自分でできる認知行動療法③ スキーマを変える


第1回目は、コラム法によって自分の認知の癖を見つけ出し、より適応的な認知を見つけ出すトレーニングを解説しました。2回目は見つけ出した適応的思考を実生活の行動で応用し、その適応性の確信を高めるトレーニング方を解説しました。

自分で行う認知行動療法① 思考を変える
自分で行う認知行動療法② 行動を変える

しかし、いくら既成の認知と別の捉え方をしようとしても次から次へと新たな自動思考が生み出されてしまうことがあります。それは心の奥底に共通のスキーマがあることが原因であるかもしれません。今回は自身のスキーマを見つけ出し、より現実的で楽な生き方ができるスキーマに切り替える為の手法を解説します。

目次

スキーマとは

スキーマとは人の奥底にある信念や価値観のことです。スキーマは長い時間をかけてそれまでの経験や学習が少しずつ積み重なって形作られています。「人間にとって働くことは重要だ」といった日本人なら誰でも持つ価値観もスキーマと言えます。

スキーマは人それぞれの生き方を決め個性を形作る上でとても重要なものですが、自己のスキーマのみ従って行動すると柔軟性のある思考ができなくなり臨機応変な行動がとれなくなり辛い気持ちになる場合があります。

自動思考の奥底にあるスキーマ

    
自動思考は人間が外部から情報を受けた時にとっさに浮かぶ思考のことです。

例えば、わたしは会社でワイシャツがはみ出た人を見たら「自分の身だしなみにさえ気を配れないこの人はきっと仕事が出来ないに違いない」と不愉快な気持ちを抱くことがあります。

上司が指示した仕事をうまく理解できない自分に対し「こんな指示を理解できない自分が情けない」ととっさに感じてしまうことがあります。上司に挨拶をした時に返事がないと「自分は無能なのではないか」と感じることがあります。それぞれ違う場面で浮かんでしまう自動思考ですが、これらの奥底には共通したスキーマがあるかもしれません。

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自分のスキーマを探ってみる

最も簡単にスキーマを見つけ出す方法は複数の自動思考を並べてみて、共通点を見つけ出すことです。様々な状況に対処するためにコラム法の実践を繰り返すことで自分の自動思考の傾向が浮かび上がれば、自然とスキーマにたどり着けるかもしれません。また以下の方法もあります。

下向き矢印法

     
下向き矢印法は辛い気分を引き起こす自動思考の一つ取り上げ、それに対して自分自身が繰り返し疑問を投げかけ続ける手法です。 その考えが正しいと仮定して何を意味するのかとひたすら疑問を投げかけ続けることによってより自分の奥底にある根本的なスキーマにたどり着くことができます。複数の自動思考の掘り下げてゆくと、下図のように共通のスキーマに行き当たることがあります。

図1:

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図2

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自分の持つスキーマのデメリットに気がつく

スキーマを持つ当人が社会に適応し幸せと感じているのならば無理に修正する必要はありません。問題はスキーマによって不必要に辛い気持ちを背負い込んでしまい、自分は他人より不幸だと感じてしまうことです。ここでは自身が持つスキーマが本当に現実で妥当性を持つか検証する方法を紹介します。

スキーマのメリット・デメリットを比較する

スキーマのメリット、デメリットを比較します。自身が持つスキーマは長年の経験の蓄積の結果であるため、メリットは多く浮かぶもののデメリットは浮かびづらいかもしれません。しかし今持つスキーマの中に一つでもデメリットがあるのならば、そのスキーマは見直す価値があります。 スキーマを修正することによってより楽な生き方が出来る可能性があるからです。

スキーマ:人は完璧であるべき
メリット
・常に自分を成長させることができる
・質の高い仕事をできる
・上司や会社に信頼されやすい
・完璧であることは周囲を安心させる
デメリット
・人は必ず間違いをおかす
・ミスをした時、自分の心の逃げ場がない
・ミスをしない為に全神経を集中させているため非常にスタミナを消費する
・日常のささやかな幸せに楽しみを見いだせない

新しいスキーマ
人は時に失敗もする、常に完璧を求めていれば精神が持たない、問題が起きた時全て自分で解決しようとせず、他人の力を借りることも時に重要ではないか。

従来のスキーマは「そうあるべき」と断定調の言い回しとなっていますが新しいスキーマは幅広いものの見方ができており、文章も長めになっています。新しいスキーマを持つ場合と過去のスキーマを持ち続けた場合、どちらが現実社会で柔軟かつ楽に生きられるでしょうか。

新たなスキーマを実感する

新しいスキーマを身に着けても、その効果を実感出来なければ、以前のスキーマがまた蘇ってしまいます。新しいスキーマを実感する方法としてPDL(ポジティブ・データ・ログ)があります。適応的なスキーマの根拠となるできごとを1日一行ずつ記録する方法です。記録する出来事はどんな些細なことでもかまいません。うれしかったことを素直に書いていきましょう。

2月13日(月) 仕事でどうしてもわからないことがあった為、〇〇さんに質問した。
→怖いと思っていた〇〇さんが丁寧に仕事を教えてくれて嬉しかった。

2月14日(火) 同僚に仕事に対する悩みを打ち明けた。
→同僚もおなじ悩みをもっていることがわかった。自分一人ができないわけではないことを知ってわかり気が楽になった。

2月15日(水) はじめて仕事をする相手に計算が苦手であることを予め打ち明けた。
→弱い部分を打ち明けることは恥ずかしいと感じたが。打ち明けた分作業中はあまりプレッシャーを感じなかった。

2月16日(木) 仕事ができる〇〇さんの作業を手伝って、すごく感謝された。
→自分も人の役に経つことが実感できた。うれしい

新たなスキーマの確証を得るには長い努力と時間が必要となります。もし何か古いスキーマが戻りそうになった時、この記録を見て、肯定感を取り戻しましょう。

まとめ

自動思考を修正しても、その根底に強固なスキーマがある場合、また新たな自動思考が生まれてきてしまう場合があります。今回は自身のスキーマを見つけ出し、それ本当に自己の幸せに結びつく検証し新たなスキーマに切り替えるための手法を解説しました。スキーマはその人の体験などに基づいた価値観でもあり、新しい価値観を持つためには長いトレーニングが必要となります。幾度なく古いスキーマが覆りそうになりますが、根気よく意識を続けましょう。大切なことはいかに自分のとって楽な生き方ができるかということです。