臨床心理士ってどんな仕事?なるためのコース、職場はどんなところ?


臨床心理士は、臨床心理学に基づいた知識と技術で心の問題を抱えている人を援助する専門職です。日本には、心理カウンセラー、サイコセラピスト、心理相談員などの名称で呼ばれる人たちがいますが、それぞれに明確な資格があるわけではありません。

臨床心理士は、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が実施する試験に合格し、認定を受けた心の問題の資格専門職です。

臨床心理学とは

心理学は、大きく基礎心理学と応用心理学に分類されています。細かく見ていくとこの中には、さまざまな学問の分野があります。たとえば、応用心理学では、教育心理学、臨床心理学、災害心理学、スポーツ心理学などの分野があります。

臨床心理士は、うつなどの精神疾患の治療や予防を行う分野である臨床心理学の知識と技法を使ってクライアント(相談依頼者)を援助します。

患者ではなくクライアント

医師が接するのは患者です。医師は、患者に関わり、専門的な知識と技術で病気を治していきます。

臨床心理士が接するのは、クライアント(相談依頼者)です。臨床心理士は、クライアント固有の心の問題を、多種多様な価値観を尊重しつつ、その人の自己実現をお手伝いしようとする専門家です。

また、医師は患者に接して、診断書を作成します。臨床心理士は、クライアントに接して、査定(アセスメント)を作成します。

具体的には、面接や観察によってクライアントがどのような状況にいるのかを把握したうえで、心理検査を行い、その結果によって、クライアントの特徴や心の問題点を明確にし、必要な援助を検討します。

臨床心理士の仕事

臨床心理士の仕事をもう少し詳しくみてみましょう。臨床心理士は、クライアントとの面接を通じてアセスメントを作成します。

次に、アセスメントの結果を元に、カウンセリングや心理療法を行っていきます。心理療法にはクライアント中心療法、精神分析療法、行動療法など、さまざまなものがあります。

アセスメントの作成、カウンセリング、心理療法の3つが臨床心理士のメインの仕事です。

心理療法の3本の柱

臨床心理士は、「クライアント中心療法」、「精神分析」、「行動療法」の3つを中心に以下のような心理療法を行います。

●クライアント中心療法
クライアント中心療法(カウンセリング)は、クライアント自身がありのままの自分を受け入れることを目指した治療法です。クライアントが抱える心の葛藤をクライアント自身の言葉で導き出す療法といってもいいでしょう。

●精神分析
フロイトが創始した「精神分析」に基づいた心理療法です。人は生きていく中で、無意識的な心のしこりを持っています。そのしこりが大きくなると、心の病に冒されてしまいます。

精神分析では、会話を通じてこの心のしこりを探り当て、しこりの原因である無意識の葛藤を受容することで、心の平穏が回復することを目指します。

伝統的な精神分析では、クライアントは寝椅子に横たわり、臨床心理士が話しかけ、クライアントが頭に浮かんできたことをそのまま話していきます。1週間に1回、45分から50分の時間をとって、対面式で面接をするのが最も一般的なやり方です

●行動療法
行動療法では、クライアントが現在抱えている恐怖症や習癖などが対象になります。行動療法では、治療目標を定め、不適切な反応や問題行動を修正していきます。恐怖症の場合、少しずつ恐怖の対象に近づき、慣れさせていきます。

地域と連携した援助活動

クライアントが抱える心の問題は、生活環境と密接にかかわっています。一人だけでは解決できないケースも少なくありません。

そこで、必要に応じて家庭、職場、学校などに働きかけて援助を行い、生活環境の改善提案を行うこともあります。

臨床心理士の職場は?

ストレスの多い現代社会では、心の問題を抱えている人が増え、臨床心理士が活躍する場は増えてきています。

以下、主な職場を紹介していきましょう。

スクールカウンセラー

もっとも代表的な職場が学校で、学校内の相談室でスクールカウンセラーとして働くコースです。クライアントである生徒から直接、人間関係や学業や生活面の悩みなどの相談を受けるばかりでなく、必要に応じて教職員や保護者と面談をし、生徒の心の問題をサポートします。

現在、全国の公立中学校や小学校には、スクールカウンセラーとして任用(派遣)され、活躍している臨床心理士は、約5000名に上ります。

病院のカウンセラー

病院の精神科や心療内科には臨床心理士が多くいます。精神疾患を抱えている人のケアや病気やケガなどによって気持ちが落ち込んでいる人の心のケアをするのが臨床心理士です。

市町村の保健センターや保健所などの施設に勤務するコースもあります。そこでは、住民のカウンセリングを行ったり、乳幼児の発達相談にかかわります。

最近では、子どもの通う塾や習い事のスクールにもカウンセラーをおいているところが増えてきました。

児童相談所でカウンセリング

児童相談所も臨床心理士の有力な職場です。児童相談所では、子どもの心理療法、障害者の支援、保護者の相談や助言、心理的な援助方針の策定などを行います。

幼稚園や保育所などを巡回して、保護者の子育て相談に応じることもあります。

労働・産業分野

大企業では、健康管理室を設けて、従業員のメンタルヘルスをサポートする部門を設けるところが増えてきています。臨床心理士が常駐する企業もあります。

人間関係や家族の中の軋轢などに悩む従業員に対して、相談支援や職場復帰支援などが主な仕事になりますが、上司や同僚へのコンサルテーションなどを行うこともあります。

独立開業の道も

独立開業をするコースもあります。もっとも、わが国では、専門職として知名度が低いこともあって、独立開業するケースは少数派です。そのために、独立開業のための基本モデル(ノウハウ)はまだ確立されていませんが、独立開業という選択肢もあるのです。

開業にあたって乗り越えなければならない壁は、いかにしてクライアントを集めるかかということです。沢山の臨床実績があり、クライアントの信頼が厚くなければ、たくさんのクライアントをあつめることはできません。

業界内で評判となり、本を出版し、講演会の依頼がくるようになれば、独立開業に一歩近づいたといえそうです。

どうやったらなれるの?

臨床心理士になるには、日本臨床心理士資格認定協会の資格試験に合格しなければいけません。ただし、受験するためには、あらかじめ臨床心理士養成に関する指定大学院または専門職大学院の修了を基本モデルとする受験資格の取得が必要です。

育成過程がある学校を卒業

受験資格を取得するためには、下記の育成過程をもつ学校を卒業する必要があります。

●指定大学院(1種・2種)を修了し、所定の条件を充足している者
●臨床心理士養成に関する専門職大学院を修了した者
●諸外国で指定大学院と同等以上の教育歴があり、修了後の日本国内における心理臨床経験2年以上を有する者
●医師免許取得者で、取得後、心理臨床経験2年以上を有する者 など

試験は一次と二次の2段階

一次試(筆記)は、100題のマークシートによる問題と、定められた字数の範囲内で論述する「論文記述試験」の2種類があります。論文記述試験では、心理臨床に関する1題のテーマについて1000~1200字の範囲内で論述記載することが求められます。

一次試験で一定の水準に足していれば、二次試験に進みます。二次試験は、2名の面接委員による「口述面接試験」です。

受験者を個別に時間指定して実施されますが、専門知識や技術の習得度を確認するだけでなく、臨床心理士としての基本的な姿勢や態度、専門家として最低限備えておくべき人間関係能力などが問われます。ちなみに2016年度では、受験者2582名、合格率は62.9%となっています。

試験に合格後に登録が必要

合格すると、協会から資格登録証明書が発行されます。この登録の手続きを経て、最終的な資格認定がなされます。

同時に合格者の氏名が「日本臨床心理士名簿一覧」に記載され、大学、研究所、関係官庁、施設などに送付され、公開されます。

これが臨床心理士有資格者の公告といわれるものです。なお、臨床心理士は、5年ごとに資格更新が義務づけられています。

人の集まるところに悩みあり

人間は一人では生きていけませんが、人が集まれば人間関係の様々な悩みが生まれ、ストレスが生じます。中でも技術と価値観の変化が激しい現代は、さまざまなストレスがかかり、多くの人が心の問題を抱え込んでいます。

臨床心理士は、こうした人たちに臨床心理学の知識と技法を使って、心を癒す専門職ということもできます。臨床心理士に対する社会的需要は、今後ますます増えてくることが予測されています。