LGBT(エルジービーティー)に診断は必要?・種類について解説


 人気のテレビドラマ『おっさんずラブ』の視聴率が高いというので話題になっていました。このドラマは、<LGBTドラマ>とも言われていますが、ここではLGBTは、性的少数者という言う意味で使われています性的少数者という呼び方は間違いではありませんが、LGBTで表現される性的少数者の正確な区分け(カテゴリー)があいまいです。

 そこでLGBTに含まれている4つのカテゴリーを解説した上で、場合によっては、診断を必要とするケースについてまとめてみました。

目次

LGBTが意味するもの

LGBTの4つのカテゴリー

 LGBTは、以下のような性に関する特異な指向性を持つ人たちを総称した用語です。

・Lesbian:レズビアン(女性の同性愛者)

・Gay:ゲイ(男性の同性愛者)

・Bisexual:バイセクシュアル(両性愛者)

・Transgender:トランスジェンダー(こころの性とからだの性との不一致)

 このほかに、Questioning(クエスチョニング)というカテゴリーもあります。これは、男性が好きなのか、女性が好きなのか定まっていない、もしくはどちらかに決めたくないと感じる人たちのことです。

LGBTの割合は

 LGBTの割合については、以下のような民間の調査がありますが、それによると大体6~8%といったところです。 思いのほか多くの人たちが、周囲の性的常識に違和感を抱き、苦しんで暮らしていることが明らかになりました。

電通ダイバーシティーラボ(平成27年)全国の20~59歳の約7万人を対象にしたインターネット調査LGBT層に該当するのは7.6%
博報堂DYグループ(平成28年)全国の20~59歳の約10万人を対象にしたインターネット調査LGBT層に該当するのは5.9%
日本労働組合総連合会(平成28年) LGBT以外の性的マイノリティーを含めて8.0%

LGBT診断は必要か

 診断の是非を問うことは、場合によっては治療を要するということを意味します。結論から先に言えば、LGBTのすべてではないにしても、場合によっては要治療のケースもあるということです。

<トランスジェンダー=性同一性障害>ではない

 トランスジェンダー(Transgender)は、ラテン語で「乗り越える」や「逆側に行く」を意味する「トランス」と、英語で「性」を意味する「ジェンダー」の合成語です。 性別には身体的な性別と自分の性別をどのように意識するのかという2つの側面がありますが、性別の自己意識あるいは自己認知をジェンダー・アイデンティティといいます。

 一般的には、身体的な性とジェンダー・アイデンティティは一致していますが、中には身体的には男性/女性であるにも関わらず、ジェンダー・アイデンティティは女性/男性と、異なる人がいます。 これがトランスジェンダーです。 このトランスジェンダーの中で、自らの身体的性別に持続的な違和感を持ち、自己意識に一致する性別を求め、時には身体的性別を己れの性別の自己意識に近づけるために医療を望むことさえある状態の人たちを呼ぶ医学的な用語が、性同一性障害です。 つまりトランスジェンダーのすべての人を性同一性障害と呼ぶのではないということです。

性同一性障害の診断基準

 では、どういう状態をもって「性同一性障害」と診断されるのでしょうか。DSM-Ⅳ-TR(精神障害の診断と統計マニュアル)は、以下のような診断基準を設けています。

1)反対の性に対する強く持続的な同一感がある。
2)自分の性に対する持続的な不快感、または性の役割についての不適切感がある。
3)その障害は身体的に半陰陽(後述)を伴っていない。
4)その障害は臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的またはほかの重要な領域における機能障害を引き起こしている

 これらの1~4に当てはまる方が性同一性障害と診断できます。

日常生活に影響を受けているかどうかがポイント

 DSMでは、①、②の項目で、トランスジェンダーの要素があるのかどうかを判別し、③の項目でトランスジェンダーになりうる要素が身体的に半陰陽(注参照)であるかどうかを判別します。そして、④で①~②の項目の特性によって、問題を抱えているのかどうかを判別します。

 これをまとめると、<トランスジェンダーの特性を持っていて>、<身体的な影響を受けていなく>、<日常生活に問題を抱えている>場合にはじめて性同一性障害と診断されます。 つまり日常生活に問題を抱えている人ではないと、診断基準を満たさないということになります。

半陰陽とは、先天的に男性の性腺(精巣)と女性の性腺(卵巣)の両方を持っている場合をいいます。つまり性腺が両方あることによって、身体的(ホルモン的)に性の同一性に影響を受けてしまうのです。これは身体的な問題によって、1~2の項目が生じるため、性同一性障害からは除外されます。

社会的観点からみた日常生活の問題点

 性同一性障害の人たちは、「反対の性に対する強く持続的な同一感」をもっています。同時に、「反対の性になりたい」という思いが強く、それが言動となってあらわれます(DSM①の状態)。また、

 「自分の性に対する持続的な不快感、または性の役割についての不適切感」を抱いています。その結果、男性なのに女性の性の衣服を好んで着用したり、女性なのに男性の衣服を好んで着用したりします。幼少期の<ままごと遊び>などでは、男児がお母さん役をやりたがったり、女児が人形ごっこよりも激しいスポーツを好んだりなどとして現れます(DSM②の状態)。

 この段階までならランスジェンダーです。ところが、<男/女のくせに身なりが変だ>とか<男/女らしくない言動だ>ということで、仲間外れにされたり、いじめを受けたりするケースが少なくありません。そして、そのことが日常生活に支障を与えるようになったとき、性同一性障害と診断されます。

職業的観点からみた問題点

 スポーツや芸能の世界では、基本的には男性だけの競技、女性だけの競技という具合に同一の性別で限定されています。相撲が代表的な例でしょう。 芸能の世界では、歌舞伎、宝塚のように特定の男/女に限定し、他を排除している分野もあります。 助産師も女性限定の職業で男性はなれません。

 このほか、パイロットや警察官など、身体的制限を設けている職種もあります。例えばパイロットの場合、身長158cm以上ないとなれません。男性ならば平均的に158cmは多数派ですが、女性では158cm以上は少数派です。

 こうした性別や身体的な条件による職業選択の限定には、歴史や伝統というものに基づくもので、一概に否定することはできません。しかし、根拠薄弱な通念に基づく性別の限定は、職業選択の自由を阻害していることも事実です。中でもその影響をもろに受けるのがトランスジェンダーです。

見えない壁がある

 ジェンダーフリーという考えが浸透してきたとはいえ、社会や職場には、まだトランスジェンダーに対する無言の拒絶感、つまり壁が存在しています。 たとえば、会社が男女別の制服の着用を義務付けているケースでは、トランスジェンダーの人にとっては、大きなプレッシャーになります。義務に従うのが耐え難いということになれば、その時点で彼/彼女は、性同一性障害者ということになります。

LGBT合併症というケースも

 以上、LGBTの中のトランスジェンダーを中心にみてきましたが、LGBTであることによって、偏見や仲間外れ、いじめなどの苦痛を受け、それがストレスとなって、うつ病や適応障害を発症してしまうケースが見られます。

 これがLGBT合併症です。実際、性同一性障害の治療と並行して、合併症の治療(うつ病や適応障害の治療)を受けている人も少なくありません。
できれば、合併症を発症してしまう前に、精神科治療を受けて合併症を予防に取り組むことをお勧めします。

診断がおりたあとの治療は?

精神科による治療

 治療を担当するのは、精神科の医療機関です。治療の柱となるのは、主として、精神的なサポート(精神療法)です。具体的には、カムアウトの検討(どうやって、どこまで、いつ等)、どちらの性別で生活するのが自分にとっていいのかといった検討を、これまでの事例を参照して、助言します。合併症の場合は、それぞれの症状に対応して、精神科の医療ケアを行います。

スタートは精神科の治療

 性同一性障害の治療は、一般に精神療法、内分泌療法(ホルモン療法)、外科的治療の3つの段階がありますが、最初に取り組まなければならないのは、精神科の治療です。精神的治療を受けて、なおかつ身体的治療を受けるかどうかを決めていくことになります。いきなりホルモン治療や性別適合手術ができるわけではありません。精神的治療を受けて、なお希望する場合に身体的治療も受ける、という流れです。

苦痛を感じたら早めに相談

 既に述べているように、LGBTだから診断が必要だというわけではありません。LGBTであっても、一般の人と同じように暮らしている人もいます。ただ、そのことが耐え難い重荷となって、日常生活に支障がでてきたという段階になったら、精神科に相談することになります。そのことによって、LGDB合併症を未然に防ぐという効果が期待できます。また、性転換をしたいなどの意思が固く、ホルモン治療や性別適合手術を受けたいというケースでも、まず、精神科に相談した後に身体的治療に取り組むことが重要です。