精神疾患における幻覚とは?症状・治療法、幻聴、幻視、幻嗅って?


声や音がしないのに、聞こえたような気がすることを「空耳」といいます。幻覚のなかの幻聴(幻声)も、声や音がしないのに声が聞こえるという点では、同じです。ただし、空耳の場合、「今、母の声を聴いたのは空耳だったか」といぶかしく思い、亡くなった母が生き返ったなどとは思いません。

ところが、幻覚の中の幻聴は、実在しないのに、実在するする人の声や物音が聞こえてきます。幻視、幻蝕なども事情は同じです。

目次

幻覚には幻視、幻聴、幻嗅などがある

幻覚では実際にはないものをあるものとして実感する

幻覚とは、「対象なき知覚」のことです。ここでいう知覚とは、聴覚、視覚、味覚、触覚、嗅覚などを指します。いわゆる五感ですが、その対象となる声や物や食物が存在しないのに、五感の中で生々しくとらえられて実感される症状です。

夜道を歩いていて、田園のかかしを幽霊と思ったりする見間違いは、幻覚ではなく錯覚です。

五感のいずれにも幻覚はある

五感のいずれにもそれに対応した幻覚があります。幻覚のあらわれ方は、原因や個人差によって異なりますが、複数の幻覚をみることもあります。それぞれの幻覚の内容を簡単にまとめると次のようになります。

幻視

実際にはないものが見えます。図形のようなものが見えたり、ある程度具体的な人や物が見えたりと、見えるものはまちまちです。

変わったところでは、自分自身の姿を自分で見る幻覚もあります。ドッペルゲンガーと呼ばれる「自己像幻視」がそれで、リンカーンや芥川龍之介も見たという記録が残されています。

幻聴

実際には存在していない物音や人の声が聞こえてきます。「お前はバカだ」と自分を非難する声や「出て行け」と命令する声であったりします。

幻嗅

実際にはしないはずのにおいがします。有害なガスの臭いを嗅いでいると感じるケースもあれば、現実の経験では嗅いだことのない説明困難な臭いを感じる人もいます。

幻味

実際にはしないはずの味を感じます。毒の味ととらえることもあります。

幻触

実際には特に触れているものはないのに、何かが触れているように感じます。虫が体に這っているような感じなど、不快感が伴うこともあります。

幻肢痛

けがや病気で、四肢を切断したにも関わらず、あるはずもない手や足に痛みを感じる幻覚です。

体感幻覚

幻触と似通っていますが、実際には痛みの原因となるものが何もないのに、痛いと感じる幻覚などがあります。

原因は多種多様

幻覚の人と言えば、まず思い出すのが薬物中毒患者です。中には身近にいる統合失調症の患者さんたちの幻覚について見聞きしている人がいるかもしれません。

しかし、世の中にはこれ以外に幻覚があらわれる病気がたくさんあります。以下、幻覚の元となる病気をあげておきます。

器質性による幻覚

脳の器質的疾患で現れるもので、レビー小体型認知症、ナルコレプシー、脳血管障害、脳炎、脳腫瘍、脳外傷、てんかん、痴呆などがあります。

症状性による幻覚

代謝性疾患や内分泌性疾患などの全身性疾患であらわれるものです。

精神病性による幻覚

主に統合失調症の患者さんに現れるものです。

心因性による幻覚

重度のPTSDなどによって現れるものです。

薬理性による幻覚

LSDなどの幻覚剤や覚せい剤、大麻の濫用によって現れるものです。

精神疾患における幻覚

幻覚の原因はさまざまですが、ここでは統合失調症をはじめとする精神疾患や認知症、アルコール依存症、PTSDに現れる幻覚を中心にみていきます。

疾患によって感じやすい幻覚は異なる

幻覚の元となる疾患によって、現れる幻覚のタイプが異なります。一体に統合失調症などでは幻聴(幻声)が多く、意識障害を伴う身体疾患では幻視がよく見られます。

短期間で回復することもある

幻覚があらわれるようになると、その原因となっている基礎疾患はかなり重度で、治療も長引きます。しかし、短期精神病性障害と呼ばれる一過性の疾患では、1ヶ月以内に症状がおさまり、幻覚も消失します。ただし、統合失調症への移行などもあるため、注意が必要です。

薬による治療が有効

幻覚があらわれる精神疾患の代表的なものが統合失調症です。統合失調症の症状は、急性期の陽性症状と慢性期の陰性症状の二つに分けられますが、急性期に現れる妄想と幻覚に対しては、抗精神病薬による治療がおこなわれます。

薬による治療と聞くと、薬で強制的に考え方が変えられるとか「洗脳」されるというイメージを持つ人が多いようです。しかし、薬物治療を受けた患者さんの感想は、「幻覚に無関心になる」とか「行動に影響しなくなる」というものです。現在、幻覚の治療として薬物療法がもっとも有効です。

幻覚が生じる精神疾患

統合失調症

思考や感情や行動を一つの目的に沿って統合する能力が長期にわたって低下するのが統合失調症です。統合失調症では、幻覚の中の幻聴、特に幻声があらわれるのが特徴です。

幻声は、耳に聞こえてきたり、頭の中に直接響いてくることもあれば、腹部から聞こえてくる場合もあります。知り合いの人が、悪口や命令を伝える声であったり、会話の中の声であったりしますが、このほかに自分の考えたことが声として耳に入ってくることもあります。

このような「考想化声」という特異な声が聞こえてくるのも統合失調症における幻声の特徴です。

短期精神病性障害

短期精神病性障害とは、統合失調症と同じような症状を呈し、幻覚があらわれることもありますが、1ヶ月以内に回復する一過性の統合失調症です。

大きなストレスを受けた時などに発症し、数日から2、3週間幻覚や妄想があらわれます。しかし、1ヶ月以内に完全に元通りに回復します。

認知症

認知症といえば、物忘れや妄想などを思い浮かべますが、老年期の認知症の約30~40%は何らかの幻覚がみられます。中でもアルツハイマー型認知症についで多いレビー小体型認知症では、初期の段階で物忘れよりも本格的な幻視が現れるケースが多く見られます。

一体に認知症では、幻聴よりも幻視の頻度が高いのが特徴です。また、人物の幻視が最も多いのですが、小動物や虫の幻視、非生物の幻視もあらわれます。具体的には、「虫や蛇が部屋にいる」とか「知らない人が部屋にいる」、あるいは遠くにいるはずの子どもが「帰ってきている」姿などをみて、話しかけることもあります。

アルコール依存症

アルコール依存症では、主として禁断症状のときに幻覚が現れますが、飲酒中に現れることもあります。アルコール依存症や幻覚剤で現れるのは主として幻視ですが、「自分を呼ぶ声」や「自分について批評する人々の声」などの幻聴を聞くこともあります。

そして、その声に煽られて、「自分が殺される」とか「自分は狙われている」などの妄想(被害妄想、追跡妄想)をいだき、激しい自傷行為や他害行為に走るケースがみられますから、要注意です。

その他の疾患によるもの

頭部へのダメージで無嗅覚症になった人に現れるのが幻嗅です。現れてくる臭いは、視覚などの他の感覚からの情報と記憶に基づくものですが、現実の経験に存在しない説明困難な臭いを感じることがあります。

生死にかかわるような危険な体験や性的暴行などの酷い体験をした人は、心に深い傷を受けます。それがもとで様々な心的障害をもつことになります。これがPTSD(外傷後ストレス障害)です。PTSDでは幻聴が聞こえてきます。それが、トラウマ(外傷)に起因するという意識もなく、経験が蘇るようにして幻聴が聞こえてきます。このほか、ある種のてんかんでは、幻嗅や幻味を体験することがあります。

接し方は理解して寄り添うように

幻覚が現れている人と接するのは、正直、不気味なところがあります。しかし、幻覚を感じている本人も、怖かったり、気味悪がっていることを理解すれば、こちらの不気味さもやわらぎ、同情心もでてきます。

幻覚が現れている人と接する時は、ハナから否定したり、根掘り葉掘り聞かないで、その人の苦しみに寄り添い、「今度、先生に聞いてみるからね」くらいで話題をそらすのが、よいでしょう。


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