統合失調症?どこかで聞いたことがある名前だけど、どんな病気だったかな、と呟く人が少なくないかもしれません。統合失調症の病気の歴史は古いのですが、2002年に名前が改められました。
かつては、精神分裂病と呼ばれていた病気です。精神分裂病といえば、知っている、と頷く人が多いのではないでしょうか。およそ100人に1人がかかると言われる頻度の高い病気です。
目次
統合失調症とは
私たちは、思考や感情や行動を一つの目的に沿って統合し、日常生活を営んでいます。この統合能力が長期にわたり低下し、幻覚や妄想やまとまりのない奇異な行動がみられるのが統合失調症です。
そのために家庭生活や社会生活に支障をきたします。また、自分の言動が病気によって歪んでいるにも関わらず、自分でそのことを自覚できません。このように、統合失調症は生活の障害と病識の障害が伴う精神疾患です。
統合失調症の症状(陽性症状と陰性症状)
陽性症状
統合失調症の症状は、陽性症状と陰性症状の二つに分けられます。陽性症状では、幻覚・幻聴、妄想、思考の混乱、異常な行動などが現れます。
幻覚と妄想は、統合失調症の代表的な症状です。幻覚・幻聴とは、誰もいないのに人の姿や人の声が聞こえてくるとか、誰かが自分の悪口をいっているとかを訴える症状です。
妄想とは、あり得ないような誤った内容(事実)を信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない症状です。たとえば、「敵が自分を襲おうとしている」(迫害妄想)とか、「スパイが自分を追っている」(追跡妄想)とか、「みんなが自分をそれとなく見ている」(注察妄想)などが代表的な症状で、これらの妄想を総称したものが被害妄想です。
陰性症状
陰性症状では、感情や意欲の低下が見られます。喜怒哀楽が乏しくなって、意欲や気力や集中力が低下します。感情の減退です。一方で口数も少なくなり、思考力が低下して、会話がなりたたなくなってきます。
さらに、他人とのコミュニケーションを避け、物事に無関心になり、ぼーとして一日を過ごし、引きこもり状態になっていきます。
症状のあらわれ方
統合失調症の症状は、前兆期、急性期、休息期(消耗期)、回復期の経過をたどるのが一般的ですが、個人差があってあらわれ方が異なるケースもあります。
前兆期は、文字通り、発症の前触れとしての症状が現れる期間で、不眠、集中力の低下、イライラするなどの情緒の不安定がみられます。
急性期では、不安や緊張感、敏感さが極度に強まり、幻覚、妄想、興奮といった統合失調症特有の陽性症状があらわれてきます。ところが、本人は何かがおかしいと薄々感じていても、病気だと思っていないので、周りの人には不可解な言動が目立ってきます。
急性期の次に来るのが休息期です。感情の起伏が乏しくなり、無気力で何もしなくなるなどの陰性症状があらわれてきます。幻覚や妄想などの陽性症状は少なくなりますが、陰性症状特有の、一見だらだらしたような無気力状態になり、長時間睡眠をとるようになります。ただし、この時期は精神状態が極度に不安定ですから、ちょっとした刺激で急性期に舞い戻ってしまうこともありますから要注意です。
回復期は、症状に心も身体も安定してくる時期です。また、本人にも意欲が出てきて、活動の範囲が徐々に広がっていきます。といって気を抜くことなく、再発予防のために規則正しい服薬を続けることが肝心です。
統合失調症が発症する要因とは?
遺伝、環境が要因
統合失調症は、遺伝が関与しているのは事実です。統合失調症が怖い病気だと思われているのは、遺伝するという点にあると思いますが、100%が遺伝するというのではありません。
遺伝は、様々に考えられている要因の一つに過ぎません。また、特定の一つの原因があるというわけではなく、複数の要因が重なった結果発症すると考えられています。
遺伝の確率
我が国の統合失調症の患者数は80万人だといわれています。全体の人口の中で0.7%を占めています。ざっと100人に1人弱の人が発症するというのは、結構、頻度の高い病気です。
では、その中で遺伝による要因は、どのくらいでしょうか。
親、兄弟が統合失調症
統合失調症の患者を対象とした調査では、以下のような結果が報告されています。
・両親がともに統合失調症であった場合、子どもが発症する確率は40%。
・統合失調症の兄弟姉妹がいた場合、当人が発症する確率は約10%。
一方で、こんな調査報告もあります。
・統合失調症の患者さんの家族のうち、両親の約9割は統合失調症ではない。
・統合失調の患者さんのうち、兄弟を含めてもその約8割は統合失調症ではない。
・統合失調症の患者さんのうち、甥や姪を含めても約6割は統合失調症ではない。
一卵性の双子
一卵性双生児の遺伝子は100%同じですから、一卵性双生児の発症率を調べると、遺伝との関係が明らかになります。調査の結果は、一卵性双生児の片方が発症すると、もう一人に発症する確率は50%です。
この数値が示すのは、統合失調症では、遺伝の要因が高い。しかし、遺伝以外の環境要因もまた無視できない、ということです。
環境、ストレスがきっかけ
発症の要因は、実はよくわかっていません。卒業、就職、結婚などの人生の転機がきっかけで発症するケースがしばしばみられます。
生活環境がガラリと変わって、ストレスや不安などがたまり、それがきっかけになることも事実ですが、人生の転機を経験したすべての人が発症するわけでもありませんから、これは発症の要因の一つに過ぎない、ということです。
ストレス耐性も要因に
統合失調症は、いくつかの危険因子が重なって発症すると考えられています。遺伝のほかに人間関係を中心にした社会環境、家庭環境、あるいは脳の変化など、強いストレスにさらされたときに発症するケースが多いようです。
そうすると、それらのストレスにどれだけ耐えられるかが問題となってきます。その人の性格という次元を超えて、その人が持っているストレス耐性が脆弱であると、発症する確率が高くなると考えられています。
発症しないためには
統合失調症の予防の決め手というのは、残念ながらありません。とはいえ、塩分控えめの食生活によって高血圧を抑えることができるように、統合失調症の発症を抑える有効なリスク対策というのはあります。
ストレスの少ない環境を
対策のポイント1は、過剰なストレスをなるべく避けるような環境を作るということです。対策のポイント2は、発症した場合の対応を考えておくことです。
統合失調症は、早期発見・早期治療によって、大きな後遺症を残すことなく回復し、社会復帰したというケースが少なくありません。症状のあらわれ方の項でふれた<前兆期>に治療を始めると、治療効果が高いといわれています。
地道な治療で問題はなくなる
統合失調症の治療は、薬物療法と精神療法や生活技能訓練などのリハビリなどを含む心理療法の二本立てで行われます。この二つは、車の両輪のようなものですが、幻覚や妄想が強い急性期では、薬物療法をきちんと行うことが重要です。
入院の必要も
治療の進歩で、外来での治療も増えてきましたが、どうしても入院が必要だ、というケースもあります。医者の立場にたつと病状が把握しやすく、検査や的確に薬物の調整ができる入院が望ましいのですが、患者さんの事情というのもあります。
外来にするか入院にするかの目安は、以下の点が基準となっています。
・幻覚や妄想が激しく、日常生活に支障をきたすようなケース。
・病識の障害などで、自分が病気だと認めたがらず、服薬や静養など、治療に必要な最低限の約束を守れないようなケース。
治療は長期的
統合失調症では、薬物療法を中心にした長期的な治療が行われます。治療の期間は個人差がありますが、年単位の地道な治療です。回復の仕方も人によって異なってきます。
忘れてならないことは、服薬をやめると再発したり、以前よりも病状が悪化することがあるというです。ですから、自分勝手に薬を減らしたり、服薬を中断するのは危険です。
服薬を中断する理由として、副作用があげられますが、副作用への対処は織り込み済みです。仮に副作用がでるということであれば、医師と相談して、場合によっては薬を切り替えるということもありますが、いずれにしろ服薬を継続することが重要です。
他の精神疾患の場合は?
統合失調症と遺伝の関係について述べてきましたが、最後にその他の精神疾患と遺伝に関して、簡単にまとめておきます。
うつ病
うつ病は、憂うつな気分に落ち込み、食欲、性欲、意欲などが低下します。また不眠なども伴い、様々な自覚症状を伴うこともあります。
うつ病における遺伝は、様々な要因の一つで、主たる要因はストレスです。
強迫性障害
手を洗ったばっかりなのに汚れが気になって何度も洗い直すなどの症状があらわれるのが強迫性障害です。ストレスや不安によって生じる精神障害で、遺伝はその他の要因の一つに過ぎません。
社会不安障害
社会不安症とは、人前に出ると話せなくなったり、赤面したりする症状のことです。以前は、あがり症とも対人恐怖症とも呼ばれていました。社会不安症では、遺伝の影響は限られています。
てんかん
規則的なリズムで電気的な活動をしている脳内のリズムが突然崩れ、電気的な乱れ(ニューロンの過剰発車)が生じたときに激しいけいれんを伴った発作があらわれるのがてんかんです。
てんかんの原因は人によって様々です。てんかんのほとんどは、遺伝とは無関係ですが、一部のてんかんには遺伝子が関係していたり、発作の起こりやすさい体質を受け継ぐことが明らかになっています。ただし、そうしたてんかんの多くは良性ですから、治癒しやすいとされています。
遺伝はあくまで要因の一つ
一見すると遺伝が関係しそうに思われる精神疾患をみてきましたが、これらの疾患ではいずれも遺伝は、数ある発症要因の一つにすぎません。むしろストレスや環境からの負荷の影響が大きいとされています。
遺伝よりも環境を気にすべき
統合失調症は、その他の精神疾患よりも遺伝的影響が大きいことは事実です。しかし、遺伝以外の環境要因が大きいことも、また確かな統計的事実です。
統合失調症は、遺伝によってもたらされる不治の病ではなくなってきています。実際、医療の進歩によって多くの患者さんが、社会復帰ができるようになってきているのです。であれば、万病のもとである環境を改善し、万が一発症したら、回復の可能性が高い早期治療に取り組むことが重要です。