精神疾患における妄想とは?症状、治療法と普通の妄想との違い


年末ジャンボ宝くじを買った人が、「10億円が当たったらどうしよう」などと言うと、「それって妄想じゃん」と笑い飛ばされてしまいます。

金持ちの御曹司でハンサムな〇〇クンと結婚したいなどといっても以下同文です。日常生活で私たちが使う「妄想」という言葉は、あり得ないことを期待するという意味で使われます。

しかし、精神医学用語としての「妄想」は、これとは違います。どこが、どう違うのでしょうか。

目次

精神疾患の「妄想」には確信がある

確信の有無が違い

・違いその1
日常生活で使われる妄想は、それがあり得ないことであること、それが叶わない夢だということを意識しています。「夢想」と言うべきかもしれません。

しかし、精神医学用語としての妄想は、非合理的で非現実的なことの思い込みを指します。思い込んでいるということは、当人が確信していることです。

・違いその2
統合失調症の被害妄想の一つに「敵が自分をつけまわしている」と確信している迫害妄想があります。周りの人が、「どこにその敵がいるの?」、「考えすぎだよ」と言葉を尽くして、合理的に説明しても納得しません。つまり、彼/彼女の確信は訂正不能であるということです。

・違いその3
どう考えてもそれは誤った病的な思い込みです。ところが、本人はそれが病的だとも自分が病気に冒されていることを自覚していません。病識がないのです。

現実とのズレが生じる

妄想(精神医学用語における妄想)を抱いている人の確信の内容は、根拠のない非現実的なものです。それを支える論理も非合理的です。

つまり、それは現実の世界から大きく外れた誤った認識です。その結果、日常生活でのコミュニケーションが成り立たなくなってきます。

現実認識という知的な領域でのズレがあると同時に感情面でも歪みが生じていますから、話しについていけない、ということにもなります。そうして、厄介なことは、誤った病的な確信に唆されて、自傷・他害といった異常行動に走る可能性があるということです。

本人は症状に気づいていないことが多い

統合失調症の妄想の特色は、先に述べたように病識がないことです。病識とは、自分が病気であることを認識できることです。

しかし、統合失調症の人は、自分が抱えている想念(妄想)が病気のせいだと思いません。ただし、普段の調子とは異なることや、神経が過敏になっていることの自覚はあります。

治療が進んで病状が改善してくると、段々と自分の想念が病気のせいだと認識できるようになってきます。興味深いことは、妄想を抱く他の患者さんの言動が、病気のせいだと認識できるということです。つまり、判断力そのものは障害されていないということになります。

本当に妄想であるかわかりづらいことも 妄想とは現実にあり得ないことをあり得ることのように思いこむ精神疾患です。ところが、確率は極度に低いけれど、理論的にあり得ることを思いこむ妄想もあります。

たとえば、妻が浮気しているとか自分はストーカーされているという妄想です。妄想性障害(後述)の人に見られる妄想がそれにあたります。

様々な精神疾患にみられる症状のひとつ

妄想は、統合失調症やうつ病などの精神疾患に広くあらわれる症状です。ところが、妄想はあるものの妄想以外の症状はほとんど見られない人にとりつく妄想があります。これが妄想性障害という疾患です。

その名の通り「妄想」が主体となる病気ですが、妄想以外の症状はほとんど認められません。妄想がある以外は普通の人であり、普通に生活を送れて、普通に仕事もできます。

治療が必要

現実世界の実態から大きくズレた想念にとりつかれ、説得不能な人が社会に受け入れられることは難しい。加えて、妄想にそそのかされ、自分はもとより他者に対して傷つける可能性があるとなると、優先的にやらなければならないことは、妄想のもととなっている基礎疾患・精神疾患を治療によって取り除くことです。妄想は、専門の医療者にまかせて治療するというのが、最善の対策です。

妄想の種類

妄想は実に多種多様です。それぞれの妄想の内容をつぶさにみていくと、人間の心の世界の奥深さや摩訶不思議さを見る思いがします。

多種多様な妄想がある

お金がないと思い込む妄想があるかと思えば、お金はないのに自分を大金持ちと思い込む妄想もあります。妄想の主題(内容)は、多種多様です。

こうした妄想の内容による分類のほかに、妄想の根拠や患者の生活履歴と関連して、他の人に理解ができるかどうかという基準で、一次妄想と二次妄想に分類することもあります。

一次妄想と二次妄想の違い

一次妄想とは、どうしてこの人がそんな妄想をいだくのか理解できない妄想です。統合失調症のよく見られる妄想です。たとえば、家の前に止まっている車をみて、「秘密警察の車だ」と思い込みます。

その心理や思考過程が他者からみて、了承不能な妄想です。一次妄想のなかでも、これは「妄想知覚」と呼ばれています。車は確かにとまっているのですから、それを視る能力には異常は無いのですが、それに対する異常な意味付けをしてしまう妄想です。

一次妄想の中にはこのほかに、「自分は神の生まれ変わりだ」と言い出す「妄想着想」と「妄想気分」があります。妄想気分は、統合失調症の初期に現れやすい症状で、確たる理由もなしに「恐ろしい出来事が起ころうとしている」と思い込む妄想です。

二次妄想とは、どうしてこの人がそのように妄想するか、思考過程や心理学的背景から理解できる妄想です。うつ病患者の中には、実際には金はあるのに「私は金がない」という人がいます。事実には反するものの、心理学的には了解可能な妄想です。

被害妄想

統合失調症(後述)で圧倒的に多いのが被害妄想です。自分が他者から悪意を持って危害を加えられているという妄想です。

具体的な被害感のパターンによって、以下のように命名されています。

・迫害妄想:敵が自分を狙っている。
・関係妄想:隣の人の咳払いは、自分への警告だ。
・注察妄想:みんなが自分を監視している。
・追跡妄想:警察が自分を尾行している。
・被毒妄想:食事に毒がもられている。

誇大妄想

妄想性障害や躁鬱病によく見られる症状で、自己を誇大に評価する妄想です。また、自分が人並優れた才能をもっていると信じていいたり、高貴な出自を信じる妄想で、以下のような妄想が含まれています。

・血統妄想:自分は王家や貴族の出身である。
・宗教妄想:自分は神の子である。
・発明・発見妄想:あの発明は、実は私が発明した。
・恋愛妄想:自分はあの有名人に愛されている。

微小妄想

誇大妄想の逆の妄想で、自分をネガティブに捉えた妄想です。うつ病によく見られる症状ですが、以下のような妄想に分類されます。

・貧困妄想:自分にはお金がない(現実には貯金があっても)。
・心気妄想:「自分はガンに違いない」(医者が検査の結果をウソをついて報告している)。
・罪業妄想:(微小なミスに対しても)「自分は罪深いことをした。死んでお詫びをしなければ・・・。

妄想が生じる精神疾患

妄想は、統合失調症、妄想性障害、うつ病、パーソナリティー障害などの精神疾患に広くあらわれる障害です。それぞれの疾患では、一定の傾向をもった妄想があらわれます。

統合失調症

思考や感情や行動を一つの目的に沿って統合する能力が長期にわたって低下するのが統合失調症です。このため志向が混乱し、異常な行動がみられるようになります。

以前は、精神分裂病と呼ばれていました。統合失調症の症状は、急性期の陽性症状と慢性期の陰性症状の二つに分けられますが、急性期の代表的な症状が妄想と幻覚です。

妄想性障害

妄想に特化した精神疾患です。妄想がある以外は普通の人であり、普通に生活を営み、仕事もできます。しばしば、成人期中期から後期にかけて発症するというのも妄想性障害の特徴です。

妄想性障害は、統合失調症に見られる奇異な妄想ではなく、実生活でも起こり得るような妄想が1ヶ月以上続くような妄想です。妄想の内容に応じて、以下のような妄想が挙げられます。

・色情型:誰かが自分に心を寄せているという思い込み。妄想の対象となった相手に接触を図ろうと、法にふれるストーカー行為におよぶこともあります。
・誇大型:自分には偉大な才能があるとか重要な発見をしたなどという思い込み。
・嫉妬型:配偶者や恋人が浮気をしていると信じ込み、あいまいな憶測で、傷害事件にいたる最悪のケースも考えられます。
・被害型:自分に対し悪意のある嫌がらせがあるとか中傷されているといった被害妄想的な思い込み。統合失調症の被害妄想と症状は似ていますが、裁判を起こし、正統性を訴えることもあります。まれに、証拠不明瞭な迫害に報復しようとして暴力的手段に訴えるケースがあります。
身体型:体に不自由があるとか体臭がするなどの思い込み。時には、寄生虫感染といった想像上の身体疾患の形を取る場合もあります。

うつ病

気分の落ち込みや意欲・関心の低下など、精神エネルギーの低下を伴うのがうつ病です。うつ病にも妄想があります。うつ病の妄想で特徴的にみられるのは、抑うつ気分にともなう二次妄想です。

うつ病では、考え方がネガティブになるために、妄想も自分を過小評価する二次妄想としての微小妄想があらわれやすいということです。具体的には、先にあげた心気妄想、罪業妄想、貧困妄想などが代表的です。

パーソナリティー障害

パーソナリティー障害とは、共同体(社会)に広く通用している常識的な思考と行動と著しく異なる内的な体験や行動を行うことを指しています。

病的な性格だとか、悪い性格といったものではなく、治療の対象となるれっきとした障害です。パーソナル障害者にみられる妄想は、妄想性パーソナリティー障害と呼ばれますが、別名「猜疑性パーソナリティー障害」とも呼ばれます。

何事にも猜疑心が強く、相手への不信感や猜疑心が、容易かつ頻繁に生じます。パートナーの貞操や貞節に関する根拠の無い疑いであっても、頑固に理屈っぽく執着します。

一体に、一代で成り上がった絶対権力者に非常に多くみられるところから、独裁者の病ともいわれます。

その他の精神疾患

妄想は、認知症、双極性障害、てんかんなどでみられます。認知症の妄想としてよく知られえているのが、もの盗られ妄想です。

本人がしまい忘れたにもかかわらず、財布を誰かが盗んだのかもしれないと思いこみ、世話をしている息子の嫁をドロボー呼ばわりするようになります。

双極性障害では、躁状態で誇大妄想、うつ状態で微小妄想がみられます。てんかんでは、関係性妄想がみられます。

接するときは否定も肯定もよくない

妄想状態にある人に対して、どう接したらいいのでしょうか。妄想には、説得は通じません。言葉を尽くして、論理的に説明しても受け入れないのが妄想ですから。

否定すると反抗的気分が盛り上がりますし、仕方なく肯定すると妄想がより強まります。否定も肯定もせず、妄想の内容から話題を逸らすようにする・・・。「接して触らず」が、接し方の基本セオリーです。


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