SSRIなどの抗うつ薬が性欲低下・性機能障害を引き起こすって本当?


目次

【序章】SSRIの基礎

SSRIって?

SSRIは抗うつ薬の一種で、主にうつ病の治療に用いられる薬剤です。

SSRIは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)の頭文字を取った略称です。

SSRIの薬は

日本で発売されているSSRIは

  1. レクサプロ
  2. ジェイゾロフト
  3. パキシル
  4. デプロメール(ルボックス)

の4種類です。

どういう作用?

うつ病は脳内のモノアミン系と呼ばれる神経伝達物質が減ることで起こると考えられています。抗うつ薬は、この減ったモノアミン系を増やす作用を持つため、うつ病が改善する仕組みになっています。そしてモノアミン系の中でもセロトニンを増やしてくれる薬をSSRIと呼んでいます。

モノアミン系って?

脳内にある神経同士が情報を交換するときに使われる物質を、神経伝達物質と呼び、用途に合わせて、様々な神経伝達物質が存在します。その中でモノアミンと呼ばれるアミノ酸から作られる神経伝達物質をモノアミン系と呼びます。

モノアミン系の神経伝達物質のうち、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンは精神疾患に関わる重要な神経伝達物質と呼ばれており、これらの神経伝達物質のはたらきが障害されることで、精神疾患を発症すると考えられています。

他の抗うつ薬の基礎

抗うつ薬の分類

  1. 三環系抗うつ薬
  2. 四環系抗うつ薬
  3. SSRI
  4. SNRI
  5. NaSSA

と大きく分けると5種類になります。どこにも分類されないものもありますが、今回は割愛します。

他の抗うつ薬との違い

SSRIはモノアミン系(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン)のうちセロトニンを主に増やす作用を持ちますが、他の抗うつ薬は別の神経伝達物質も増やしてくれます。SNRIや四環系抗うつ薬はセロトニンとノルアドレナリンを増やしてくれますし、NaSSAはセロトニンとノルアドレナリンとドパミンを増やします。

このように主にどのモノアミン系を増やすのか、どうやって増やすのかという違いで、抗うつ薬は分類されています。

増えるモノアミンは1種類より2種類の方がお得?

じゃあ沢山増やしてくれる抗うつ薬の方がいいのではないかと言われるとそうではありません。モノアミン系が減ることで、様々な精神症状を引き起こしますが、増えることで生じる副作用もあるのです。

精神科医はどのモノアミン系が減っているのか、患者のエピソードや客観的情報から推測し、適した抗うつ薬を選びます。というのも、うつ病の中でもセロトニンが減っているタイプ、セロトニンもノルアドレナリンも減っているタイプなど様々だからです。

性機能障害と精神科薬の関係

性機能障害なんて起こるの?

前述した神経伝達物質は全身の機能を司っているため、増減するなどバランスが崩れると、当然全身の様々な場所で影響を与えます。それは性機能も同じことで、神経伝達物質が関係しているとため、バランスが崩れると性機能にも影響を与えます。

性機能障害を起こす神経伝達物質は何?

様々な神経伝達物質が関係し合って起こると考えられていますが、例えば男性の勃起障害の場合はドパミンやアドレナリンによって起こるとされています。他にも性欲低下はセロトニンが関与していると考えられています。

精神疾患に罹患すると、これらの神経伝達物質のバランスが崩れるため、性機能障害は起こります。そして、そのバランスを薬で整えようとしても、うまくバランスが整わなければ、副作用として性機能障害が起こるという仕組みです。

人間の機能が正常にはたらくということは、絶妙なバランスのうえで成り立っているのです。

【本編】抗うつ薬の副作用で性欲低下は起こるのか

SSRIの副作用

SSRIにもそれぞれ薬によって特徴的に表れる副作用はありますが、共通して起こるとされている副作用は消化器症状(悪心や嘔吐、下痢や食欲不振など)、24歳未満の自殺リスク上昇、躁転、賦活症候群、セロトニン症候群、など様々にありますが、性機能障害もその一つです。

中でもSSRIは性機能障害になりやすい

他の抗うつ薬や、精神科薬でも性機能障害は起こりますが、中でもSSRIは性機能障害を起こしやすいと報告があります。また性機能障害は内服を継続すれば改善してくる消化器症状とは違い、飲んでいる間は持続することが多いという特徴もあるため、医師との相談が必要です。

SSRIの性機能障害の割合は?

添付文章の副作用報告を参照

  1. レクサプロ 1%未満
  2. ジェイゾロフト 1%未満
  3. パキシル 1~10%未満
  4. デプロメール(ルボックス) 0.1~5%未満

となっています。これは添付文書上の報告で、海外の研究では、SSRIはそれぞれ60~70%の性機能障害を報告するデータもある。[1] このように誰にでも起こり得る副作用なのである。

相談しにくい性機能問題

うつ病になりやすい方の特徴として、几帳面、完璧主義、正直、頑張り屋などの性格が多いです。こういった方の中には、なかなか性的問題を医療者に伝えにくいという側面を持っている方も多いです。この副作用は誰にでも起こり得ることであり、なおかつパートナーとの関係にも影響を与えることですので、相談する勇気を出すことも大切です。相談頂ければ対策方法を提示することができます。

だからSSRIは悪なのかという問題

答えはNO

性機能障害があるから使わないという選択をすることは自由だが、薬を使う以上、どの薬を使っても副作用は起こってしまう。

SSRIはセロトニンに特化して作用する薬剤であり、その他のドパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質への影響が少ないことが特徴の薬であるため、副作用が少ないと言えるからです。

それに抗うつ薬やSSRI以外にも、身体科の薬で性機能障害を起こすものも沢山あります。もしかしたらあなたの飲んでいる薬にも入っているかもしれません。

出たら対処することが一番

副作用は出たら早期対処の姿勢を持つことが大切です。副作用が現れる可能性があるからその薬を飲まないでは、どの薬も飲めなくなってしまいます。薬物療法をするということは副作用のリスクを背負うことです。

副作用が出るから薬を飲まないというのも、あまりいい選択とは言えません。うつ病も悪化すれば死ぬ病気です。放置して良い病気ではありませんし、他の治療では限界があります。

参考文献

[1] Montejo AL, Llorca G, Izquierdo JA, Rico-Villademoros F. Incidence of sexual dysfunction associated with antidepressant agents: a prospective multicenter study of 1022 outpatients. Spanish Working Group for the Study of Psychotropic-Related Sexual Dysfunction. J Clin Psychiatry. 2001;62 Suppl 3:10-21.

[2] 三輪高市,今どきの抗うつ薬処方.南山堂2019.

[3] 武藤教志,メンタルステータスイグザミネーション2.精神看護出版.2018