精神疾患における水中毒とは?症状・治療法


中毒と言うのは、毒性を持った物質が、許容量を超えて体内に取り込まれた結果、体に異変が起こることです。つまり、毒にあたる、という意味です。水も例外ではありません。

目次

水中毒とは

そもそも中毒とは

体には、生体に害をなす物質を処理する能力があります。でも、どんな物質でも大量に摂取すれば有害な作用を示すようになります。また、通常は比較的少量でも身体に害を及ぼすものがあり、これらを毒物といいます。

中毒とは、許容量を超えて摂取したり、毒素を体内に取り込んだ時に起ります。ただし、食中毒のように、急速に生じるものと、長期間にわたって毒素(化学物質)を貯留することで起こるものに分けられます。

前者は、急性中毒、後者が慢性中毒です。また伝染病や尿毒症のように体内で生成された毒素による中毒もあります。これは、自家中毒(内生中毒)と呼ばれるものです。

参考まで、よく知られた中毒をあげておきます。

・一酸化炭素中毒:一酸化炭素を吸い込んだ時に起きる中毒。
・金属中毒:カドミウム、水銀、鉛、ヒ素などを多量に摂取することで発生する中毒。
・急性アルコール中毒:短時間に急激にアルコールを摂取することで起こる中毒。
・急性ニコチン中毒;短時間に急激にニコチンを摂取することで起こる中毒。
・水中毒:大量に水分を摂取することで起こる中毒症状

「中毒」と「依存症」の違い

「あの人はアルコール中毒だ」という人がいる一方で、「あの人はアルコール依存症だ」という人もいます。この二つの同じものでしょうか。

あらわれてくる症状は同じですから、同じ病気だといえます。しかし、「毒素にあたる」という中毒の本来の意味からいえば、アルコール中毒は、アルコール依存症と呼ぶべきでしょう。

新入生の歓迎会でイッキ飲みして病院に運ばれたというケースがあります。これは、アルコールの毒素にあたった正真正銘の「(急性)アルコール中毒」です。

中毒の場合、解毒するのが治療の基本です。しかし、毎日アルコール漬けの暮らしをしているアルコール中毒の人に与える解毒剤というのはありません。アルコール中毒は、アルコールの量をコントロールすることが出来なくなり、アルコールに依存しないことには正気をたもてない病気です。

ですから、アルコール依存症というのが、病気の実情にかなった言葉です。同じように、あの人は「仕事中毒」とか「活字中毒」と言ったりしますが、より正確に言えば、「仕事依存症」、「活字依存症」というべきでしょう。仕事や活字が「あたる」わけではありません。

これとは逆に、一酸化炭素中毒を一酸化炭素依存症というとおかしなことになります。一酸化炭素に依存しているのではないのですから。

なぜ水によって害が生じるのか

水中毒は、過剰の水分摂取によって起こる中毒症状です。水を摂取すると体内の水分が増え、血液中のナトリウムイオンの濃度が低くなっていきます。

といっても、水分の多くは尿となって排出されますから、通常、一日3ℓ未満の摂取ならば、問題はありません。ところがこの量を超えて過剰に摂取すると、利尿処理が間に合わず、ナトリウムイオン濃度もどんどん低くなっていきます。やがて、ナトリウムイオン濃度は体に害が生じるレベルまで低下し、水中毒が発症します。

水分であれば水に限られない

いうまでもないことですが、スポーツドリンク、ジュース、お茶なども水に含まれます。また、下痢などで激しい脱水症状が起きた際にナトリウムイオン濃度の低いスポーツドリンクを大量に与えると、乳幼児の場合、水中毒が発症するケースもあるという報告があります。病的な脱水時には、経口補水液を用います。

統合失調症の人が水中毒になりやすい

水中毒は統合失調症の慢性期や自閉症、知的障害者、広汎性発達障害に多いといわれています。水中毒はしばしば統合失調症に見られる水中毒の7~8割は統合失調症の患者さんだという報告もあります。

その理由として、これまでは、抗精神病薬や抗コリン性の抗パーキンソン剤などの薬の影響による口渇が挙げられていました。薬の副作用で喉が渇くから、大量の水を飲むというわけです。

しかし、この説は「俗説」となってきています。というのも、口渇の副作用のある抗コリン性の抗パーキンソン剤が使用されなくても、水中毒患者さんの発生の頻度が変わらないからです。

他の精神疾患でもみられる

心因性多飲症

大量の水を飲まずにはいられない、という心の病気です。原因はストレスで、水を飲むとストレスが解消すると思い込み、水依存の状態になります。

ちなみに、意図的に6ℓ以上の水分を摂取していることが、心因性多飲症の目安とされています。

精神疾患がなくても水中毒になる人はいる

水中毒は、かなり厄介な病気です。水中毒から抜け出すには、長期の治療が必要になります。ところが、一般にはあまり知られていません。

また、水を飲めば健康になるという「水神話」のようなものがあります。さらに、ダイエット効果を信じて、過剰に飲みすぎるケースも見られますし、スポーツの後の脱水状態の時に、ナトリウム濃度の低いスポーツドリンクなどをガブ飲みするケースも見かけます。

こうした飲み方は要注意です。こんな状態のときに、強いストレスがかかると、心因性多飲症になりかねません。

水中毒の症状

水中毒は、血液中のナトリウム濃度が低くなることで発症します。言葉のイメージとは裏腹に、重度になると死にいたる怖い病気です。

低ナトリウム血症

大量の水を飲み、血液中のナトリウムイオンの濃度が低下すると、低ナトリウム血症の症状があらわれます。通常の濃度は、135mEq/lから145mEq/l程度ですが、濃度の低下によって、以下のような症状があらわれてきます。

・130mEq/L ⇒ 軽度の疲労感
・120mEq/L ⇒ 頭痛、嘔吐、精神症状
・110mEq/L ⇒ 性格変化やけいれん、昏睡
・100mEq/L ⇒ 神経の伝達が阻害され呼吸困難などで死亡

低ナトリウム血症の症状

軽度の症状であれば、軽い疲労感、頭痛、嘔吐の症状が引き起こされます。さらに血中ナトリウムイオン濃度が低下してしまうと、性格が変動したり、神経が過敏になったり、注意力が散漫になったりもします。

重度になると、けいれんや昏睡といった症状を招き、最悪の場合は神経伝達が阻害され、呼吸困難などが原因となって死にいたる怖い病気です。

水中毒を避けるには

水中毒という厄介で怖い病気があると、ということを知っておくことが予防の大前提です。

病気にならないための水の飲み方

水は、体の老廃物を排出するという重要な役割を果たしています。ですから、水分の補給は必要不可欠です。

しかし、飲み過ぎはいけません。個人差がありますが、体が求める水分の量は、一日当たり1.5リットルから2リットルです。どんなに喉が渇いても、一日3ℓ未満で抑えるようにしましょう。

飲み方としては、イッキ飲みではなく、こまめに少しずつ飲むようにしましょう。朝の寝起きに最低コップ一杯の水を飲むのは、よいことです。というのも、寝ている間に汗をかいたりして血液が濃くなっているからです。

脱水時にはナトリウム濃度の高い経口補水液を飲む

軽度の脱水症では、最初に、目まいやふらつき、頭痛などの症状がみられます。症状があらわれたら、経口補水液で水分を体内に補給しましょう。

経口補水液は、自宅でも作れます。1リットルの水に小さじ半分(3g)の食塩と大さじ4杯(40g)の砂糖を溶かし、好みに応じてレモンやグレープフルーツなどを加えても構いません。果汁を加えると、飲みやすくなるばかりではなく、発汗によって失われたカリウムの補給にもなります。

軽度の脱水症の場合の飲む量は、4時間以内に体重1kgあたり30~50ml、中等度の場合は体重1kgあたり100mlが目安です。重度になると、嘔吐や意識障害、けいれんといった症状も出ます。意識障害が出たら、速やかに医師の診察を受けるようにしてください。

原因を治療する

急性の水中毒で症状が軽い場合、上に述べたような自前の経口補水液の補給で処置できますが、意識障害がでたら専門の医療機関で処置しなければなりません。病院では、点滴によるナトリウムの補給が行われます。

心因性多飲症の場合、当人は、ガブ飲みしているところをみられないようにします。またこっそりと、机の中やカバンの中にペットボトルをしのばせたりしています。

家族の中の誰かにそんな行動がみられるようになったら、注意するよりも精神科のクリニックや病院で診察を受けることを最優先にしてください。

飲み過ぎは禁物

水が体に良いことは、誰でも知っていますが、飲みすぎると病気になるということは意外と知られていません。一日、1.5ℓから2ℓの適量を守るようにしましょう。

それだけでは、飲み足りないということが続くようであれば、水中毒の可能性があります。専門の医療機関で診断を仰ぎ、速やかに遅漏に取り組むことをお勧めします


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