ごろといわれています。ただし、その形成は幼児期にとどまらず、成人まであらゆる体験の相互作用によって形成されます。そして、自身の動作能力の理解・日常生活での応用へとつながり、無意識的に行動できるようになっていきます。

発達障害がボディイメージの形成に影響する例

 自閉症や発達障害をもつお子さんは、ボディイメージの形成がゆっくりであるケースがあります。相談の多い例の一部について、考えられるボディイメージの問題を下の表のように挙げました。ボディイメージの発達は、日常生活動作において自立を促す重要なものとなっています。

困りごとの例考えられるボディイメージの問題
「鉛筆が上手に握れない」
「スプーンや箸が上手に持てない」
「食べこぼしが多い」
「手を思うように動かしにくい」
「服を上手く脱げない」「手や足をどのような角度で動かしたら良いのかがわからない」
「頭をどのような角度に向ければ良いのかがわからない」

人や物にぶつかってしまう

 自分の体の位置がわからないと物を落としたり、物を置いたりすることが苦手であることがあり、ドアや戸などで手を伸ばしてもノブや取っ手をつかむことが出来ずぶつかってしまうことがあります。また、ボディイメージが苦手であるお子さんは、動かしている手や触ろうとする部位を目で追って確認するため、暗闇だと思ったところを触れられないことが多いです。対人についても、同じことがいえます。見出し3では、ボディイメージを養う遊びを紹介していますので、よろしければご覧ください。

靴の左右を履き間違えてしまう

靴の左右を履き間違えてしまう

 自分のからだを中心として、どちらが右でどちらが左かの理解が難しいと靴の左右差の理解も難しくなります。自分のからだの周囲を無意識的に理解すると、自分のからだを中心とした左右の基準がわかってきます。つまり、ボディイメージの形成が大切な要素となります。そして、「左右の区別がつきにくい」ことは「利き手が定まりにくい」というお悩みとも関連しています。左右への意識や理解が少ないこと、ボディイメージを苦手とすることのほか、体の部位や固有感覚の鈍麻などから右手・左手の認識が難しい事などが考えられます。お子さんによっては「お箸は右、スプーンは左」というように使用する手のこだわりが影響する場合や、感覚過敏が要因の場合もあります。

「靴の左右履き間違えてしまう」…そんなときの支援例

 それでは、左右の理解とボディイメージの関連性をふまえてどのような工夫ができるのかを考えてみましょう。
まず、「靴の左右どちらか(右利きなら右)のかかとタグ部分にリボン・テープなど目印を貼る」方法はどうでしょう?前に述べたように、そもそも利き手がどちらなのか確立していないことも考えられるため、視覚的にどちらが右なのか理解しにくい場合は効果が期待できないかもしれません。

 おすすめしたいのは、靴の中敷き(インソール)に「絵合わせシール」を貼ったり、「絵合わせインソール」を入れたりする方法です。ハートや星、お子さんの好きなキャラクターのシールを半分に切って左右それぞれ靴の中敷きに貼り、左右合わせると絵が完成する、というものです。絵合わせ遊びやパズルが好きなお子さんは興味をもって楽しみながら履いてくれるのではないでしょうか。スニーカーはハート、長靴は星、のように持っている靴によってシールの種類を変えても効果的です。

 ほかに気を付けていただきたいこととして、この2点を挙げておきます。
・靴を履く際、毎回左右履く順番を同じにして習慣づけをする
・大きめの靴を買わない(足の大きさ・形は左右微妙に異なるため、ボディイメージが確立されていないと、左右逆に履いてピッタリきつくしようとするお子さんもいます。これにより外反母趾、内・外反足、偏平足になるリスクが高くなってしまいます。お子さんの足のサイズは成長しあっという間に大きくなりますが、都度お子さんの足のサイズに合わせた靴を選ぶことは足の健康のためにも大切なことです。)

‘‘遊び‘‘でボディイメージを養う

基本的なポイント

 人は、指や目などの感覚器官から受けた刺激を脳で認知し、その情報が整理され筋肉に指令が送られることで、運動・活動しています。これを経験として繰り返していき、感覚器官とそれに応じた体を動かす筋肉や関節の協調がスムーズになっていきます。発達障害のあるお子さんは、このような「感覚統合」が難しくなっている場合があります。

 まずは、感覚器官を刺激することから始めていきましょう。その中でも、特に触覚へのアプローチが基本となります。「ここが、肩、だね」「ここが、膝、だね」など、からだの部位の名前を言葉で伝えながら、その部分をトントンとやさしく叩いたり、なでたり刺激してみましょう。からだの部位の名前や場所、大きさ、そして役割をお子さん自身で理解できるようになると、ボディイメージをつかむことができていきます。お子さんによっては、体勢にも抵抗を感じる場合もあります。あおむけよりうつ伏せでの活動から始めることをおすすめします。

遊びの例

・「マットやふとん、クッションの間に挟まり軽く抑えたりぎゅーっと抱きしめる」
 お家でも手軽に、全身で刺激を感じてもらうことができます。

・「素材の違うものの上を歩く」
 ざらざら、つるつる、ふわふわ、など様々な触覚刺激を経験させてみましょう。

・「水あそび、ボールプール、砂あそび等の感覚あそび」
  触覚刺激に抵抗が少なくなったら、やや刺激の強いあそびに発展させてみましょう。

・「真似っこ遊び」
 お子さんにポーズの真似をさせ、自身で全身を触れさせます。「あたま、肩、膝、ポン!」などと身体の部位の名前を声に出し歌いながら触れさせ、楽しく遊びましょう。また、うさぎや飛行機など、お子さんの知っている動物や物をイメージしたポーズも一緒に取り入れつつ全身をそれぞれ触れさせると取り組みやすいかもしれません。まねっこが難しい場合は、手を添え一緒にポーズをとらせてあげましょう。

・「サーキットあそび」
空間認知能力を育てていく遊びとしておすすめします。抱っこでぐるぐると回したり、トランポリンで一緒に飛んだりなど不安定な動きに慣れ恐怖心が和らいできたら、全身運動のできるサーキットあそびが効果的です。椅子やテーブルをトンネルのようにくぐったり、坂道を登ったり、島のように配置したマットを連続でジャンプしたり、物をよけて通ったりする運動を取り入れると、自分のからだの大きさや感じ取らせ全身運動を促し、ボティイメージを形成する訓練になります。慣れるまでは手つなぎで誘導してあげましょう。

・「人物描画、人が登場する絵本を読む・読み聞かせ」
 間接的に認識する方法ですが、視覚的イメージとして認識していくことができます。「人のからだは頭があって、手があって、下には足があって…」というように、自己像を理解する補助的手段になり得ます。

まとめ

 今回挙げた「ボディイメージの形成」は、あくまで今回挙げた困りごとに関する発達要素のひとつです。お子さん個人で、得意・苦手な要素は複数存在する可能性があります。例えば、今回とりあげた体の感覚(固有感覚)のほか、距離感、視野、危険認識、経験不足、感覚や刺激を求めるため、など様々な要因が考えられます。専門家による診断・助言を受け、お子さんに合った支援を受けることが大切になります。

 また、ボディイメージを養う遊びにおいて、お子さんによって得意・苦手、好き・嫌いがある場合があります。例えば、高いところが苦手、人に触れられるのが苦手、といったことです。お子さんが嫌がることを無理にさせてしまうとストレスになり、かえって発達に歯止めをかけてしまう恐れがあります。低リスク・低刺激な遊びから段階的に始めましょう。

参考文献
あたりまえさの創造:ボディイメージの形成過程からとらえた先天性心疾患患者の
小児期における自己構築
日本看護科学会誌 J.Jpn.Acad.Nurs.Sci., Vol.29,No.3,pp.43-51,2009