特別支援学校で働くには教員免許以外に必要?採用と処遇は?


目次

特別支援学校教諭免許(特支免許)について

 特別支援学校は、心身に障害のある児童・生徒を受け入れて教育する学校です。障害児の教育支援としては、障害の程度に応じて、通級、特別支援学級、特別支援学校の3つのコースがありますが、今回のテーマは、特別支援学校で教師として働くための条件と処遇です。

特別支援学校とは

 平成19年から、それまでは「養護学校」、「ろう学校」、「盲学校」などと呼ばれていた学校が、特別支援学校と名前を改めました。

 この旧名からも明らかなように、特別支援学校は、知的障害者、聴覚障害者、視覚障害者、肢体不自由者または身体虚弱者を含む病弱者に対して、幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教育過程で自立に必要な知識と技能を習得させる学校です。

教諭免許と特支免許

 特別支援学校の教員になるには、幼・小・中・高のいずれかの教員免許に加えて、特別支援学校教諭免許状(特支免許)が必要です。

 ただし、教育職員免許法では、「幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教諭免許状を有する者は、<当分の間>特別支援学校の相当する部の教諭等となることができる」としています。

 また、<特別支援学級>担任や<通級>による指導を担当する教員については、特別支援学校教諭免許状(特支免許)を有すること等の法令上の規定はありません。

 つまり、教諭免許を持っていれば、特支免許がなくても特別支援学校でも教員として働くことは可能です。
実際、特別支援学校において特支免許を持たない教員は珍しくありません。

特使免許を取得するためには

 普通免許だけでも、特別支援学校では<当分の間>働くことができますが、障害児童のための教育に携わりたいという明確な目的がある場合は、特支免許を取得するべきでしょう。

 特支免許を取得するには、2つのコースがあります。

<コース1 大学での単位修得による方法 >
 大学や短大で教員養成課程を修了し、幼・小・中・高のいずれかの教員免許を取得したうえで、特別支援学校教諭養成課程を持つ福祉系や教育系の大学で所定の科目を修了し、特別支援学校教諭免許(専修、1種、2種いずれか)を取得するコースです。

<コース2 教員実務経験と単位修得による方法>
 幼・小・中、高のいずれかの教員免許(普通免許状)を有し、いずれかの学校の教員(講師含む)として3年以上の実務経験がある場合、大学等で6単位以上修得することで特支2種免許が取得できます。
現職教員であれば、免許法認定講習で単位修得することも可能です。

特別支援学校採用試験

 特別支援学校は、ほとんどが公立(都道府県立・市立)です。
したがって、公立の特別支援学校の教員になるには、都道府県や政令市が実施する教員採用試験に合格する必要があります。

 特別支援学校採用試験の受験者は、一般の教諭免許を取得していることが前提です。ただ、以下のように自治体によって受験資格が異なっています。

①特支免許を持たないと特支区分㊟で受験できない自治体
②特支免許を持たなくても特支区分で受験できる自治体
③特支区分がなく、いわゆる普通学校教員と一括で採用する自治体

 多くの自治体は①か②ですが、③の場合、特支免許がないと特別支援学校へ配属される可能性が低くなります。

採用状況と処遇

 特別支援学校教諭採用試験の採用倍率は、平成29年で3.8倍です。一般の小・中・高に比べると倍率が低いので採用されやすいといえますが、採用数が少ないため、希望の自治体での採用があるかどうかを確認しておく必要があります。

受験者数と採用倍率

 平成29年度の特別支援学校教諭採用試験受験者数は10,513人、採用者数は2797人で、採用倍率は3.8倍です。

 これを男女別でみると、男性の採用倍率は4.5倍、女性は3.3倍となっています。ちなみに、一般の教諭採用試験では、小学校教員4.5倍、中学校7.8倍、高等学校7.7倍、養護教諭8.7倍です。特別支援学校の方が採用されやすいということです。

 また、新卒生の採用率が高いのも特徴です。

給与は一般の教師よりも高め

 特別支援学校教諭の仕事は、障害児童に対する専門的な知識とスキルが求められます。また、学級経営には、手間暇もかかり、慎重な配慮も求められています。

 こうした事情を勘案して、全般に特別支援学校教諭の方が高い給与水準に設定されています。

 たとえば、小学校・中学校教諭の初任給の平均相場は20万円前後ですが、特別支援学校教諭の初任給は約22万円から26万円という高い水準です。

 また、公立学校教諭全体の平均年収は約600万円で、会社員の平均を大きく上回っています。特別支援学校教諭の平均年収は、この数字よりさらに高い水準と推定されます。

勤務時間は長め

 勤務時間は、自治体によって異なりますが、大体、朝の8時15分くらいから午後5時くらいまでとなっています。
勤務日は、平日が所定の勤務日で、土日は休日です。

 特別支援学校では、親子行事、保護者会などが、通常の学校に比べて頻繁に行われます。

 こうした父兄との交流の時間は、週末に設定されていることが多いため、週末は大忙しで、いわゆる「残業」を覚悟しなければなりません。

 このほかに、寄宿舎の宿直業務や校外学習の引率業務などがあり、一般教諭の勤務時間よりも長めになるケースが多いようです。

休日の教材研究

 教室で授業を行い、生徒たちの成績管理を行うというのがメインの仕事ですが、よりよい授業を行うためには、教材研究が欠かせません。
 教材研究を勤務時間内にとることはなかなかできませんから、家に持ち帰ってやることになります。先生たちは、とにかく忙しいのです。

夏休みにも仕事

 「先生には夏休みがある」と羨望交じりに言う人たちがいます。しかし、夏休みにも教諭としての仕事はたくさんあります。

 たとえば、10年に一回の教員免許状更新のための講習を受講したり、勤務先などで行われる研修会、自主セミナーに参加したりしなければなりません。

 また、後で触れるように特別支援学校では、個別の指導計画を策定した上で、自立活動という、その子どもごとに合わせた指導を行う時間が定められています。

 夏休みは、この指導計画を煮詰めていくための打ち合わせなどが行われますから、のんびりと休暇を楽しむというわけにもいかないのが現実です。

特別支援学校での働き方

 職場としての支援学校の特色は、少人数教育であることのほかに「自立支援活動」という支援学校ならではの時間枠が設けられていることです。

少人数教育

 通常の学校では、1クラス35人~40人が標準と定められています。これに対して、特別支援学校では1クラス6人(重複障害児に関しては1クラス3人)が標準です。

 最近では、特別支援学校に重度重複障害の子どもも多く通うようになってきています。こうしたケースでは、教員1人に対して児童・生徒が1.5〜2人ということも珍しくありません。

 通常の学校に比べると、生徒数が少なく、一人一人の障害児童に対して、個別的に濃密なコミュニケーションを計りながら授業を行えるというのが、特別支援学校の大変なところであると同時にやりがいもあるところです。

自立活動

 特別支援学校には、自立活動という時間枠が設定されています。
障害児童の障害の重さ、障害の内容に対応して、自律していけるような個別指導を行うことが義務付けられています。

 このためには、指導計画を作成しなければなりませんが、特別支援学校では、「Team Teaching」の考え方に基づき、教師とスタッフが話し合って作成していきます。

進路指導

 特別支援学校の高等部では、生徒の卒業後の進路指導が行われます。その一環として、2年生、3年生で年2回の現場等実習があります。また、福祉作業者として、一般就労先で仕事を体験しますが、この間の指導も行います。

働き甲斐

 特別支援学校に通っているのは、重いハンディキャップを背負った児童・生徒たちです。こうした彼/彼女たちが将来、就職し、自立できるように支援するというのが特別支援学校の使命です。

 このために、学校では少人数の個別的な授業が行われ、親と子の関係に似た濃密なコミュニケーションのもとで指導をしていきます。
その間、一人一人の児童・生徒の能力を見定め、あるいは発掘し、工夫と努力で能力を向上させることが求められます。

 こうした教える側の努力と児童・生徒たちの努力が実っていく過程を見える形で実感できるのが何よりの生きがいです。

大切なのは使命感と目的意識

 一般教諭よりも採用に有利だからというだけの理由の特別支援学校を目指す人がいたとしたら、多分、その人の教諭生活は不幸になるのではないでしょうか。

 特支免許は、言葉では記されていないものの、障害のある人に対する労りの心と彼/彼女たちのためにひと肌脱ぎたいという使命感を持つ人たちのために発給される免許状といっても過言ではありません。

 そのために、国も給与の面で報いようとしています。また、さまざまな困難に打ち克って成長していく児童・生徒たちの姿が、何よりの報酬といってもいいでしょう。