心理士が解説する知能検査WISC-Ⅳ〜お子様の得意、不得意を把握する

心理士が解説する知能検査WISC-Ⅳ〜お子様の得意、不得意を把握する

1.WISC-Ⅳとは

WISC-Ⅳ(Wechsler Intelligence Scale for Children-Fourth Edition:ウェクスラー児童用知能検査第4版)とは、世界でも広く利用されている代表的な子どものための知能検査です。いくつかの検査で構成されていて、その結果から子どもの知的発達の状態を把握することができます。

1.1.知能検査とは

世界には様々な知能検査があります。小学校の就学前にも簡易な知能検査を行っています。検査結果の表示の方法も各検査によって異なっていることが多く、知能指数(IQ)や精神年齢(MA)など様々な結果の表示があります。WISC-Ⅳでは知能指数(IQ)で結果が算出されます。

1.2.知能とは

知能という言葉を耳にしたことがある方は多いと思いますが、そもそも知能とは何を指しているのでしょうか。知能の定義については、これまで多くの学者が議論してきましたが統一された見解はありません。そのため一口に知能検査と言っても、それぞれの検査によって測定している知能が違っているのです。ウェクスラー式知能検査の開発者である、David Wechslerは、知能検査で測定する知能について「目的を持って行動し、合理的に考え、効率的に環境と接する個人の相対的能力」と言っています。WISC-Ⅳにおいて測定される知能も、これに則ったものです。知能とはある特定の力だけでなく、その人の中の様々な能力を含んだものだとも言えます。

2.WISC-Ⅳを実施する目的

WISC-Ⅳは、IQ(知能指数)が測定できるものですが、それだけが目的ではありません。WISC-Ⅳは、生活場面での支援計画や教育場面での指導計画を考える上で大変役に立つ情報源となります。

2.1. 得意なことや不得意なことの把握ができる

WISC-Ⅳでは、検査を受けた子どもの中での得意な部分と不得意な部分がわかります。これが明らかになることで、「この子はどういう場面で集中しやすいのだろうか」「どういう伝え方をした方が理解しやすいのだろうか」ということを考えるための情報になるのです。

2.2. 知的障害の評価をするための参考になる

WISC-ⅣはIQ(知能指数)が算出されるため、同年代と比べてどの程度知的な発達が進んでいるかということがわかります。知的障害は、WISC-Ⅳのような全般的な知能を測ることのできる検査の結果が、診断に必要な基準の一つになっています。しかし知能検査だけでは、知的障害の評価をするための情報としては不十分です。生活の場や地域社会での様子なども含めた様々な情報が必要になるので、WISC-Ⅳの結果だけでは知的障害と診断することはできません。

3.WISC-Ⅳの内容

WISC-Ⅳの詳しい検査内容や実施の手順などについては、専門家以外には公開してはいけない決まりになっています。そのため、検査の内容について詳しく説明することはできません。WISC-Ⅳは、最新の理論と実践が反映された複数の検査の組み合わせで構成されています。

3.1. 検査の対象になる子どもについて

WISC-Ⅳは、何らかの疾患や障害を特定するための検査ではないため、実施可能な年齢の範囲にある全ての子どもが対象となります。上でも述べた通り、WISC-Ⅳは検査を受けた子どもの得意な部分や苦手な部分もわかる検査です。そのため、生活上で取り立てて何も困りごとのない子どもだったとしても、検査を受けることで得意不得意がわかり、より効果的な指導の方法や接し方を考えるための資源になるのです。

3.2. WISC-Ⅳの実施にかかる時間について

WISC-Ⅳの1回の実施には1時間から2時間程度かかります。子どもの様子や、その日の体調などによってかかる時間は変わってきます。また、1回の実施で全ての検査を実施することが望ましいとされていますが、何らかの理由で検査を中断しなければならないときには2回にわけて実施することも可能です。その場合、1週間以内に行う必要があります。

3.3. WISC-Ⅳの実施が可能な条件

WISC-Ⅳは5歳0カ月~16歳11カ月の子どもを対象としています。また、同じ検査を短い期間で実施すると、「練習効果」と呼ばれる検査への“慣れ”から、一部検査で通常よりも数値が高く算出されてしまう可能性が高くなります。一般的に、再検査には1年以上の期間が空くことが望ましいと言われています。

また、検査の中にはその日の体調や疲労が反映されやすいものもあります。睡眠不足や体調不良、疲労を感じている時などに検査を実施すると適正な結果を出すことができません。できるだけ万全な体調で検査に臨むことが望ましいと言われています。

3.4. 身体上の障害で特別な支援が必要な子どもの検査について

手先の肢体不自由、聴覚の障害、視覚の障害などのある子どもへの検査については、標準の方法では実施が難しい場合があります。補助検査を用いて、一部の検査の代わりにすることは可能ですが、子どもの状態によっては実施不可能な検査もあります。したがって、IQ(知能指数)を算出することが難しい場合もあります。その場合でも得意や不得意といったものはわかるので、支援の参考にすることはできます。

4.WISC-Ⅳの実施者の資格や条件について

WISC-Ⅳの検査を行うにあたって、検査者に必要な資格は定められていません。しかし、WISC-Ⅳの実施や、結果の解釈は手順が複雑であるため、十分に訓練や経験を積む必要があるとされています。日本では、臨床心理士ないしそれに準じた資格を持った専門家が検査を実施することが一般的です。こころの発達支援室においても、臨床心理士が検査の担当をしています。

5.WISC-Ⅳの活用の具体例

これまでWISC-Ⅳの概要についてお伝えしてきましたが、具体的な検査内容について説明できなかったことなどから、実際にどのような検査なのか、どのように役に立つのかといったイメージが持ちにくかったのではないかと思います。ここではWISC-Ⅳ活用の具体例をご紹介いたします。ここでご紹介する例は、支援のほんの一例です。

5.1. 授業に集中することが難しい小学校4年生の男の子A君の事例

【WISC-Ⅳ実施の経緯】

A君は学力は低くないが、授業中の離席やおしゃべりが多く、集中が続かない。先生の指示とは違うことをやったり、係の仕事を忘れてしまったりすることも多い。勉強に対しても意欲が低く、家で宿題をやることができない。整理整頓も得意ではない。母がこのような状況を心配して、専門機関に相談し子どもの特徴の把握のために検査の実施を勧められた。

【WISC-Ⅳの結果】

IQ(知能指数)は平均に位置している。目で見たものを覚えておくことは得意だが、耳で聞いた情報を覚えておくことは苦手だった。また、細かい部分を見ることが得意だが、一度に目に入るものが多くなると、どこを見たらいいかのかわからなくなってしまう傾向がある。

【結果からわかったこと】

・耳で聞いた情報を覚えておくことが苦手なため、先生の指示を覚えておくことが難しく、今やるべきことがわからないために、指示とは違うことをしてしまう、離席やおしゃべりをしてしまう。
・耳で聞いた情報を覚えておくことが苦手なため、家族や先生に褒められても記憶に残りにくく、自信の低下につながり、勉強への意欲も落ちている。
・多くのものを一度に見ることが苦手なため、物を片付ける場所を探すことができずに整理整頓が難しくなっている。

【実際の支援】

・学校に情報の提供を行い、授業では今やるべきことを言葉での指示と合わせて黒板に書いてもらうことにし、A君が目で見て指示を確認できるようにしてもらった。
・教室の黒板の周りの掲示物を少なくして、前を向いたときに目に入るものを少なくし、集中しやすい環境を作ってもらった。
・宿題をやった日にチェックをつけられるような表を作成し、目で見てA君が自分の成果を確認できるようにした。
・物を片付ける場所には種類に分けて蓋をつけ、蓋に収納する物のラベルを張ることで何をどこに片付ければいいか一目でわかるようにした。

【支援の結果】

A君の授業中の離席やおしゃべりの頻度が減り、整理整頓をすることにも抵抗感が減った。

6.まとめ

WISC-ⅣはIQ(知能指数)だけでなく、多くのことがわかる検査です。IQを算出することだけでなく、検査を受けた子どもの特徴を把握し、毎日の生活や学習の支援に活かすことが重要になります。

参考文献:Wechsler, D. (2004). The Wechsler intelligence scale for children—fourth edition. London: Pearson Assessment.(日本版WISC-Ⅳ刊行委員会(訳) (2010). 「日本版WISC-Ⅳ知能検査 実施・採点マニュアル」. 日本文化科学社)

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