心理士が解説する認知行動療法~認知を変える、行動を変える、自分を変える

心理士が解説する認知行動療法~認知を変える、行動を変える、自分を変える

認知行動療法とは、人の考え方や解釈などに焦点をあてた「認知療法」と、人の行動に焦点をあてた「行動療法」が重なりあって成立した心理療法です。うつ病、パニック障害、強迫性障害、不眠症、摂食障害、統合失調症などにおいて有効性が報告されています。

認知行動療法の基本原則

認知行動療法の軸となる原則を2つご紹介し、基本的な理論を説明します。

1-1.認知原則

認知原則とは、人の感情や行動は「認知」によって強く影響を受けているという考え方です。「認知」とは、人の考え方や、物事に対する解釈のしかたのことです。しかし、同じ出来事に出会っても、私たちのその時の気持ちや行動、体の反応は違います。それは私たちの考え方や受け取り方がそれぞれ違うからです。その考え方が悲観的になりすぎると辛くなってしまいます。図1は認知原則を図式化したものです。


図1.基本的認知原則

図1のプロセスについて例を用いて検討してみましょう。

仮に、あなたが知り合いの人を見つけたとします。相手の人もあなたに気が付いているようですが、なんとなくあなたを無視しているように思えたとします。以下に、この出来事に対する考え・解釈の例を複数挙げました。また、それらの解釈に対応して生じる可能性のある感情も提示しました。

認知が変われば気持ちも変わる

「あの人は私のことをつまらない人だと思っているのではないか…」(不安)
「あの人は私のことを避けている…。私のことを好きな人なんて誰もいない」(抑うつ)
「無視なんかして、あの人は生意気だ!」(怒り)
「きっと昨日お酒を飲みすぎて、まだ二日酔いなんだろう!」(愉快)

この例のように、異なった認知が異なった感情を生じさせます。気持ちが動揺しているときに考えていることを専門的に「自動思考」といいます。認知行動療法では、このような認知を変えていくことで出来事への感じ方を変える作業をしていきます。

1-2.行動原則

『認知行動療法では、「行動」は心理状態の維持や変化において重要な役割を持っているとみなしています。』

先に挙げた例を再び取り上げてみましょう。もしあなたが1つ目の認知(「私のことをつまらない人だと思っているのだろうではないか」)、あるいは2つ目の認知(「私のことを好きな人など誰もいない」)を持っていたとします。

その後にあなたが取る行動は、あなたの不安や抑うつが維持されるかどうかに影響を与えることになります。
 

行動を変えてみる

ここで、あなたは不安や抑うつを乗り越えて知り合いの人に近寄って話しかける、という行動をとったとします。その時あなたは、その人が自分を無視したのではなく、本当に気が付いていなかったことを知ることになります。結果的にあなたは、その後物事を否定的に考える傾向が少なくなっていくかもしれません。

逆に、もしあなたが知り合いの人を見て見ぬふりをして通り過ぎたとしましょう。そのような場合には、あなたは自分の考え方が間違っていたかどうかを知る機会を失います。そして、否定的な思考とそれに関連する感情(不安・抑うつ)が維持されることになるでしょう。

したがって、『認知行動療法では、「行動」が思考や感情に強い影響を及ぼす可能性があること、そして「行動」を変えることは、しばしば思考や感情を変化させる強力な方法となることを重要な原則としているのです。

認知行動療法の進め方

認知行動療法の特徴として、

①セラピスト(治療者)とクライエント(相談者)が「協働的」であること、
②セラピーをどのように進めるかを決めていくこと、
③クライエントの「問題」を解決するために進めるセラピーの期間が短い、などが挙げられます。

これらの特徴に沿って、認知行動療法の進め方を説明します。

2-1.セラピストとクライエントが「協働的」である

基本的に認知行動療法は、セラピストとクライエントによる「協働」作業となります。セラピストとクライエントは互いに、積極的に、各々の担当領域の専門家として認知行動療法に参加します。言い換えれば、セラピストは問題解決のための効果的な方法を知っており、クライエントは問題の当事者として多くを知っているのです。

2-2.セラピーをどのように進めるかを決めていく

セラピーの初めは、セラピストとクライエントの「協働」作業により、クライエントが認知行動療法に対して何を期待しているかを明らかにすることが大切です。そして、それに沿ってアジェンダといわれる、セラピーをどのように進めていくかの予定表のようなものを作成します。認知行動療法は、おおむねこのアジェンダに沿って進めていきます。

2-3.クライエントの「問題」を解決するために進める

クライエントが抱える問題には、不快な気分、対人関係の難しさ、失業などの職業上の問題など、様々あるでしょう。認知行動療法では何が「問題」であるかを見極め、その問題を解決、低減することに焦点を当てます。どの問題に取り組むかについてセラピストとクライエントが合意したら、問題ごとに目標を設定します。また、目標達成のために、次回のセッション(面接)までの宿題を設定します。

目標設定の過程でクライエント自身に明確にしてもらうことは、セラピー終了の時点でどのようになりたいと願っているか、そして、現在の自分とどのような点で変わっていたいと思うか、ということです。

2-4.セラピーの期間が短い

認知行動療法は他のセラピーと比べて短期のセラピーです。ここで「短期」というのは、6回から20回のセッションだということです。問題の程度によってセッション数は異なりますが、セラピストとクライエントが協働して問題に対して取り組み、問題が解決・低減したとお互いが合意した場合、セラピーは終了します。

おわりに

認知行動療法の起源は、先に述べた通り認知療法と行動療法にあります。メンタルヘルスの問題に対して、前者は出来事に伴う意味を理解して変えていくことが重要だと強調し、後者は行動を変えることが重要だと強調しています。この2つの療法の良さが重なり合った認知行動療法は、様々なメンタルヘルスの問題を改善させる効果があると実証されています。認知行動療法は、自分のメンタルヘルスの問題に向き合いたい、解決したいという方の手助けになる心理療法であるといえます。

参考文献

内山喜久雄・坂野雄二(2008).『認知行動療法の技法と臨床』.日本評論社
Westbrook, David A. Kennerly, Helen Kirk, J.R.『認知行動療法臨床ガイド』(下山晴彦監訳(2012) 金剛出版)

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