若年性認知症の前兆・初期症状とは?予防方法など


若年性認知症とは、18歳から65歳未満の人が発症した認知症の総称です。この中には、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、頭部外傷性認知症、アルコール性認知症など様々な種類の認知症が含まれています。

今回は、アルツハイマー型認知症を中心に説明していきます。

目次

若年性認知症とは

若年性認知症は、一つの疾患をさしているのではなく18歳~65歳未満の人が発症した認知症の総称です。

主な疾患を列記すると次のようになります。

・アルツハイマー型認知症
・レビー小体型認知症
・脳血管性認知症
・前頭側頭型認知症
・頭部外傷性認知症
・ピッグ病
・アルコール性認知症
・正常圧認知症

原因のわかる疾患とわからない疾患

上記の疾患の内、脳血管性認知症、頭部外傷性認知症、アルコール性認知症は、原因がわかっていますが、その他のアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などは、その原因が完全に解明されていません。

例えば、脳血管性認知症は、脳梗塞、脳出血など脳の血管に異常が起きた結果、認知症になるものです。つまり、脳血管疾患の後遺症です。

これに対して、アルツハイマー型認知症は、脳内の神経細胞がどんどん壊れ、脳が次第に萎縮していき、知能や身体全体の機能も衰えていきます。しかし、なぜ萎縮していくかという発症の根本的な原因はわかっていません。

若年性アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症というのは、1907年にドイツの精神科医、A.アルツハイマー博士が初めて報告した病気です。

この病気にかかると、脳内で特殊なタンパク質異常が起こり、脳内のニューロン・シナプスが脱落し、脳内の神経細胞がどんどん壊れ、脳が次第に萎縮していき、知能が衰え、身体全体の機能も衰えていきます。

やがて、二次性の呼吸器合併症などによって最終的に死に至る恐ろしい病気です。

高齢者に多いが・・・

年を取るとともにアルツハイマー病を発症する危険はふえてきます。実際、アルツハイマー病と診断された人の大半は65歳以上です。

しかし、アルツハイマー病患者の中の約5%は65歳未満で発症していると推定されています。これが、若年性発症型アルツハイマー病と呼ばれるものです。

5%という数字は、一見少ないように思われますが、そもそもアルツハイマー型認知症の患者が多いということを考えなければなりません。若年性認知症に限っていえば、若年性アルツハイマー型認知症は、脳血管性認知症39.8%に次いで25.4%を占めています。

さまざまな認知症の違いは時に大きい

若年性アルツハイマー病は進行が早い

若年性アルツハイマー病は高齢者のそれよりも進行が速いと言われています。それだけに早期発見、早期治療が重要になってきます。

若年性アルツハイマーの初期症状としてうつ状態が見られます。またイライラして、家族に当り散らすようにもなります。

このような症状から、アルツハイマーではなくうつ病と見られがちです。また、アルツハイマーは高齢者の病気だという思い込みと、アルツハイマーではないと思いたいという気持ちもあって、治療が後手に回るケースがしばしばです。

早期発見、早期治療が重要

症状の進行速度が速い分、早めの対策が非常に有効です。発見が早ければ、進行を遅らせる治療を早い段階から受けられ、進行速度を大きく鈍らせることができます。

また、将来に向けて家族が話し合う時間が取れ、自治体や医療機関のサポートを早いうちから受けられるというメリットもあります。

中核症状と周辺症状

アルツハイマー病の症状は、大きく二つに分けられています。

一つは、中核症状です。これは、脳の神経細胞が破壊されることにより、その細胞が担っていた機能が低下して起こるもので、アルツハイマーの人すべてに例外なくあらわれるものです。その代表的な障害が記憶障害です。

一つは、周辺症状です。周辺症状は中核症状の2次的症状ともいえるもので、その人の性格や経験してきたことや生活環境や人間関係に大きく左右されます。つまり、人によって症状のあらわれ方が異なります。代表的な周辺症状としては、徘徊、弄便(ろうべん)、失禁、せん妄などがあらわれます。

基本的に進行を遅らせることしかできない

アルツハイマー型認知症の中核症状を治療して治すことはできません。根治は不可能ですが、進行を遅らせることはできます。

アルツハイマー型認知症では、情報をやり取りする「アセチルコリン」という神経伝達物質が減少していきますが、これを分解する酵素の働きを抑える新薬が開発されています。広く用いられているのが、ドネペジル(商品名:アリセプト)ですが、近年、レビー小体型認知症への効能も認可されました。

周辺症状に対しては、妄想や幻覚を押さえる抗精神薬、不安や興奮をおさめる抗不安薬、抑うつ症状を改善する抗うつ薬が用いられています。

若年性アルツハイマー型認知症の前兆・初期症状

アルツハイマー型認知症には、その前兆を示すいくつかのサインが見られます。ところが、老化の始まりなのかもしれないと思い込んで、サインを見逃すこともしばしばです。

「もしかして・・・」のチェックポイント

通常の老齢化なのかアルツハイマーの前兆なのか、なかなか判断が難しいところがありますが、参考までにアメリカのアルツハイマー病協会が示した10の兆候をあげておきます。

1)日常生活に支障が出るほどに記憶力が低下する
・今日が何日かわからなくなる。
・同じことを何度も聞くようになる。
<通常の老齢化では、名前や予定を忘れても後で思い出すことができます>

2).計画や問題解決が困難になる
・月々の請求書が払えなくなる
・集中力が落ちて今までしていた仕事に時間がかかるようになる。
<通常の老齢化でも、時々家計簿の計算が合わなくなることはあります>

3)やり慣れた作業をやり通すのが難しくなる
・通いなれた場所へ運転していくようになる。
・やり慣れたゲームのルールを忘れる
<通常の老齢化では、電子レンジやテレビの録画機能にてこずることがあります>

4)日付や場所が分からなくなる
・日付や曜日、季節を忘れて思い出せない。
・その場所にどうやって来たのか、どこにいるのか思い出せない。
<通常の老齢化では、日付や曜日を忘れても、後で思い出せます>

5)目で見たものや空間的な関係をなかなか理解できない
・距離感がわからずにぶつかる
・鏡の前を通ったのに、部屋の中に誰かがいると勘違いするなど。
<通常の老齢化では、白内障に伴い、視力が変化します>

6)話したり書いたりするときに、言葉につまる
・会話の途中で止まってしまい、続けられなくなる。
・同じ話を繰り返す。
<通常の老齢化では……時々単語につまることがあります>

7)物を置き忘れて探せない
・いつも何かを探している
・なくなったものを誰かのせいにするなど
<通常の老齢化でも、置き忘れが時々起ります>

8)判断力の低下
・テレビショッピングで高額なものを買う
・身なりに注意を払わなくなるなど。
<通常の老齢化でも、時々判断を誤ります>

9)仕事や人とかかわることを辞めてしまう
・好きだったスポーツチームなどに興味を失う
・趣味でやっていたことを途中でやめてしまう
・人と会うのを避けるようになるなど。
<通常の老齢化では、仕事や家庭、人との関わりが時々面倒くさくなります>

10)気分や人格の変化
・混乱する、不安になる、疑い深くなる、落ち込むなどの気分の変化
・親しい人に対してすぐにイライラする
・慣れ親しんだ場所以外に行ったり、知らない人に会ったりすると動揺する。
<通常の老齢化でも、決まったやり方で物事を進めるようになり、遮られるとイライラします>

参考文献 :Alzheimer’s association : KNOW the 10 SIGNS

記憶力の低下

アルツハイマー型認知症の代表的な中核症状が、記憶障害です。記憶障害とは、自分の体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう障害です。

記憶は、大きく5つに種類にわけることができますが、下記に示すように短期記憶の障害に始まり、時間とともに記憶全般に障害が及んできます。

●短期記憶
今日の日付とか食事をした記憶など、比較的直近の記憶です。この短期記憶に障害があらわれてきます。

●長期記憶
過去のできごとなど長く保持されてきた記憶ですが、発症すると子どもの名前とか、自分が勤めていた会社、自分が通った学校などの名前や思い出が抜け落ちて行きます。症状が進むと、家族の名前や顔も忘れてしまいます。

●エピソード記憶
体験に関わる記憶です。一緒に家族旅行をした記憶が失われていきますから、周囲と話がかみ合わなくなっていきます。

●手続き記憶
身体で覚えたことに関わる記憶障害です。自転車に乗れなくなるというのは、この手続き記憶の障害です。

●意味記憶
文字通り、言葉の意味を忘れてしまう障害です。「あれ」とか「それ」などの表現が多くなり、意思疎通が難しくなってきます。

性格が変わる

記憶障害の陰に隠れがちですが、アルツハイマー型認知症では、温厚な性格だった人が急に怒りっぽくなり、攻撃的になる、といった人格の変化があらわれてきます。暴言ばかりではなく、暴力的になることもあります。

これは、アルツハイマーの中核症状のせいで、意思の疎通が上手くいかなくなることへの苛立ちが原因です。人格変化の症状が出た場合、理不尽な怒りに戸惑い、あるいはとがめたりすると、当人の怒りや苛立ちが募ります。冷静になって、話題をそらしたり、怒りが収まるのを待つ我慢が求められます。

幻視を見るようになる

この症状は、レビー小体型認知症にしばしばみられる症状です。レビー小体とは、神経細胞に出来る特殊なたんぱく質です。

レビー小体型認知症では、ものを考えるときの中枢的な役割を果たす大脳皮質や呼吸や血液の循環に関与する脳幹にレビー小体が集まってきて、神経細胞が壊れ、減少していきます。

レビー小体型認知症は、物忘れよりも、「部屋の中に虫や蛇がいる」といった幻視があらわれるのが特徴です。

若年性認知症の予防方法

アルツハイマー型認知症の中核治療は、現在の医療では根治することはできません。進行を遅らせるしか打つ手はありませんが、アルツハイマーにならないような予防法というのはあります。

完璧な予防とは言えないまでも、リスクが減る確率は高くなります。アルツハイマー型認知症を含めた若年性認知症の予防法のいくつかを紹介します。

生活習慣を改善する

糖尿病の患者は、健康な人よりもアルツハイマー病の発症のリスクが高いと言われています。高血糖を招きやすい食生活の改善が、アルツハイマー病の予防につながります。

脳血管性認知症の直接の原因である脳梗塞やの血栓も食生活と深くかかわっています。食生活の改善は、アルツハイマーだけでなく、さまざまな若年性認知症の予防になるのです。

このほか、喫煙はアルツハイマーだけではなく、脳血管性認知症のリスクも高めてしまうといわれています。

昼寝と運動

毎日、昼寝をすることでアルツハイマー病の発症リスクは20%下がるというデータもあります。睡眠不足になると脳に大きな負担がかかり、これが若年性アルツハイマー病の引き金になりかねないというわけです。

ちなみに、13時~15時の間で30分以内のうたた寝がより効果的だと言われています。

アルコールの摂取をほどほどにする

若年性認知症の中には、アルコール性認知症というものがあります。

これは、アルコールを多量に飲み続けた結果、脳梗塞などの脳血管障害を起こした結果発症する認知症です。またアルコールを多量に飲み過ぎることで、脳が委縮するのではないかとも考えられています。

実際、アルコール依存症で治療中の60歳以上の患者の中で40%の患者に認知症の症状が見られるというデータもあります。

衝撃から頭を守る

若年性認知症の中に外傷性認知症というのがあります。頭部へのダメージによって発症する認知症です。頭部へのダメージといえば、頭を叩きあうボクサー特有のパンチドランカーがあります。

正確には、「慢性外傷性脳症」といいますが、蓄積された脳へのダメージが原因で、頭痛や体の震えなど様々な症状があらわれるほか、認知症の症状もでてきます。

とにかく、衝撃から頭部を守ることは重要です。毎日、ヘルメットをかぶって仕事に行くことはできないでしょうが、サイクリングに出かけるときは、必ずヘルメットを着用しましょう。

何かおかしいと思ったらすぐ受診を

アルツハイマー型認知症は、その兆候はかなりはっきりと表れているにも関わらず、老化のせいにして、先延ばしにしがちです。進行が速いとされる若年性アルツハイマー型は、何よりも早期発見と早期治療が決め手です。

自分で、どこかおかしいと思ったら、躊躇うことなく専門の医療機関での診断を受けるようにしてください。


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