ご存知ですか、「スワンベーカリー」 障害者が働くパン屋さんです


目次

スワンベーカリー誕生の物語

 「スワンベーカリー」は、障害者の働く場所を確保するために設けられたフランチャイズチェーンのパン屋さんです。

 現在、全国に直営店を含めて27店が展開し、一部では軽食を提供する喫茶店を併設している店舗もあります。

障害者雇用によるパン製造販売のフランチャイズ

 スワンベーカリーを運営しているのは「株式会社スワン」ですが、同社はクロネコヤマト(ヤマト運輸)でおなじみのヤマトホールディングス株式会社の特例子会社です。

 平成10年(1998年)、障害者の自立と社会参加の支援を目的として設立されました。

 パンの製造及び販売、コーヒーショップの運営のほか、酒類販売業、物品(食料品、日用雑貨品、書籍、装身具、衣料品)の販売などが主な業務です。

「作品」ではなく「商品」をつくる

 ヤマト運輸の創業者、故小倉昌男氏が、障害者の自立と社会参加の支援を目指して「ヤマト福祉財団」を設立されたのは、平成5年(1993年)のことです。

参照:ヤマト正伝 小倉昌男が遺したもの

 阪神淡路大震災が発生したのは、財団設立から2年後の平成7年のことでした。
この大震災で、障害者が働くたくさんの共同作業所も被災しました。 
震災の現場に赴いた小倉氏は、共同作業所で働く障害者が手にするお給料がわずか1万円(当時)にも満たないことを知りました。
「これはおかしい。これでは自立などできるわけがない」

 では、どうしたらこのような低賃金を改善することができるのか。
長い間、経営の現場でユーザーのニーズに応えてきた名経営者の答えは、「作品」を作るのではなく、一般の消費者を対象としたマーケットで売れる「商品」作りを目指すというものでした。

平成10年、銀座1号店がオープン

 ヤマトホールディングスの特例子会社として株式会社スワンが設立されたのは、平成10年のことです。同社が掲げた目標は、「月給10万円」以上を支払える「焼き立てのおいしいパンのお店」を全国に展開するというものでした。

 この目標を実現するため、「アンデルセン」、「リトルマーメイド」を全国展開している株式会社タ力キべーカリーの協力を求め、同社が開発した冷凍パン生地を使用することによって、障害者でも美味しく焼けるパンの製造が可能になりました。

 こうして、1998年6月、スワンベーカリー銀座店がオープンしました。

 現在、下記の表のように直営5店、フランチャイズ店22店を軸に 350名以上の障害者がスワンベーカリーで働いています。

■スワンベーカリーの店舗(★印は直営店)

★スワンベーカリー銀座店東京都中央区銀座2-12-15
★スワンカフェ銀座店東京都中央区銀座2-12-16
★スワンカフェ&ベーカリー赤坂店東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル1F
★スワンカフェ&ベーカリー羽田CHRONOGATE店東京都大田区羽田旭町11-1 
★SWAN CAFFE 成城店東京都世田谷区成城1-4-13ヤマト運輸株式会社 成城支店内1階
・スワンベーカリー共働店東京都港区芝浦4-13-23
・スワンベーカリー落合店東京都新宿区中落合1-6-21
・スワンベーカリー十条店/スワンカフェ&パン工房東京都北区上十条2-2-1
・スワンベーカリー赤羽店東京都北区赤羽西5-12-4-108
・スワンカフェ&ベーカリー町田店東京都町田市中町3-7-17-1F
・スワンカフェ&ベーカリー町田2号店東京都町田市木曽町231 忠生ショッピングセンター305 1階
・スワンベーカリーパトリア品川店東京都品川区八潮5-5-3
・スワンベーカリーさがみはら店神奈川県相模原市南区麻溝台7-1-7 (グリーンハウス内)
・スワンベーカリー湘南店神奈川県伊勢原市田中256-1
・スワンベーカリー柏店千葉県柏市東上町1-3 巳波ビル1F
・スワンベーカリー深谷店埼玉県深谷市宿根524-1
・スワンベーカリー新座店埼玉県新座市菅沢1-3-1
・スワンベーカリー太田店群馬県太田市浜町2-5
・スワンベーカリー 新潟店新潟市中央区神道寺1-1-18 ファーストクラス神道寺1F
・スワンベーカリーハートランド福井店福井県福井市松城町12-7 パリオCITYヤスサキグルメ館1F
・スワンベーカリー茨木店大阪府茨木市豊川3-3-24
・スワンベーカリー倉敷店 
・スワンベーカリー三原店広島県三原市皆実2-2-1 ダイソー皆実店内
・スワンベーカリー沼隈店広島県福山市沼隈町草深2011-1 (ニチエー沼南店駐車場内)
・スワンベーカリーマザーベアー尾道店広島県尾道市西藤町1602
・スワンベーカリー山口店山口県山口市大字下小鯖1068-2
・スワンカフェ&ベーカリー・ハーベストガーデン札幌店      北海道札幌市東区北37条東9丁目2-19 

スワンベーカリーでの働き方

 スワンベーカリーでは、身体障害者、知的障害者、合わせて350人が働いています。パンの製造だけではなく、販売・接客、事務など各人の特性に合わせて働けるようになっています。

スワンベーカリー湘南店のケース

 障害者の人たちは、スワンベーカリーで、どんな仕事をこなしているのでしょうか。

 加盟店の一つ、スワンベーカリー湘南店での働き方を紹介しましょう。同店は、小田急線伊勢原駅から徒歩10分。国道246号線につながる大通り沿いにあります。白地にブルーの「SWAN」の看板がひときわ目を引くお店です。

スワンベーカリー 湘南店 | 店舗一覧 | 株式会社スワン

 オーナーは養護学校で30年教諭をつとめ、障害者の現実を熟知した女性で、平成18年(2006年)にオープンしました。

 店の広さ88平方メートル。そのうちの半分がパンの陳列棚とレジカウンター、イートインコーナーがある販売スペース。残りのスペースが、パンを製造する厨房で、奥には事務室と休憩室を兼ねた小さなバックヤードがあります。

 営業時間は、平日は朝7時30分から18時、土曜日は朝9時から17時まで。
現在、4人の知的障害者、2人の肢体不自由者、そしてオーナーを含め7人のスタッフが、シフトを組んで働いています。

スタッフとともにパンを製造

 「スワンベーカリー」では、パンの生地は指定業者から冷凍のものを購入し、店ではその生地を成形して焼き、トッピングをのせるなどの加工を加えるシステムとなっています。食パンやフランスパンをはじめ、さまざまな菓子パンや総菜パンなどのメニューも決まっていて、マニュアルに従ってパンを製造します。
この製造部門で働くのが障害者のメンバーです。

 パンは商品ごとに成形や加工の方法が違います。
厨房では、製造担当のメンバーがスタッフの手順を見習いながら、手を粉だらけにして生地を練ったり、形をまとめたりしていました。

 ただし、パンを焼くのはスタッフの仕事です。
焼いている最中は高温になるオーブンの前に必ずスタッフが立つようにし、障害者が近づけないように安全面の配慮をしています。

販売業務も視野に

 販売業務では、客がトレイに載せて持ってきたパンを包装し、代金を預かるのはスタッフ、その間に釣り銭やポイントカードなどを用意するのは障害者と役割が分担されています。

 また、お客様がいないときなどには、棚に並ぶパンの在庫数を調べたり、値札を回収するなどの作業も販売担当メンバーの仕事です。

 現状のレジは、高さが車いすの障害者の目線より高くて使いにくいので、今後はバーコードシステムなどを導入し、誰もが使いやすいレジに改良する予定だということです。

 このように、スワンベーカリー湘南店での障害者の仕事は、大まかに製造担当と販売担当に分けられていますが、将来的には、「販売業務のほうは、全員ができるようにしたい」というのがオーナーの方針です。

 そのために、仕事内容を決めつけず、できるだけ多様な作業をさせるように日々のシフトを工夫しているということです。

イートインコーナーも担当

 店の一角にあるイートインコーナーでは、コーヒーや紅茶、ジュース、中国茶など、ホット・アイスも含め十種類以上の飲料を提供しています。

 このコーナーも障害者のメンバーの担当です。

 注文に応じて飲み物を作るだけでなく、ときにはパンを温めたり、食器の上げ下げや洗浄なども受け持っています。

パソコンが得意な障害者は事務担当

 バックヤードの事務室に置かれたパソコンを使って売上を入力しているのは、パソコンに強い障害者です。パソコン担当者は、このほかに宣伝パンフレットの制作や電話の対応なども任さています。

自立支援のポイントは柔軟に働ける場所の確保

 毎日数十種類ものパンをつくるスワンベーカリー湘南店の厨房はてんてこ舞いの忙しさです。製造、販売、接客などの分野で生き生きと働き、売れる良い「商品」づくりに励んでいる様子を目にすると、障害者自立支援のポイントは、障害者が働ける場所を確保することだということが実感されます。

 スワンベーカリーのような仕事場が、善意の企業家によってつくられ、その輪が広がることを願わずにはいられません。